海洋酸性化のサメへの影響海洋酸性化でサメの歯が溶ける?地球温暖化だけではないCO2排出の意外な影響とは?

人間が沢山のCO2を排出することで地球の平均気温が上がる「地球温暖化」という環境問題は、ほとんどの方はご存知でしょう。

毎年の夏が地獄みたいな暑さなので、否定したくても認めざるを得ない感があります。

しかし、排出された大量にCO2は地球温暖化の原因になるだけでなく、海の水を酸性化に近づけることで様々な海洋生物に影響する海洋酸性化という問題も存在します。

この海洋酸性化が貝類やウニなど人気海産物に影響するリスクが以前から指摘されてきましたが、最近になって海洋酸性化がサメの歯を劣化させると示す研究も発表されています。

  • 海洋酸性化とは何なのか?
  • サメの歯にどんな影響をもたらすのか?
  • 他に考えられるサメへの影響はあるのか?

「海洋酸性化によるサメへの影響」というテーマで、上記のようなトピックを解説していきます。

目次

解説動画:海洋酸性化でサメの歯が溶ける?地球温暖化だけではないCO2排出の意外な影響とは?

このブログの内容は以下の動画でも解説しています!

※動画公開日は2025年9月26日です。

海洋酸性化は海がアルカリ性から酸性に近づく現象

まず海洋酸性化とは何か、なるべく簡単に説明します。

海洋酸性化を一言で表せば、海の水質がアルカリ性から酸性に近づく現象です。

海に吸収されるCO2

人間活動によって排出された大量のCO2が大気中に残留して温室効果ガスになるというのはもうご存知かと思いますが、このCO2の一部は海に吸収されます。

最初に述べておくと、これには良い側面もあります。

まず吸収されたCO2は植物プランクトンの光合成に利用されます。すると海水内に酸素が発生して植物プランクトンも増えるため、それを利用する生物(消費者たち)が繁栄します。

さらにこの食物連鎖を経てCO2が生物の遺骸などの形で沈んでいき、海の深い場所に蓄積していきます。これを生物ポンプと呼びます。

つまり海がCO2が吸収されることで海の生態系が豊かになるだけでなく、莫大な量のCO2を貯めておく貯蔵庫として機能し、地球温暖化を和らげる効果も持っているんです。

人類が排出した炭素は温室効果ガスとなるだけでなく海にも吸収されます。

CO2が多く溶け込むと海が酸性に近づく

しかし、あまりにも海に溶け込むCO2の量が多いと、海が酸性化するという別の問題が発生します。

液体(水溶液)は水素イオンの濃度によって、アルカリ性と酸性に分かれます。pHという単位を使い、pHが高いほどアルカリ性、低いほど酸性に近くなります。

水素イオン濃度によってアルカリ性と酸性に分かれる

ちなみにこの「酸性」は、『エイリアン』で出てくる血液のように人や物を溶かしてしまう酸とは全く別物です。

海域や深度によっても異なりますが、本来の海水はpH8~8.1の弱アルカリ性とされています。これが酸性に傾いていくのが海洋酸性化です。

大気と海洋では二酸化炭素の出入りがあり、以下のような化学式で表せます。

二酸化炭素が海に溶け込む量が増えると、この化学式の1と2の反応がどんどん下に進み、水素イオンが発生します。水素イオンが増えるとpHが下がり、海が酸性化する(より厳密に言えば酸性側に寄っていく)というわけです。

海洋酸性化でカルシウムを利用する生物が影響を受ける

この海洋酸性化によって起こる問題の一つに、炭酸イオン濃度の低下があります。

小さなプランクトンの仲間や貝類、ウニなどの棘皮動物、サンゴなど、海に生息する様々な生き物は、海水中に含まれるカルシウムイオンと炭酸イオンを使って、自分の殻や骨格を作っています。

しかし、海洋酸性化が起こる過程(先の図内3の式)で炭酸イオンが減少します。すると、こうした生物は殻や骨格を作りづらくなり、体がもろくなってしまったり、うまく成長できないなどの問題が起きることがあるんです。

実際にムラサキウニやマガキなどを対象に行われた実験では、海水が酸性よりだと幼生の形が歪になったり体の一部が短くなったりなどの変化が確認されています。

海洋酸性化は地球温暖化に比べると話題に上がることが少ないですが、海の幸を含めた多くの生物に今後より深刻な影響を与えるリスクのある、重大な問題なんです。

海洋酸性化が進むとサメの歯が溶ける?

では、海洋酸性化によってサメにどんな影響が起きるのでしょうか。

今回実験に使われたのはツマグロ(Carcharhinus melanopterus)というサメです。

各ヒレの先が黒いことが特徴のサメで、メジロザメ目メジロザメ科メジロザメ属に分類されています。

多くの水族館で展示されているので、サメ愛好家でなくとも一度は見たことがあるかもしれません。今回の実験に使われたツマグロも、ドイツの水族館で飼育されていた個体でした。

ツマグロ

ハインリッヒ・ハイネ大学のマクシミリアン・バウム氏を含む研究チームは、飼育下のツマグロ10尾から抜け落ちた歯を実験用に採集して傷のないまたは限定的な歯を選び、それらを二つの水槽に入れて8週間放置しました。

水槽それぞれの水量は20リットル。片方の水槽には現在の海洋の平均に近いpH8.2の海水を入れ、もう一方の水槽はより酸性化したpH7.3の海水を入れました。

このpH7.3という数値は、「CO2が現在のペースで排出され続けた場合、2300年時点の海水のpHが7.3になる」という過去の推定に基づいています。

それぞれの水槽に置いておいた歯を電子顕微鏡で観察した結果、pH7.3の水槽に入れていた歯の表面にはひび割れや穴のような損傷が目立ち、根元の部分が腐食していたり、構造上の劣化が起きていると確認されました。

電子顕微鏡で撮影されたツマグロの歯
電子顕微鏡で撮影されたツマグロの歯

この結果から研究チームは、海洋酸性化が進行した場合、サメ類の狩りの成功率や食事量、最終的には生存そのものに影響してしまう可能性があるとしています。

生きたサメを使った実験では違う結果も

今回の実験結果は海洋酸性化によってサメの歯が悪影響を受けると示しましたが、実は過去に、むしろサメの歯は海洋酸性化に強いと示す研究が発表されています。

2022年1月にGlobal Change Biologyに論文が掲載されたこの研究では、実際に生きたポートジャクソンネコザメ(Heterodontus portusjacksoni)を使い、通常の海水よりpHが0.3低く水温が3℃高い水槽に入れた場合の歯の変化が調べられました。

ポートジャクソンネコザメ
ポートジャクソンネコザメ

その結果、海洋酸性化が進んだ環境下では歯の中に含まれるフッ化物含有量が増加し、通常の条件下で育った場合と変わらない歯の強度を維持できると示されました。

この研究に携わったうちの一人イバン・ナゲルカーケン氏は、先程紹介したツマグロの歯の研究についてCNNの取材に応じた際、以下のようにコメントしています。

既に抜け落ちた歯を対象にした今回の研究では、将来の海洋でサメが経験する状況や餌の消費に及ぼす影響を必ずしも反映しないかもしれない

海洋の酸性化、サメの歯にも影響及ぼす可能性 独研究』より引用

サメのウロコに影響を及ぼすと示す研究

一方で、歯ではありませんが、生きているサメを使った実験で海洋酸性化の悪影響が示された事例もあります。

2019年12月に学術誌『Scientific Reports』で発表された研究では、酸性化した水に長く晒されると、サメのウロコが侵食されることが示されました。

サメの体表面は皮歯または楯鱗飛ばれる小さなウロコで覆われています(これがいわゆる「サメ肌」の正体です)。

2019年の研究では、モヨウウチキトラザメ(Haploblepharus edwardsii)という小型のサメを生きた状態で使用し、通常の海水を入れた水槽と、pH7.3の海水を入れた水槽に分けて9週間ほど飼育しました。

その後サメの状態を確認したところ、普通の水槽で飼育したサメのうろこの損傷具合が9.2%だったのに対し、pH7.3の環境で飼育したサメでは25%という結果が得られました。

左側が通常の海水で飼育された個体の楯鱗、右側がpH7.3の海水で飼育された個体の楯鱗
左側が通常の海水で飼育された個体の楯鱗、右側がpH7.3の海水で飼育された個体の楯鱗

サメのウロコは外敵からの身を守るだけでなく、泳ぐ際の水の抵抗を減らすなどの役割もあるため、これらが脆弱になることはサメの生存率に大きく影響する恐れがあります。

またサメのウロコは歯と同じ成分で構成されているため、ウロコを侵食するということは、歯に影響が及ぶ可能性も考えられます。

まとめ

今回は「海洋酸性化によるサメへの影響」というテーマで解説をしました。

  • 海洋酸性化とは、海の水がアルカリ性から酸性に傾く検証で、炭酸イオンを利用する生物に悪影響を及ぼす。
  • サメの歯を使った実験で、海洋酸性化が進んだ環境ではサメの歯が劣化することが示された。
  • 生きているサメを使った実験ではメの歯が海洋酸性化に強いと示されたことがあるが、ウロコを侵食すると示す研究も存在する。

サメへの影響はまだ何とも言えない部分も多いため、

  • 海洋酸性化はサメにどこまで影響をもたらすのか?
  • サメに耐える力があるとしたらどの程度か?
  • サメの種によって影響の違いはあるのか?

などの問題は今後の研究で明らかにしていく必要がありそうです。

サメと共存していくためには、漁業による乱獲など目に見えるものだけではなく、こうした目に見えない脅威にも目を向けるべきだと思います。

参考文献

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