2025年10月、宮崎県にあるみやざき臨海公園でサメが目撃されたとして、宮崎UMKテレビなどのメディアで紹介されました。
サメの大きさは1m前後で各ヒレの先に黒い模様が確認できます。

このサメを撮影したのは犬の散歩に来ていた男性だそうで、

ほぼ毎日のように見ています。ちょっと回れば海水浴場なので、大きくなるサメなのか、あのままなのか分からないので怖いですよね。
というコメントをされていました。
さらにこのサメについて取材を受けた大阪海遊館の職員の方は、「メジロザメの仲間としか言えない」としつつも、以下のような見解を述べています。



写真を見て雰囲気はツマグロにかなり似通っているなという気はしたが、もし宮崎で見られたとしたらかなり珍しい
このニュースの重要なポイントは、もしこれが本当にツマグロというサメであれば、恐らく日本国内における北限記録の更新であり、今まで知られていたよりずっと北まで分布しているということです。
- では、今回撮影されたサメは本当にツマグロなのか?
- 違うサメだとすればどう見分けるのか?
- 現れたサメは危険なのか?
今回はみやざき臨海公園に現れたサメについて解説していきます。
解説動画:宮崎県の臨海公園にサメ出現!正体はツマグロ?危険なサメ?
このブログの内容は以下の動画でも解説しています!
※動画公開日は2025年11月21日です。
ツマグロの特徴や分布
先に結論を言ってしまうと、今回見つかったサメはツマグロではないと僕は考えています。
それを説明する上で、まずはツマグロの特徴や分布を簡単に説明します。
ツマグロ(Carcharhinus melanopterus)はメジロザメ目メジロザメ科メジロザメ属に分類されるサメです。水族館でよく飼育されているサメなので、サメに詳しくない方でも一度は観たことがあるかもしれません。
大きさはニュースで紹介されていた通り大きくなると2m前後になりますが、だいたい1m~110cm程度で成熟する小さなサメです。
ツマグロの最も分かりやすい特徴は、各ヒレ先に黒い模様があることです。ヒレの端(ツマ)が黒いからツマグロと名付けられました。


そして今回の動画を語る上で重要なのは、彼らの分布域です。
ツマグロはインド太平洋の熱帯・亜熱帯域全域の沿岸に分布しています。分布域自体は広いですが、東南アジアやオーストラリア北部、ハワイ島近海など、水温が高い海域に限定されています。
日本での分布の話をすると、2017年に初めて八重山諸島近海でツマグロの記録が出たことで、国内にも分布していることが確認されました。それまでも生息しているという話はあったのですが、学術的に認められたのは割と最近です。
もしみやざき臨海公園で撮られたサメが本当にツマグロなら、沖縄県の海でしか記録のないサメがもっと北の宮崎県にも生息している可能性があり、学術的に非常に意味のある映像ということになります。
動画のサメはカマストガリザメの可能性あり
しかし先程も述べた通り、僕は今回撮影されたサメがツマグロではないと思っています。
もちろん、海遊館の方と同じように断言はできませんが「ヒレの先が黒いからツマグロ」と安易に決めるのではなく、別のサメの可能性も考えた方が良いでしょう。
その別のサメの最有力候補がカマストガリザメ(Carcharhinus limbatus)です。
カマストガリザメはツマグロと同じメジロザメ属のサメです。世界中の熱帯から温帯の海に広く生息し、日本では今回動画が撮影された宮崎県を含め、ツマグロよりも北側の海でも確認されています。
先程ツマグロの特徴として各ヒレの先が黒いことを挙げましたが、実はカマストガリザメも各ヒレ先が黒くなります。
成長するとこの模様が薄れて、特に第一背鰭先の模様はなくなっていきますが、1mくらいの小さな個体では顕著なことが多い印象です。


そのため両者を見分けるには、以下のような細かい特徴に注目する必要があります。
- ツマグロは吻が短く丸みを帯びているが、カマストガリザメはそれに比べて吻が長くてシャープな顔つき。
- カマストガリザメの第一背鰭はツマグロに比べて高くて鎌形である。
- ツマグロは第一背鰭先端の黒い模様が広い上その手前が白くなっているが、カマストガリザメは黒い部分がツマジロに比べて小さく手前が白くなっていない。
以上を踏まえた上で、もう一度宮﨑の海浜公園に現れたサメを観てみましょう。


分かりづらいですが、やや顔つきがシャープに見えます。また第一背ビレに着目してみると、先端の黒色部分の面積が小さめです。
したがって、この映像だけで断言するのは確かに難しいですが、このサメはツマグロではなくカマストガリザメである可能性が高いと思います。
メジロザメ類の見分けが難しい
先ほどから「断言するのが難しい」や「可能性が高い」という言い回しになっているのでモヤモヤする人もいると思います。しかし、海遊館の方がニュース内で仰った通り、メジロザメ類の見分けは非常に難しいのです。
ニュース内で良い例えが出てました。



種によっては脊椎骨の数を比較しないと分からないぐらい(判別が)難しい時もある
このようにパッと見て確認できない特徴で見分けないといけない仲間も多いことから、メジロザメ類の見分けは水族館職員や研究者でも迷います。むしろそういう詳しい人ほど見分けに慎重になると言ってもいいです。
「そう言われても実感が湧かない」という方向けに、実際に水族館でも試せる、比較的簡単なメジロザメの見分け方を一つ紹介します。
次に出す写真は新江ノ島水族館の大水槽で展示されているメジロザメ類、クロヘリメジロザメ(Carcharhinus brachyurus)とドタブカ(Carcharhinus obscurus)です。初めて見る方だとそもそも別種のサメだとも思わない気がします。




これらのサメを外見で見分けポイントは第一背鰭の形状と、背鰭間の隆起線です。
クロヘリメジロザメの第一背鰭は、正三角形に近い形をしています。対してドタブカは第一背鰭後縁が若干内側に入り込むようにくびれています。大きな個体だとここまで顕著でなくなることもあるようですが、一応見分けのポイントの一つではあります。
もう一つが背鰭間の隆起線です。サメ類の多くは第一背鰭と第二背鰭という二つの背鰭を持っています。種によってここに隆起した線があったりなかったりするので、これも見分けポイントになります。ドタブカの背中には隆起線が確認できますが、一方のクロヘリメジロザメには隆起線がありません。




他にも歯の形状などに違いがありますが、泳いでいる状態で、かつ変態的なマニアではない人が確認できる特徴はこの二点だと思います。繰り返しますが、これでもまだ簡単な方です。
実際に野生のサメの種を同定する場合はもっと多くの選択肢から絞り込まないといけませんし、ヒレ同士の微妙な位置関係、口の幅と吻の比率、そして先ほど出た脊椎骨の数など「生きている状態で調べるの無理でしょ・・・」と思える特徴で見分けないといけないケースも多いです。
さらに言えば、メジロザメ類は雑種の可能性もゼロではありません。
こうした見分けの難しさはツノザメ類など他のサメのグループや、サメ類ではない硬骨魚でも同じことが言えます。
もちろんホホジロザメとシロワニ、タヌキとアライグマのように「流石にこれは分かるでしょ」という区別もありますけど、少し詳しくなってその先に進むと、今説明したような細かい部分を理解する必要が出てきます。
生き物の見分けは一般に想像される以上に難しく、詳しくなればなるほど迂闊なことが言えなくなるか、一般時では到底分からないような細部を調べるオタクになっていくという、とっても深い闇深い領域なんです。
そのためサメに限らず、専門家が断言できないと言った時は「専門家なのに分からないの?」などと言わず、生き物の見分けはそれだけ難しいのだと思って頂けると幸いです。
宮崎県のカマストガリザメは危険なのか?
今回撮影されたサメがカマストガリザメだとして、今後事故が起こるリスクはあるのでしょうか。
グーグルマップで件の臨海公園を確認すると、ビーチやマリーナなどがすぐ近くにあり、確かに人との遭遇を心配する人の気持ちは理解できます。
しかし結論から言えば、過度に心配する必要はないと思います。
カマストガリザメはツマグロよりは大きくなるサメですが、それでもだいたい全長2m前後です。歯の形状やこれまで判明している食性からしても、積極的に人間ほど大きな動物を襲うサメではありません。
一応米国フロリダ州ではサーファーなどがカマストガリザメに噛まれる事故がたまに起きているものの件数は少なく、確認されれている死亡事故は1件のみです。
またカマストガリザメは九州近海で元から漁獲されているサメで、河口付近など浅瀬に現れることも珍しくありません。実際に宮崎県に住むサメ仲間の方に話しを聞いたところ、このみやざき臨海公園では以前からカマストガリザメやアカシュモクザメの幼魚が見られたそうです。
そのため今回のニュースについては、「サメの数が増加している」や「地球温暖化の影響で集まってきている」ということではなく、元からその辺にいたサメがたまたまニュースで取り上げられただけと思っていいでしょう。
もちろん相手は野生動物なので最低限の警戒や距離感は大事ですが、今まで宮崎県で事故が起きていない、あるいは件数が少ないのであれば、そこまで危険視する必要はないと思います。
まとめ
今回は宮崎県のみやざき臨海公園で撮影されたサメについて解説をしました。
- もしツマグロであれば北限記録の更新となるが、確認できる特徴からはカマストガリザメである可能性が高い。
- ただし、メジロザメの見分けは難しいのでカマストガリザメだと断言することは難しい。
- 仮にカマストガリザメだとしても過度に危険視する必要はない。
今回はツマグロである可能性が低いという話になってしまいましたが、皆さんが撮影したサメの映像が学術研究において重要な意味を持つ可能性は十分になるので、海の近くに行ったときは「サメがいないかな」と水面を探してみるといいかもしれません・・・。
参考文献
- David A. Ebert, Marc Dando, and Sarah Fowler 『Sharks of the World a Complete Guide』2021年
- Florida Museum of Natural History『Blacktip Shark』(2025年11月30日閲覧)
- UMKテレビ宮崎『臨海公園で1メートル級サメ目撃 宮崎市民「海水浴場も近く怖い」 専門家は「メジロザメの仲間」と指摘 珍しい「ツマグロ」の可能性も』2025年(2025年11月30日閲覧)
- 日本板鰓類研究会『板鰓類研究会報 第53号』2017年
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