ワシントン条約でサメの規制強化!ジンベエザメもマンタも取引禁止に!絶滅危惧種を守れるか?【COP20】

2025年11月24日~12月5日、ウズベキスタン共和国のサマルカンドにて、ワシントン条約第20回締約国会議(COP20)が開催されました。

「ウナギの取引が規制されるかもしれない」とマスメディアも大々的に報じていたので、そのような会議があったこと自体はご存知の方も多いと思います。

今回ウナギの規制案は否決されましたが、ジンベエザメを含む複数種の国際取引が禁止になるなど、サメ類の規制に大きな変化がありました。

  • ワシントン条約とはそもそも何か?
  • サメ類に関する規制がどのように変わったのか?
  • 規制によってサメを守ることができるのか?

今回はワシントン条約第20回締約国会議(COP20)によるサメ類の規制変更について解説し、上記のような疑問にお答えしていきます。

目次

解説動画:ワシントン条約でジンベエザメやマンタの規制強化!絶滅危惧種を守れるのか?

このブログの内容は以下の動画でも解説しています!

※動画公開日は2026年1月12日です。

ワシントン条約とは国際取引を規制する条約

ワシントン条約の正式名称は「Convention on International Trade in Endangered Species of Wild Fauna and Flora」です。

日本語にすると「絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約」と言います。ワシントン条約という呼び方は、1973年にワシントンで採択されたことに由来しています。

英語名の頭文字をとって「CITES(サイテス・サイティーズ)」と呼ばれることも多いです。どっちの呼び方もナチュラルに使われます。

ワシントン条約の目的はその正式名称にある通り、野生の動植物が国際取引における過度な利用によって絶滅しないよう規制することです。

例えば食材として人気である、体の一部が高級な装飾品になる、マニアがペットとして飼いたがっているなどの理由で、国際的な取引の対象になる生き物が世界には数多くいます。また、狩猟した珍しい動物の頭部などを記念に持ち帰るトロフィーの習慣というものも存在します。

しかし、そうした需要のままに生き物をどんどん捕まえたり売買していくと数が減っていき、やがては絶滅してしまう恐れがあります。そういう事態を防ぐために取引を制限するための条約です。

規制が必要と考えられる生物を三つの附属書(appendix)に分けてリストアップしており、附属書によって異なる規制が課されます。

ウナギに関する議論で勘違いしている人が多かったのですが、「ワシントン条約の附属書に掲載されると取引禁止」というわけではありません。附属書Ⅱであれば輸出国が無害証明( Non-detriment finding、NDF) を出すことで商業取引も可能です(今回EUが提出していた案はウナギ類の附属書Ⅱ掲載)。

この附属書の内容を見直すため、2~3年ごとに締結国会議が開催されます。この会議は他の国際条約と同じようにCOP●●と呼ばれ、今回は20回目なのでCOP20です。

この会議で新たな附属書への掲載、掲載する附属書の変更、または削除に関する提案がなされ、投票に参加した締結国3分の2の賛成票によって採決されます。

COP20によるサメ類の附属書掲載および変更

COP20でサメ類の附属書掲載にどのような変化があったのかを早速結果を見ていきましょう。

附属書Ⅰ掲載
  • ヨゴレ
  • ジンベエザメ
  • イトマキエイ科
附属書Ⅱ
  • アイザメ科
  • ホシザメ属
  • イコクエイラクブカ
その他規制の変更
  • ミナミサカタザメ属(野生捕獲個体の輸出割当量ゼロ)
  • トンガリサカタザメ属(野生捕獲個体の輸出割当量ゼロ)

まず、これまで附属書Ⅱに掲載されていたジンベエザメとヨゴレ、そしてイトマキエイの仲間が附属書Ⅰに移行しました。板鰓類が附属書Ⅰに掲載されるのは、2007年のノコギリエイ類の掲載以来初となります。

次に、これまで附属書には載っていなかったアイザメ科、ホシザメ属、イコクエイラクブカが附属書Ⅱに新規掲載となりました。

さらに元々附属書Ⅱに掲載されていたミナミサカタザメ属(giant guitarfis / Glaucostegus)、トンガリサカタザメ属(wedgefish / Rhynchobatus)について、附属書の変更はありませんが、野生捕獲個体の輸出割当量ゼロ(zero export quotas)という決定がなされました。

輸出割当量とは、1年間に輸出できる特定種の標本の数または量に関する上限です。「取引するにしても、どれくらい取引していいか制限をつけましょう」という、附属書とはまた別のルールです。それをゼロにするということは、実質的な商業取引の停止を意味します。

附属書掲載および変更の根拠

続いて、これらの提案が妥当だとする主な根拠について、CITESから公開されている文書を元に紹介します。

全部を細かく話すと長くなってしまうので、附属書Ⅰに重きを置いて解説していきます。

ヨゴレの附属書Ⅰ掲載

ヨゴレ

ヨゴレはメジロザメ属に分類される外洋性のサメの仲間です。

2022年に行われた前回の締結国会議でメジロザメ科全種を附属書Ⅱに掲載という決定がされましたが、ヨゴレはそれ以前から個体数の激減を示唆する研究が発表されており、2013年には附属書Ⅱに掲載されていました。

今回そのヨゴレが附属書Ⅰに格上げされた主な理由はフカヒレの違法取引です。

フカヒレ取引の中心地である香港で出回っているヒレのDNAを調べた結果、CITESで確認しているデータの約70倍も多くヨゴレのヒレが市場に出回っていることが示唆されました。

つまり、正規の手続きを踏んでいない取引が横行していたことになります。

イトマキエイ科附属書Ⅰ掲載

イトマキエイ科というグループに馴染みのない方は、とりあえず”広い意味でのマンタの仲間”と考えてください。

一般に「マンタ」と認識されているオニイトマキエイ、ナンヨウマンタの他、「マンタ」なのか議論が分かれそうなイトマキエイなども含まれています。

マンタの仲間はダイビングや水族館で人気で食べたりするイメージはないかもしれませんが、実はその肉とエラが商取引されています。

濾過食をするマンタ類は大きな鰓と、口に入ったプランクトンなどのエサを濾しとるための鰓板という部位を持っています。この鰓板が漢方薬の材料として利用されているんです(効能について科学的な根拠はありません)。

2025年に発表されたレポートでは、附属書Ⅱに掲載されているにも関わらず、生息地域の22カ国からの違法かつ未報告の取引が継続的に行われていると示され、さらに不透明なオンラインでの取引が増加しつつあるという見解が示されていました。

さらに別の研究においてマンタ類の世界的な個体数激減が示唆されていること、乾燥後の鰓板は種レベルで詳細に同定することが難しいなどの理由から、イトマキエイ科全体を附属書Ⅰに移行するのが妥当とされました。

ジンベエザメ附属書Ⅰ掲載

ジンベエザメ

ジンベエザメについては国際取引の悪影響というより、生息地も消失などの悪影響が高まっていることを懸念しての掲載のようです。

先述の通りワシントン条約は国際取引による過度な利用から生物を守るための条約ですが、CITESの提案概要の文書では、以下のように前置きされていました。

The Convention Text does not require that trade be the main threat to a species for listing on Appendix I, but rather that trade must be subject to strict regulation “in order not to endanger further their survival”

(訳)条約の記載は、附属書Ⅰに掲載する上で、(国際)取引がその種への主要な脅威である必要は必ずしもなく、むしろ種の生存を更なる危険から守るために(国際)取引も規制されなければならないとしている。

『COMPENDIUM OF NEW SCIENCE MAKES SHARK AND RAY LISTINGS ALIGNMENT WITH THE CITES CRITERIA CLEAR』より引用。訳は筆者。カッコ内の「国際」は筆者が補っています。

そのうえで、気候変動によりジンベエザメの重要な生息地が失われつつあること、さらに気候変動の影響で分布が変わったことにより船との衝突のリスクが高くなったことを掲載の主な理由として挙げています。

ジンベエザメのヒレが香港市場で展示されていたことへの言及はありましたが、文書を読む限りは主要な掲載理由ではないように感じました。

附属書Ⅱ掲載種について

その他附属書Ⅱに関する解説も簡単にしておきます。

まずアイザメ類について、こちらは肝油目的の漁獲によって個体数が激減しているという研究を根拠にしています。

ホシザメ属およびイコクエイラクブカについては、こうしたヒレが小さなサメ類もフカヒレとして取引されていることなどを根拠に掲載が提案されたようです。

ミナミサカタザメ属とトンガリサカタザメ属はエイの仲間ですが、サメという和名が付くことからも分かる通り外見がサメ型で、彼らのヒレもフカヒレに利用されます。

これらのエイのヒレも附属書Ⅱの規制対象であるにもかかわらず、香港のフカヒレ市場で違法取引の存在が示唆され、輸出割り当てを制限すべきという提案がなされています。

以上の内容を反映した板鰓類のCITES附属書掲載状況はこのようになります。今回の採択によって、約70種以上のサメ類の取引が、新たにCITESの規制を受けることになりました。

ワシントン条約の附属書に掲載すれば種を守れるのか?

今回の附属書の新規掲載や変更についてどのように考えればいいのでしょうか。

まず大前提として、サメ類は海洋生態系において重要な役割を果たしており、彼らの個体数減少や絶滅は生態系に多大な影響を及ぼす恐れがあります。

また、サメ類は概して子供を産む数が少なく成熟までも時間がかかるため、乱獲には弱いという側面があります。安定的な大量消費に向けて養殖することも恐らく難しいです。

したがって、彼らが過度な取引で数を減らさないように一定のルールを課すこと自体は至極真っ当です。

今回のCOP20での決定についても、環境保護団体などはかなりポジティブに紹介していました。

This is a landmark victory, and it belongs to the Parties who championed these protections.

Today’s votes give them a real chance at recovery, and now we must carry this momentum through the final plenary vote and into swift implementation.


(訳)これは保護を擁護した政党たちによる画期的な勝利だ。

(訳)今日の投票は彼らに回復への現実的な機会を与えるものであり、私たちはこの勢いを最終の本会議投票を通じて保ち続け、そして迅速な実施へとつなげていかなければならない。

WCS Celebrates Historic and Sweeping Trade Protections for Sharks and Rays Adopted at CITES CoP20』内、ルーク・ウォーウィック氏の言葉を引用。訳は筆者。

しかし、ここで注意したい点が二つあります。一つは本当に目指すべきは附属書のダウンリストや掲載の削除であるということ、もう一つは規制強化が必ずしも最善とは限らないということです。

本来目指すべきは資源回復と規制緩和

絶滅が危惧される生物の規制が強まることは一見良いことに思えますが、逆に言えば規制が必要なくらい危機的状況であり、それが改善されていないということを指します。

本来であれば規制によって状況が改善し、持続可能な状態であると判断されて規制が緩められるのが理想のはずですこの理想を忘れてしまえば、附属書に掲載して規制を強めるという手段がゴールになってしまい、本来の目的を見失ってしまいます。

実際にCITESで大西洋クロマグロの掲載が議論された際に、掲載を勝利として寄付者にアピールしたい環境保護団体の動きが影響したのではないかと指摘する専門家もいます。

またアフリカゾウの附属書掲載を巡って、個体数が増加している国については取引を認めようという提案でも認められなかったということが過去にありました。

規制強化だけでは混獲されるサメ種を守れない?

規制されている絶滅危惧種の違法取引は確かに良くないことですが、規制強化をしても問題が解決しない可能性があります。

例えばある絶滅危惧種のサメについて、採捕・水揚げ・商業取引全て禁止という厳しい規制をかけたとします。

しかし、漁業者は針を垂らしたり網を広げたりして、海の中の魚をまとめて捕ります。もちろん水中で一尾一尾選別はできないので、引き上げた時に偶然そのサメが獲れてしまうことがあります。いわゆる混獲です。

この時に、サメだけ分けてすぐに逃がせればいいのですが、魚が大量に獲れてサメだけ分けるなんて不可能だったり、船に揚げた時点で瀕死の状態になっていることがあります。

そうなるとその絶滅危惧種のサメはどうなるかと言えば、罰則を受けたくない漁業者によって海に捨てられたり、売り物にならない魚や残りカスといったゴミとして処理されます(肥料などとして利用)。もしくは未報告のまま違法に取引されることもあるでしょう。

この場合、水揚げや取引の記録に載らないのでデータ上は採ってないことになりますが、野生個体の死亡率は変わらない、つまり規制で絶滅危惧種を守れていないことになります。

ヨゴレのようなサメをどう守るのが適切か?

今ここで話したのはあくまで例え話であり、特定の種に関してこれが起きているという具体的なデータがあるわけではありません。

ただし、あくまで個人的な推測として、ヨゴレでこれと似たようなことが起きているのではないかと思っています。

ヨゴレは以前から延縄などで混獲されており、恐らく狙って獲れるようなサメではありません。

そのため、悪人が意図的にフカヒレ目的でヨゴレを乱獲しているというより、たまたま獲れてしまったどうしようもない個体のヒレを切って違法と知りつつ儲けようとしている人達がいる(少なくもそういった経緯で出回るヒレの方が多い)かもしれないと思うわけです。

もし上記の推測が正しい場合、規制を厳しくするよりも漁獲や取引を許したうえでデータの提出を義務付け、それを元に禁漁区や禁漁期間を設定したり漁法の改善を強制する、などの施策が有効な可能性もあります。

今回のCITESの附属書掲載が吉と出るか凶と出るかはまだ分かりませんが、サメ類の規制が強化されることは全部良い事と単純に考えるのでなく、何が最善なのかより広く深く見ていく必要はあると思います。

参考文献

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