1975年にサメ映画の原点にして頂点『ジョーズ』が公開されて以来、『ジョーズ』をパクったような駄作が乱立した後、約20年の時を経て誕生したサメ映画、『ディープ・ブルー』。
最初から最後までサメが出ずっぱり、海中研究施設で知能の高いサメが襲ってくるという斬新な設定、クライマックスに待ち受けるまさかの展開など・・。まさに最後まで目が離せない名作です(上手なオムレツの作り方を教えてくれる作品でもあります)。
そんな名作『ディープ・ブルー』ですが、現実のサメの生態や研究について発信する立場からすると、やはりツッコミどころが豊富です。
そこで今回は、『ディープ・ブルー』のツッコミどころというテーマで、気になるポイントをいくつか解説していきます。
本記事には映画に関するネタバレを含みます。ネタバレに関する責任は一切負いかねます。また、あくまで気になる箇所を紹介するだけであって、作品を貶める意図はありません。ご理解の上でお読みください。
解説動画:傑作サメ映画『ディープ・ブルー』にサメマニアが本気でツッコミ入れてみた
このブログの内容は以下の動画でも解説しています!
※動画公開日は2026年8月7日です。
デカすぎるアオザメと色塗りイタチザメ
まず最初に取り上げたいのはサメの造形です。
本作で主に活躍(というか暴れ回るのは)アオザメです。このアオザメの再現自体は割と良くできていました。
現実のアオザメの分かりやすい特徴をいくつか挙げると、以下の通りです。このうち、太字で示すものは作中のサメでよく再現されていたと思います。
- 先が尖った長い吻
- 黒くて大きな目
- 細長くて鋭い歯
- 流線形の体型
- メタリックブルーの美しい体色
- 三日月形の尾鰭

細かく見ていけば、作中のアオザメは第一背鰭の先が若干尖りすぎていたり、顔に対して目がやや小さい気がする、生きているアオザメにしては体が黒ずんで見えるなど気になる点はあるものの、アオザメだと言われて納得できる姿でした。
ただし、さすがにサイズがデカすぎです。
登場するサメの中で一番大きいサメ(クライマックスで爆発)についてカーターは「45feet shaek」と発言しています。メートルに換算すると13mを超えており、もはやメガロドンです(実際のアオザメは大きいものでも3~4m前後)。
もっともサイズが盛られるのはモンスターパニックあるあるなので大目に見るとして、一番問題なのがもう一種のサメ、イタチザメです。
物語の舞台となる研究所アクアティカでは、実験対象のサメとは別に普通イタチザメを飼育していることになっているのですが、ただ単にアオザメの見た目のサメに縞模様を塗っただけの姿で出てきます。
まるで中国のパンダ犬(チャウチャウをパンダ模様に染色した犬)か、出来の悪い生成AIのサメのようです・・・。
互いに似ているサメならまだしも、実際のアオザメとイタチザメは顔つきも歯の形状も何から何まで違います。ついでに言えば分類上もネズミザメ目とメジロザメ目という離れたグループのサメです。

しかも、ここで余計に残念に感じるのは、『ディープ・ブルー』の製作陣は絶対に『ジョーズ』で本物のイタチザメを知っているはずということです。
『ディープ・ブルー』でイタチザメが登場するシーンでは、咥えていたナンバープレートの番号が『ジョーズ』でマット・フーパーがイタチザメの胃から取り出すものと同じという、オマージュが採用されています。
『ジョーズ』本編では本物のイタチザメの死体を使ったシーンもあるので、製作陣も恐らくイタチザメの見た目は把握していたことでしょう。
予算の都合なのか他に理由があったのかは不明ですが、確信犯的に手抜きをしたという点で、サメ好きとしては遺憾の意を表明したいです。
サメは癌にならないという嘘
サミュエル・L・ジャクソン演じるラッセル・フランクリンに対し、研究者の一人ジャニスがサメについて説明をする場面にて「サメは癌にならない」というセリフが出てきます。
これは単純に誤りで、サメは癌になります。
American Association for Cancer Research(AACR)がまとめた報告では、カマストガリザメ、ヨシキリザメ、イタチザメ、アメリカナヌカザメ、Spiny dogfishなど複数のサメ類、その他エイ類やギンザメ類などの軟骨魚類で、良性または悪性の腫瘍が確認されています。
本作に登場するアオザメと比較的近い仲間のホホジロザメでも腫瘍が確認されており、サメが癌にならないというのは明らかな誤りです。
恐らくこのセリフの元ネタと思われるのが、『ディープ・ブルー』が公開される7年前の1992年に出版された『Sharks Don’t Get Cancer』という本です。
この本はサメが癌にならないと完全否定したわけではないのですが、サメが癌になるのは極めて珍しいと主張しており、サメ軟骨が癌の治療に効果的であると示すような内容が書かれています。
しかし、先程述べた通りサメは癌になります。
サメ類が癌になるのが稀であるという見解についても、AACRは以下のような可能性があるとして、実際にサメが癌になりにくいと決めつけることはできないとしています。
- 発がん性物質にさらされにくい環境にいるだけの可能性
- 癌になることで生存率が落ちて人間に発見されづらくなっているだけの可能性
- 単純に軟骨魚類の癌について行われた調査が少ないことが原因である可能性
サメ軟骨の効能についても、後に行われた研究でサメ軟骨が癌に有効だという証拠は示されず、現在は根拠のない俗説とされています。少なくともサメ軟骨のサプリを食べるだけで癌の予防や治療になることはないでしょう。
もっとも『ディープ・ブルー』公開当時は今ほど検証が進んでいなかったと思うので、このセリフが入っていること自体は仕方ないと思います。
しかし、このような誤った生き物雑学から「標準医療ではない、あまり広まっていない治療法が実は有効である」という話につなげ、ニセ科学やスピリチュアルを用いたインチキ商品、医療関係の陰謀論へ勧誘されるケースがあります。
不安を抱える人々に何の効果もないゴミを高額で売りつけたり、怪しいサロンに勧誘して長期的に搾り取ろうとする連中が世の中には潜んでいるので、十分に注意が必要です。
後ろに泳いだり一時停止したりするサメ
続いて紹介するのはサメの動きについてです。ここでは二つまとめて紹介します。
サメは後ろに泳げない
水中の通路を進むカーターを襲おうとした二尾のアオザメが銃を認識したような素振りを見せ、後ろ向きに泳いで退却するというシーンがあります。
その後、調理場でコックのシャーマンがサメに襲われるシーンでも、サメがガラスを突き破る際に助走をつけるように後ろに下がっていきます。
ここでの問題はシンプルで、サメは後ろ向きに泳げないということです。
硬骨魚の仲間(いわゆるサメ類ではない魚たち)の中には、胸鰭を器用に動かして、後ろ向きに泳ぐことができるものもいます。
しかし、アオザメをはじめとする多くのサメ類は胸鰭をそこまで器用に動かすことができず、後ろ向きに進むことはできません。
テンジクザメ目のサメの中には胸鰭を柔軟に動かすことができる仲間もいて、その中でもモンツキテンジクザメの仲間は、胸鰭と腹びれを脚のように使って歩くことすらできますが、それでも後ろ向きに泳ぐということはできないようです。

カーターがサメと対峙するシーンでは、サメが後ろ向きに泳ぐことが高い知能の現れみたいに匂わせていますが、これは知能ではなく体の構造の問題なのでどうにもなりません。
アオザメは一時停止できない
もう一つの動きが、水中での一時停止です。
クライマックスにて、サメをおびき寄せるための囮になろうと海に飛び込んだスーザンの前にアオザメがやってきます。ここでサメが一旦泳ぐのを止めて、まるで品定めでもするかのようにその場で停止するシーンがあります。
しかし、サメはこんな風に一時停止できません。
鰾をもっている硬骨魚であればこういう風に浮いていることが可能ですが、サメの体には鰾がありません。泳ぐのを止めてしまえば、体は沈んでいきます。
しかもアオザメは泳ぎ続けることでエラに水を送る「ラム換水」という方法で呼吸しているので、仮に止まれたとしても結構苦しいと思います。
もっとも、例外的に水中での一時停止ができるサメもいます。
シロワニというサメを観察していると、他のサメであれば沈んでしまうようなゆっくりとしたスピードで泳いだり、完全に泳ぐのを止めた状態で沈まずに浮いていることがあります。
彼らは水面から空気を体内に取り込むことによって、鰾を持つ魚のように浮力を維持することができるのです。
なので、シロワニであれば、あのシーンはあり得たかもしれません。

実験対象となるサメの種
映画の設定の根本に関わる内容ですが、「実験用のサメとして飼育するのがアオザメ」という点が、本作一番のトンデモ要素かもしれません。
アオザメは大きいものだと全長3mを超える大型種です。呼吸のために常に泳ぎ続ける必要があり、外洋性のサメなので恐らく狭い環境にも相当慣れにくいです。実際、世界のどの水族館でも長期飼育の実績がありません。
この記事の原案を作っている2026年7月に、仙台うみの杜水族館でたまたまアオザメが展示されたんですが、1日半ほどで展示が終了してしまいました。
飼育に向いていない要素ばかり揃っているアオザメという種を、なぜスーザン達は実験対象に選んだのか、不思議でしょうがないです。
これに関連して気になるのが、実験ザメに対する「第一世代」「第二世代」という呼び方です。まさか、飼育下での繁殖に成功していたのでしょうか・・。下手するとアルツハイマー病の治療薬開発より難しい気がするのですが・・。
実際に生理学の研究や、免疫系を調べる実験などでサメを飼育している研究施設では、トラザメやテンジクザメの仲間など、小さくて大人しい種で実験していることが多いです。
こうしたサメ達の方が飼育法が確立していて飼いやすく、飼育コストも安く済み、サンプル数を多く確保することができます。

何かしらの理由で大きなサメでないといけなかったとして、もっと飼いやすいサメはいたと思います。
例えば先程も出てきたシロワニは、世界各地の水族館で長期飼育の実績があるサメです。サメらしい姿をした全長3mを超える大型種の中では、最も飼いやすいサメの一種かもしれません。
米国という土地柄も考えた候補だと、ニシレモンザメなんかも良さそうです。こちらも水族館で長期飼育の実績があるうえ、サメの社会性や知能に関する実験で使われたこともあるので、脳の研究というコンセプトにもマッチしているように感じます。

こうしたサメたちなら、もう少し小さな陸上の施設でも飼育できたので、事故が起きたとしてもあんな大惨事にならなかった気がします(それだと映画が成立しないと言われれば、それまでですが・・)。
ちなみに『ディープ・ブルー』公開の約20年後に作られた続編では、サメの種がアオザメからオオメジロザメに変わっています。
『ディープ・ブルー2』はかなり酷評されている作品で、僕もあまり好きではありませんが、オオメジロザメの方がまだアオザメよりは飼いやすいサメです。なので、サメの種のリアリティというだけを考えれば、改善していると言えるかもしれません。

参考文献
- Gary K. Ostrander, Keith C. Cheng, Jeffrey C. Wolf, and Marilyn J. Wolfe『Shark Cartilage, Cancer and the Growing Threat of Pseudoscience』2004年
- Live Science(Douglas Main)『Sharks Do Get Cancer: Tumor Found in Great White』2014年
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