水族館のタッチングが無くなる?動物福祉とふれあいは両立できるのか?

ナマコのモニュっとした何とも言えない触り心地や、ガラ・ルファ(ドクターフィッシュ)に手足の角質を食べてもらうくすぐったい感覚を味わえる水族館のタッチプール。

生き物を見るだけでなく触れ合える場所としてお子さんなどに人気の展示ですが、実はこうしたタッチプールを廃止したり、内容を変更する水族館が増えています。

その背景には、生き物への負担という動物福祉の問題があり、さらにタッチプールという展示で何を伝えていくかという環境教育の問題もあると僕は考えています。

  • 水族館のタッチプールにはどのような問題があるのか?
  • 存続すべきか無くすべきか?
  • 存続させるならどう改善すべきなのか?

今回は「タッチプールは存続すべきかどうか?」というテーマで、実際に係員の経験もある僕がメリットや問題点、改善案などを解説します。

目次

解説動画:水族館のタッチングが無くなる?動物福祉とふれあいは両立できるのか?

このブログの内容は以下の動画でも解説しています!

※動画公開日は2026年2月1日です。

水族館のタッチプールが抱える問題点

「タッチプール」という言葉の説明を一応しておくと、水族館などにある生き物に触れるコーナーのことです。

ヒトデ、ナマコ、ヤドカリなど、磯に棲む小さな無脊椎動物が展示されていることが多く、大人しい小型のサメに触れる場所もあります。

生き物との触れ合いを楽しめる場所としてタッチプールは人気ですが、数多くの来館者が生き物に触っていくため、注意して運営しないと生き物への負担がかかります。

特に、ヒトデなどの動きが遅い生き物を水から出してしまう人、サメの背鰭や尾鰭をつかもうとする人などによって、生き物が過度なストレスを受け、怪我や衰弱の原因になることもあります。

2025年10月に毎日新聞はタッチプールを閉鎖したマリンワールド海の中道について以下のように報じました。

特に来館者が増える夏休み期間などは、衰弱してボロボロの状態に。死んでしまう個体も少なくなく、ヒトデは年間400~500匹を捕獲しては入れ替えて対応していた

無くなる?変わる?「タッチプール」 水族館が模索するふれあい改革』より引用

実際に僕も別の某水族館でタッチプールのスタッフをしていた時、ヒトデやヤドカリを水から出して触ってしまう人を何度も見てきましたし、状態が悪くなってると思える生き物も見受けられました。

これはマナーが悪い一部の人がやるというより、悪意のない子供が自然とやってしまったり、小さい子供によく見せようと親がやってしまうというパターンが多かったです。

もちろん水族館側も定期的に生き物を入れ替える、触り方の注意書きを設置するなどの対応をしています。しかし、それでも水から出してしまう人は一定数いますし、交代できる生き物の数にも限りがあります。

また、本来であれば問題行動を監視したり生き物について解説する係員がいるべきだと思いますが、人員不足が原因なのか、そうした人員がいないタッチプールも多くあるのが現状です。

世界動物園水族館協会の提言に反した運用方法

水族館のタッチプールがどうあるべきかについて、提言をしている団体があります。

それが世界動物園水族館協会です。英語名World Association of Zoos and Aquariumsの頭文字をとって「WAZA」とも呼ばれます。

2020年にWAZAは、タッチプールを含む動物との”ふれあい(interactions)について、動物園や水族館がどのように運営すべきかの提言を公表しました。その中には以下のような項目が含まれています。

動物の福祉を損なうようなふれあい体験を動物にしないでください。

来園・来館者が動物に不快感やストレス 反応を誘発させないようにしてください。

関わる動物と来園・来館者の安全と健康のために、経験豊富で権限を与えられたスタッフ または適切なボランティアが、必ず全てのふれあい体験を常に監督指導するようにするこ と。

世界動物園水族館協会(WAZA)動物と来園・来館者のふれあいガイドライン』より引用

生き物を入れ替えてもボロボロになってしまうタッチプールや係員がいないタッチプールは、当然これらの提言に反しており、動物福祉や安全管理の面で問題があります。

もっとも日本の水族館は、太地町のイルカ漁で獲れたイルカの利用に関する議論でWAZA(厳密にはWAZA加盟の国内組織であるJAZA)から脱退している施設も多く、WAZAの提言を無視したことで大きな問題があるわけではありません。

しかし、先に挙げた提言自体は至極真っ当であり、WAZAとの関わりに関係なく従うべき内容ではないでしょうか。

こうした管理体制や動物福祉の問題から、「タッチプールは無くなるべき」と動物愛護団体から批判されることがあります。また水族館が好きな方からも「存続して欲しいが改善すべき」などの声が上がっているんです。

水族館のタッチプールは存続すべきか?

以上を踏まえた上で、タッチプールは存続すべきでしょうか。それとも無くなるべきでしょうか。

XとYouTubeのコミュニティ機能それぞれでアンケートを取ったところ、以下のような結果になりました。

X(旧Twitter)でのアンケート(599票)
水族館のタッチプールは存続すべき?
存続すべき
61.6%
無くなるべき
28.7%
その他
9.7%
YouTubeコミュニティ機能のアンケート(167票)
水族館のタッチプールは存続すべき?
存続すべき
68%
無くなるべき
21%
その他
11%

こうしてみてみると存続すべきという意見が多かったのですが、投票のコメント欄に「時間を限るなどして生き物への負担を減らすべき」「やるなら監視員をしっかりつけるべき」など、改善を求める声が多く並びました。

僕の現状の意見も基本的には同じで、「生き物への負荷軽減と学習効果を考えて存続すべき」だと考えています。

生き物に直接触るというのは、ただ見るだけ・本で読むだけを越えたポジティブな影響を与えてくれます。

僕はサメ好きのお子さんおよびその保護者の方と話す機会があるのですが、「タッチプールでネコザメに触ったことがきっかけでサメに興味を持った」という声をよく聞きます。

そうした子の中には本格的な自由研究でサメを探求したり、大人が聞くような専門家の講義に参加してまでサメを学ぼうとする子も多く、長期的に考えて良い影響があることは確かだと思います。

博物ふぇすなどの展示会に出た時も、生体の展示ではありませんでしたが、サメの卵や顎を触れる展示で興味を持ってくれた方が結構いて、「やっぱりじかに触れる体験は人を惹きつける力があるんだな」と感じました。

またタッチングをしていると触った人から「初めて触った」や「思ったよりザラザラしない」など色々な感想が聞けます。普段から生き物に関わっていると一般的な感性を忘れがちなので、発信している側としてもタッチングという場から学べることは多いでしょう。

特にサメは未だに人喰いモンスターのイメージが強く、生態が誤解されていたり多様性が理解されていない側面があります。そうしたイメージを変えていく手段の一つとして、タッチプールという場は効果的な可能性があります。

タッチプールで展示されているドチザメ。その左に浮いているのはネコザメの卵殻。

ただし、そうしたプラスの効果があるとしても、やはり生き物への負荷軽減と学習効果を考えなければいけません。

解説員が付いていない状況でただ生き物がそこにいるだけという状況では、生き物は傷ついて来館者もなんとなく触るだけで終わる残念な展示になってしまいます。

仕組みやルールでタッチプールの改善を!

では、どのように実現すればいいのでしょうか?

ここで重要なのは呼びかけや来館者の意識みたいな曖昧なものに頼るのではなく、仕組みやルールで生き物の負担になりにくいタッチプールを設計することだと僕は考えています。

時間制限をすることで効果的な運用が可能

一番手っ取り早い仕組みが、時間や人数を制限した予約制タッチプールです。

例えばアクアワールド茨城県大洗水族館(以下アクアワールド大洗)では現在、サメに触るタッチプールは有料の事前予約制で、限られた人数が限られた時間だけサメに触れるようになっています。

こうすることで、トータルで生き物が触られる時間が短くなるうえ、人数と時間が限られているので係員が監督しやすく、生き物への負担を軽減することができます。

この時間制限という仕組みは他の園館でも取り入れられていて、先に挙げたマリンワールド海の中道の他、いおワールドかごしま水族館も2025年から特定の時間だけ触れるタッチプールに変更になっています。

アクアワールド大洗のタッチプールで展示されているアラビアンカーペットシャーク

この時間制限や事前予約制のもう一つの利点は、職員が生き物の解説をする時間を設けやすいという点です。

流動的にお客さんが来る場合、「この人は解説とか興味ある人かな・・」と考えたり、関心度が高いお客さん一人と話しながら他のお客さんの様子も見るという感じで、臨機応変な対応を常時求められます。

僕がスタッフをしていた時は「水の中で優しく触って下さーい」をbotのように繰り返しながら監督していたので、正直喉が疲れたりもしました・・。

しかし事前予約性であれば、お客さんは解説を聞きたいという前提で進められますし、参加する人数・タッチングの時間が決まっています。

そのため、まずは座学で生き物の特徴や生態・触り方の注意点をしっかりと説明し、その後に一定の時間だけ生き物を触ってもらい、その様子をしっかり監督するというコントロールが可能になります。

実際にアクアワールド大洗のタッチングでは、事前にクイズ形式のサメのウロコについて学んだうえでサメに触っており、非常に有意義なプログラムだと感じました。

負担軽減のために逃げるスペースの確保も大事

生き物負荷を軽減するための施策としてもう一つ重要なのはスペースの広さと生き物の大きさです。

例えば大阪海遊館のタッチプールは面積がかなり広く、泳いでいるサメやエイも比較的大きいです。

十分なスペースがあればストレスを感じた動物たちが逃げることができますし、迷惑系YouTuberのような相当な悪意を持った人間がかなり無茶をしない限り、生き物を水から出すことも困難です。

海遊館のタッチプールで泳ぐホシエイ

先程も取り上げたWAZAの提言の中には「来園者・来館者とのふれあいに参加するかどうかの選択肢を動物に与えること」や「その種のニーズを満たす適切な広さと適切な避難場所を確保してください」という項目があります。

動物に触れないこともあるというのは一見マイナス面に思えますが、展示動物がストレスを感じたら逃げることができるというのも大事な要素の一つなんです。

このように、生き物への負担軽減を声掛けや意識などに頼るのではなく構造やルールとして組み込んでしまうことで、動物福祉の問題を改善するだけでなく、環境教育効果の向上につながる可能性があります。

生き物への興味関心、学びのきっかけの場所としてタッチプールが続いて行けるよう、少しでも状況が良くなっていけばいいですね。

まとめ

今回はタッチプールは存続すべきかどうかという点について僕なりに解説をしてきました。

今回の内容まとめです。

水族館のタッチプールは生き物と触れ合いを楽しめる場所であるが、展示されている生き物に負担がかかるという動物福祉の問題がある。

生き物が傷ついて死んでしまうタッチプールや係員がいないタッチプールは、世界動物園水族館協会の提言に反しており、動物福祉や安全管理の面で問題がある。

タッチプールを事前予約制にしたり、タッチングのスペースや対象動物を大きくすることによって、動物への負担を軽減したり効果的な教育の場所として活かせる可能性がある。

この記事を読んだ水族館に遊びに行く側の人は、水の中で優しく生き物に触るよう心がけて欲しいですし、解説を読んだりして生き物への学びを深めて欲しいです。

また水族館関係者やタッチングを使った啓発をしたいと思っている学生さんなどの皆様は、一人の現場の声、水族館好きの声として参考にして頂ければ幸いです。

参考文献

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