イスラエルのサメ密集ビーチで泳いだ男性が捕食される・・人喰いザメ事故の意外な原因

今年2025年4月に、イスラエルのビーチで男性がサメに襲われ、その様子の動画がネットに投稿されるという事態が起きました。

実際の映像はコチラ(閲覧注意)↓

こうしたシャークアタックのほとんどはホホジロザメ、イタチザメ、オオメジロザメという3大危険ザメによるものとされており、稀にヨゴレによる事故も起きたりしますが、今回の事故は本来であれば死亡事故を起こなさいような意外なサメによるものでした。

また事故発生の背景には、発電所による環境改変や観光客の問題行動など、人為的な要因があったと指摘されています。

  • どのような事故が起きたのか?
  • どんなサメが事故を起こしたのか?
  • 何故このような特殊な事故が起きたのか?

今回は「イスラエルで起きたシャークアタック」というテーマで、事故の詳細や考えられる事故原因について解説をしていきます。

目次

解説動画:イスラエルのサメ密集ビーチで泳いだ男性が捕食される・・人喰いザメ事故の意外な原因

このブログの内容は以下の動画でも解説しています!

※動画公開日は2025年9月13日です。

イスラエルのビーチで男性がサメに襲われ死亡

まずはどんな事故が起きたのか、概要をお伝えしていきます。

事故が起きたのは2025年4月21日、場所は地中海に面したイスラエルの街ハデラです。

イスラエル中央地区のペタフ・ティクヴァからビーチを訪れていた45歳の男性バラク・ザックさんがシュノーケリング中にサメに襲われました。

バラクさんがこのビーチに来たのもサメを見るのも初めてではなく、むしろサメを求めて彼はこのビーチを訪れていました。

実はこのハデラのビーチには近年、ヤジブカやドタブカといったメジロザメ類が11月~5月の水温が冷たくなる時期に多く見られるようになっていました(理由は後述)。

事故以前に現地で撮影されたサメの様子↓

事故が起きる前からこのビーチは遊泳禁止だったそうですが、岸からすぐ近い場所でサメが観られる観光スポットと化しており、バラクさんもサメを観察および撮影するために海に入っていきました。

そしてシュノーケルやGoProなどを身に着けて岸から100mほど沖を泳いでいたところ、突然バラクさんは「助けてくれ!」と叫び声をあげてもがき始めます。

ビーチにいた人たちはバラクさんに注目して何人かが携帯カメラで撮影を開始しますが、バラクさんはすぐに見えなくなってしまい、周囲の水が赤く染まりました。そして、彼が消えたあたりには水面から背鰭や尾鰭上葉が出して泳ぐサメの姿がありました。

事故の翌日4月22日、現場周辺の捜索によって遺体が発見され、同月25日にはバラクさんのものであると確認されました。

どのメディアでも遺体の状況については詳細に触れず「remains」としか表現していなかったのですが、身元確認を報じる文面からして、恐らく一部しか見つかっていないと思われます。

A man was killed in a shark attack off the coast of Hadera, police confirmed Wednesday, after human remains were positively identified by forensics experts.

(法医学の専門家が遺体の身元を特定後、水曜日に警察は、ハデラの海岸沖でサメに攻撃された男性が死亡したことを確認した)

Police confirm man killed in shark attack; victim named as Barak Tzach, 45』より引用(訳は筆者)

After a two-day search, police said remains that had been found at the site of the attack on the country’s Mediterranean coast matched those of the man.

(2日間の捜索の後、警察は国内地中海沿岸での攻撃現場で発見された遺体が、その男のものと一致すると述べた。)

Shark attack victim’s remains found in waters off popular beach in Israel after 2-day search』より引用。訳は筆者。

イスラエル自然・公園局のイガエル・ベン・アリ氏によれば、この事故はイスラエルで記録されている3件目のシャークアタックで、1940年代以降初めての死亡事故とのことです。

複数のドタブカによる特殊な事故

今回の事故において注目すべきポイントは以下の二つです。

  • 襲った種が危険度の低いとされる種であった。
  • 恐らく複数のサメが同時に被害者を攻撃している。

ドタブカとヤジブカの特徴

先程触れた通り、事故現場周辺にはドタブカ(Carcharhinus obscurusヤジブカ(Carcharhinus plumbeusという主に2種類のサメが、ビーチのかなり近くまで集まっていました。

どちらもメジロザメ目メジロザメ科メジロザメ属に分類されるサメで、和名のブカはフカヒレのフカ、つまりサメを意味します。

この「メジロザメ」というグループのサメは専門家でも見分けるのが難しいのですが、ヤジブカは第一背鰭が高くて大きく、比較的体の前方にあるという特徴があります。対するドタブカはヤジブカに比べると第一背鰭が小さく、ほんの少しだけ体の後ろ側にあります。

ヤジブカの特徴
ヤジブカの特徴
ドタブカの特徴
ドタブカの特徴

事故当時の映像だけで断言するのは難しいですが、映っている背鰭の形状や大きさから判断するに、バラクさんを襲ったのはドタブカだと思われます。

本来ドタブカは本来危険なサメではない

ドタブカはメジロザメ属の中でも割と大型で、大きいものだと全長3mを超えることもありますが、本来人間にとってそこまで危険な種ではありません。

そもそも、ほとんどのシャークアタックおよびシャークバイトとされる事故はホホジロザメ、イタチザメ、オオメジロザメによるものとされています(詳しくはコチラも参照)。

世界中のサメ関連事故をまとめているInternational Shark Attack File(ISAF、国際サメ被害目録)によれば、ドタブカによるUnprovoked bite(人間側に原因がないのにサメに攻撃された事故)は合計2件、そのうち死亡事故は1件でした。

もちろん先述の通りメジロザメ類の見分けは難しいので、種の同定ができていないあるいは誤っている事故の中にドタブカが含まれている可能性はありますが、それでもオオメジロザメなどに比べるとかなり事故件数は少ないはずです。

被害者を襲う複数のドタブカ

そんな危険度の低いはずのドタブカが、この事故では恐らく複数で人間を襲っています。

事故当時の映像を分析した論文によれば、襲われる瞬間の映像には、少なくとも二尾のドタブカと思しきヒレが映っています。

事故当時の映像には少なくとも2尾のサメが映っています。

また事故現場にいた目撃者の証言によれば、バラクさんは襲われた際「They’re biting me」と叫んでいたそうです。

もちろん自分を噛んでいるサメの数を数えていたわけではないでしょうが、この言葉からして少なくともバラクさんの近くには複数のサメがいた可能性が高いです。

つまり今回の事故は、本来滅多に襲わないような種のサメが、複数で人間を襲い死亡させたという、極めて特殊な事故だと言えます。

サメを集め事故を起こした人為的要因

何故このような特殊な事故が起きたのか?原因について考えてみます。

火力発電所の影響でサメが集合?

事故原因の前に、そもそも何故こんな岸の近くにサメが集まっていたのでしょうか。

サメが集まる主要な要因とされているのが、火力発電所の影響です。

事故現場近くにはオロット・ラビン・パワーステーション(Orot Rabin power station)というイスラエル最大規模の火力発電所があります。

火力発電所ではタービンを回すための蒸気を冷やして水に戻すため、海から取り入れた水を利用しています。この冷却に使った海水を排出することで、周辺の海水温が上昇するんです。

実際に発電所周辺の水温は、本来よりも約10℃も高かったとされています。

どうも詳しい因果関係はまだ分かっていないようなので確証はありませんが、この海水温上昇によってサメ達にとって過ごしやすい環境が生まれ、ビーチのすぐ近くまで現れるようになった可能性が指摘されています。

また、水温が上昇すると水中の酸素の飽和濃度が下がるため、その水域に棲む魚が酸欠で死んでしまうことがあります。

実際に事故が起こる数週間前にも発電所近くを流れる川で魚の大量死が発生していました。

河口付近に流れてきた魚の死骸というエサも、サメたちを岸のすぐ近くまで集めていた可能性はあります。

観光客によるサメへの接触や餌付け

ただ単にサメが集まっているだけでは事故が起きるとは限りませんが、このハデラのビーチでは、集まった観光客がサメに触ったり餌付けをするという問題が起きていました。

ビーチは遊泳禁止であるにもかかわらず、多くの人間がそれを無視して海に入り、かなり近距離でサメを撮影したり、中にはサメのヒレを引っ張る人までいました。

さらに一部の観光客は、より近くでサメを見ようと、死んだ魚をサメに投げ与えていました。

こうした行動により、このハデラのビーチに集まっていたサメ達は、人間に対する警戒心が薄れていたり、人間とエサを結び付けて認識するようになっていた可能性があります。

要求行動の末に狂乱索餌か?

サメの行動生態学を研究しているエリック・クルア博士は、こうした環境下にいたサメが人間にエサを求める要求行動(begging’ behaviour)としてバラクさんに近付き、噛み付いたことから狂乱索餌に繋がったという仮説を立てました。

人馴れしたサメが被害者に近づく

餌付けによって人への警戒心を薄くしたサメが、エサを求める要求行動として被害者に近づいた。

何らかの刺激で反射的に被害者を噛んでしまう。

被害者が持っていたGoProの発する微弱な電気を感じ取ったなどの理由で、サメが反射的に噛んでしまった。

被害者が出血したことにより狂乱索餌

被害者を最初に噛んだサメは獲物として襲ったわけではなかったが、被害者が出血したことでサメ達が狂乱索餌になってしまい、捕食行動として襲ってしまった。

ちなみに、ビーチで餌付けが行われていたという背景があったので、襲われたバラクさんも、誘き寄せるための魚を持って海に入ったのではないかという噂が流れましたが、これについては彼の妻がメディアの取材で否定しています。

以上の背景を考えると、今回の事故は、人為的な要因でサメが集まるようになっていた場所で人間がサメと過度に接触していたことにより発生した、シャークアタックというよりもはや人災と呼ぶべき死亡事故だったと言えます。

事故からの教訓:野生動物への安易な餌付けはダメ

この事故から学べる教訓は「野生動物に安易に餌付けしてはならない」ということです。

以前の記事でも詳しく述べましたが、野生動物に餌付けを行うと人馴れた動物が人間を襲ったり、動物同士で感染症が広がりやすくなるなど、様々な問題が起きます。

もっともサメについては、

  • 陸上動物と違って人間と生活圏が地続きではない
  • 人間に感染症を広める心配がない
  • 漁業者との軋轢防止やエコツーリズムによってサメの保護につながる

などの理由から制限付きで実施されていることもあり、ケースによっては許容する余地があるかもしれません(生態系への影響が懸念されるため、ここも賛否は分かれる)。

ただ、今回のケースは集まっている観光客が全くルールを守っておらず、実際に今回のような死亡事故も起きているので、迅速に厳しい対応をすべきです。

サメを観察すること自体は別にいいですし、火力発電所の件についても「こういう影響で生態系が変化しています」と実例を目の前にして紹介できる機会なので、この状況を良い方向で利用することはできると思います。

しかし、実質誰も自由に海に入ることができて餌付けをしたりサメに触ったりできる状況を放置していれば、そのうち今回のような事故がまた起きるでしょう。

しかも現地メディアによれば、今回の事故が起きて警察が注意喚起しているのにまだサメに餌付けをしている人がいたそうです。こういう人たちは一体どういう神経をしているのでしょうか・・。

こうした話は僕たち日本人にとっても決して他人事ではありません。

最近ニュースで目にすることが多くなったクマについて、ヒグマによる死亡事故を起こした北海道の知床でで、観光客がヒグマに餌付けをしていたという目撃情報があります(餌付けと事故の直接的な因果関係は不明)。

あえてハッキリ言いますが、クマへの餌付けは現地の人間もクマも危険にさらす、救いようのない最低最悪な行為です。人間として恥じるべきです。

モンスターパニック映画なら、こういう迷惑行為を行う人間は報いを受けて終わりますが、現実には餌付けした人はエキサイティングな体験した気になって帰ってしまい、無関係な人が襲われたりします。極めて質が悪いです。

人間と野生動物の適切な距離感を保つために、野生動物への安易な餌付けはしないようにお願い致します。

参考文献

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