ホホジロザメ・オオメジロザメに並ぶ危険なサメとして有名であるイタチザメ。
「人喰いザメ」という悪名だけでなく、「悪食」や「何でも食べる」というイメージが強いサメでもあり、「海のゴミ箱(garbage can of the sea)」などという酷いあだ名まで付いています。
実際に本来のエサではないような動物や、明らかに食べ物ではないものが、イタチザメのお腹に入っていることも多いです。
- これまでどんなものがイタチザメの胃から見つかっているのか?
- 本当にイタチザメは何でもかまわず食べる悪食なのか?
- 人間にとって危険なサメなのか?
今回は、「イタチザメが食べたもの」というテーマで、実際に報告されている意外な胃内容物、成長による食性の変化、シャークアタックのリスクなどを解説していきます。
解説動画:【衝撃】危険ザメNo.2 イタチザメの胃袋から出てきたもの・・・【危険生物】【人喰いザメ】
このブログの内容は以下の動画でも解説しています!
※動画公開日は2026年9月6日です。
海のゴミ箱・イタチザメ
本題に入る前に、イタチザメとはどんなサメか、簡単におさらいをしておきます。
イタチザメはメジロザメ目イタチザメ科イタチザメ属に分類されるサメです。大きさは全長約2.2~3.5m、大きいものでは5.5mにも達します。
見分けのポイントとしては、以下のような特徴を持ちます。
- 頭が大きくて吻が丸みを帯びている
- 背中側に独特の縞模様を持つ
- 尾柄部に隆起線がある
比較的他のサメ類との見分けは簡単だと思います。
イタチザメは歯も特徴的で、幅広く鶏冠やハートを思わせる形をしていて、縁はノコギリのようにギザギザしています。


そんなイタチザメは冒頭で話した通り、幅広いものを食べていることで有名です。
よく紹介されるのはウミガメですが、他にも硬骨魚や他のサメ類、イカ、甲殻類などなど・・・。イルカやジュゴンなどの海生哺乳類も襲います。
一応補足しておくと、他の多くのサメ類も色々なものを食べてはいます。
例えばホホジロザメはアシカやオットセイを食べているイメージが強いと思いますが、他のサメ類や大型の硬骨魚、鯨類なども食べていることが分かっています。
しかし、イタチザメはその中でも飛びぬけていることで有名というか、悪名高いです。
米国のサメ研究者ホセ・カストロ博士は、自身の著書『Sharks of North America』の中で、他のサメよりも圧倒的に多くイタチザメの胃内容物にページを割きつつ、以下のようにコメントしています。
Listing all the animals that have benn found inside the tiger shark would be a daunting task.
(イタチザメの中から見つかった動物をリストアップするのは気が遠くなる作業だ)
『Sharks of North America』より引用
これから挙げていく胃内容物は他のサメで見つかることもありますが、「それにしてもこれだけ色々食べているサメはなかなかいないのでは?」というくらい、イタチザメからは色々なものが見つかっているというわけです。
イタチザメから出てきた驚きの胃内容物
イタチザメを全部取り上げていくと文字通り日が暮れそうなので、「世間的に意外に思われそうなもの」に絞って、実際にイタチザメから出てきたものを紹介します。
ウミヘビ

「ウミヘビ」と呼ばれる動物には、体が細長いからヘビと名付けられただけで実際はウナギ目に分類される魚のウミヘビと、本当にヘビの仲間のウミヘビがいますが、今回お話しするのは後者の方です。
太平洋やインド洋でイタチザメの胃の中を調べると、ウミヘビが見つかることがあります。
日本の八重山諸島で行われた300尾以上を調べた研究では約14%、オーストラリア北部で500尾以上を調べた研究では約50%のイタチザメの胃の中からウミヘビ類が見つかっており、決して珍しいことではないようです。
また、オーストラリアのシャーク湾で行われた研究では、イタチザメが多いか少ないかでウミヘビ類の行動が変化していることが示されたので、ウミヘビの方もイタチザメを捕食者として避けているようです。
ウミヘビ類のほとんどは強い毒を持っていますが、サメには効かないのか、あるいは楯鱗に守られて毒を注入できないのか・・。いずれにしてもイタチザメはウミヘビの捕食者と言えそうです。
ワニ

「え、ワニって川の生き物じゃないの?」という方のために一応補足しておくと、イリエワニなど一部のワニの仲間は汽水域や海水域に出てくることがあります。
そんなイリエワニが、インドネシアで捕獲された約3mのイタチザメの胃の中から出てきた記録があります。2mのワニがまるごとはいっていたそうです。
他にも南アフリカでは、4mを超えるイタチザメの胃からワニ類の上半身が見つかったという記録があります。
記載している文献が少なかったのでウミヘビほど食べた事例が多くないのかもしれませんが、ワニも時々イタチザメのメニューに載るみたいです。
鳥

イタチザメの胃からはよく海鳥が見つかっています。
ハワイのイタチザメを調べたある研究では19~25%、別の研究では75%のイタチザメの胃の中から、何かしらの海鳥が見つかっています。
また、南アフリカでイタチザメの胃内容物を調べた研究では、消化途中のケープペンギンが出てきました。生きている状態で襲ったのかまでは不明ですが、ほとんど丸呑みしたようです。
さらに、イタチザメが食べるのは海鳥だけではありません。
2019年に発表された研究によれば、メキシコ湾で捕獲したイタチザメの胃の中から、海鳥ではない鳥たちが見つかっています。これらの鳥達たちについては、渡りの途中で海に落ちたりしたものをサメが食べていると思われます。
陸上哺乳類

陸上にいるはずの哺乳類がイタチザメの中から出てくることもよくあります。
先に挙げた南アフリカのイタチザメの胃からワニが出てきた事例では、一緒に羊の脚も一緒に出てきました。
別の南アフリカの事例では、レイヨウの仲間が丸ごと入っていたこともあります。
さらにネズミ、犬、ネコ、豚などが確認されている他、イノシシを食べている映像が撮影されたこともあります。
これらの動物は恐らく、水害などで流されたり、運搬している船から落ちたものをサメが食べたと思われます。
また、家畜が飼育されている島では、死んでしまった家畜や家畜を処理した後の残りを海に捨てることがあるそうで、それらをイタチザメが食べてしまうということがあるようです。
変わり種で他に上げると、イタチザメがハリモグラを吐き出した事例があります。
2022年5月、オーストラリアの研究者が3mほどのイタチザメに追跡装置を取り付けようとしたところ、ほとんど完全な状態のハリモグラを吐き出したことがありました。
ハリモグラは泳ぐことができるため、流れたのではなく、浅瀬で泳いでいたところを食べられた可能性もあるそうです。
ゴミ

「海のゴミ箱」と称されるだけあって、イタチザメの中からは本当のゴミが出てきます。
この記事のために読んだ論文だけでも、以下のようなものが確認されています。
- 煙草
- ポテチの袋
- アルミホイル
- セロファン
- ビニール袋
- コンドーム
- 紙
- 空き缶
- 段ボール
- 衣服
- キッチンから出る生ごみ
映画『ジョーズ』で、イタチザメの中からナンバープレートが出てくるシーンがありますけど、決して誇張ではなかったわけです。
これに関連して触れておきたいのが、海洋ゴミの問題です。
北大西洋で捕獲されたイタチザメおよび過去の文献を調べた研究によれば、イタチザメの胎内からは他の軟骨魚類よりも多く、プラスチックなどの人工的な粒子が見つかっています。
ゴミを食べることによる悪影響については現在はっきりとは分かりませんが、幅広い食性に加え、生物濃縮の影響を受けやすい高次捕食者であることや、人間の活動件に近い場所にも現れるサメであることから、海洋汚染の影響を受けやすい恐れがあります。
元から何でも食べるサメだから仕方ないと軽く考えるのではなく、海洋ゴミ問題の側面からも、イタチザメの食性を考える必要があるかもしれません。
イタチザメはゴミばかり食べているわけではない
「海のゴミ箱」と称されてしまうイタチザメは、本当にゴミばかり食べているのでしょうか。
ハワイで捕獲されたイタチザメ281尾の胃内容物を調べた研究では、消化できないゴミが見つかったのは全体の15%、陸上動物を含めた哺乳類が見つかったのは約10%ほどでした。
最も多く見つかったのは真骨類(いわゆる普通の魚だと思ってください)の仲間です。特にフグ科の仲間とハリセンボン科の仲間が多く見つかっています。
余談ですが、自分が以前に小さなイタチザメの胃内容物を観察した際は、フグ類と思しき骨が入っていたことがあります。

次いで多く見つかったのが甲殻類で、同じくらい多かったのが板鰓類(サメ・エイの仲間)、そこから鳥類、頭足類(イカ・タコの仲間)と続きます。爬虫類はアオウミガメ一種だけで、中型・大型個体から少し見つかっただけでした。
ハワイのイタチザメ281尾から見つかったもの(全体の何%から出てきたか?)
- 真骨類・・約47%
- 甲殻類・・約24%
- 板鰓類・・約23%
- 消化できないもの・・約15%
- 頭足類・・約10%
- 哺乳類・・約10%
- 爬虫類・・約8%
『Ontogenetic dietary shifts and feeding behavior of the tiger shark, Galeocerdo cuvier, in Hawaiian waters』の内容をもとに記載
南アフリカで行われた別の研究では、胃内容物から出てくる頻度、重量、数をもとにエサの重要度が計算されているのですが、真骨類、板鰓類、哺乳類の数値が高く、ゴミを含む「その他」の数値はそこまで高くありませんでした。
あくまでゴミを食べてしまうことがある、というだけでゴミばかりを食べてしまっているわけではないようです。
イタチザメは危険なサメ?
何でも食べてしまうイタチザメは人も食べてしまうのでしょうか?
結論から言えば、食べることはあります。
世界で2番目に危険なサメ
世界中のサメ関連事故を調査・報告しているInternational Shark Attack Fileによれば、イタチザメは世界で二番目に多く人間を噛んでいるサメです。
世界で最も危険とされ事故件数が最も多いサメはホホジロザメですが、実は事故全体のうちの死亡事故の割合はイタチザメの方が高いです。
そのため、単純な死亡事故の割合だけで言えば、ホホジロザメよりも危険度は高いです。

実際に先程紹介したハワイでイタチザメの胃内容物を調べた研究の中に、見つかったものとして「Human」という項目がありました。
最近の事例だと、2024年に東ティモールで漁師が捕まえたイタチザメの中から、数日前に行方不明になった女性ダイバーのものと思しき体の一部が発見されています。
人間を狙って襲っているわけではない
ただし、イタチザメが人間ばかり積極的に狙っているわけではありません。
先のハワイの論文では281個体を調べて人間が出てきたのは1件だけでした。人を狙っているのであれば、もう少し多く見つかっているのではないでしょうか。
さらに言えば、イタチザメから人間が出てきたからといって、必ずしも襲われたとは限りません。水難事故など他の要因で亡くなった後の遺体を食べているだけのケースも考えられます。
先に紹介したダイバーの事例も、健康上の理由で亡くなった後にサメが遺体を食べてしまった可能性が指摘されています。
2~3m以上だと危険性が増す?
一口にイタチザメと言っても、体の大きさによって危険性は異なります。
ハワイでの研究で人間が出てきたのは、3mを超える大型個体からでした。
また、胃内容物をサメのサイズごとに見てみると、2~3mを超えるあたりから、サメ類、哺乳類、ウミガメ類などの大型動物が出てくる頻度が明らかに上がっています。
したがって、獲物として人間を襲うリスクが高くなるのは、これくらいのサイズからだと思われます。
危険な野生動物であるとは思いますが、必ずしも人間を狙っているわけではないこと、危険性も大きさによって異なることは、彼らと共存する上で覚えておくべき知識だと思います。
参考文献
- Aaron J. Wirsing, Michael R. Heithaus『Olive-headed sea snakes Disteria major shift seagrass microhabitats to avoid shark predation』2009年
- AFPBB News『イタチザメが吐き出したのは…ハリモグラ 研究者ら驚き』2024年
- Christopher G. Lowe, Bradley M. Wetherbee, Gerald L. Crow, Albert L. Tester『Ontogenetic dietary shifts and feeding behavior of the tiger shark, Galeocerdo cuvier, in Hawaiian waters』1996年
- Colin Simpfendorfer『Biology of Tiger Sharks (Galeocerdo cuvier) caught by the Queensland Shark Meshing Program off Townsville, Australia』1992年
- Department of Conservation, State of Louisiana『Louisiana Conservationist』1962年
- Gen Masunaga, Takeharu Kosuge, Noriko Asai, Hidetoshi Ota『Shark predation of sea snakes (Reptilia: Elapidae) in the shallow waters around the Yaeyama Islands of the southern Ryukyus, Japan』2009年
- International Shark Attack File『Species Implicated in Attacks』
- Jose I. Castro 『The Sharks of North America』 2011年
- Keenan Munno a, Lisa Hoopes, Kady Lyons, Marcus Drymon, Bryan Frazier, Chelsea M. Rochman『High microplastic and anthropogenic particle contamination in the gastrointestinal tracts of tiger sharks (Galeocerdo cuvier) caught in the western North Atlantic Ocean』2024年
- Matthew L. Dicken, Nigel E. Hussey, Heather M. Christiansen, Malcolm J. Smale, Nomfundo Nkabi, Geremy Cliff, Sabine P. Wintner『Diet and trophic ecology of the tiger shark (Galeocerdo cuvier) from South African waters』2017年
- National Geographic『Giant tiger sharks eat backyard birds, surprising study reveals』2019年
- The Telegraph(Sarah Newey)『Body of American diver found inside shark』2024年
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