実は世界で一番危険?川にも入ってくる危険ザメNo.3オオメジロザメの食性について解説!

本記事は以下の記事の続きになります。

前回の記事でオオメジロザメの特徴や川の遡上について詳しく見てきましたが、本記事ではここまでの情報を踏まえて、オオメジロザメの危険性について解説していきます。

目次

食性と歯の形状

結論から言えば、オオメジロザメが非常に危険なサメというのは否定できないと思います。

オオメジロザメの大きさは大体2.5m前後。いわゆる”人喰いザメ”と呼ばれがちな種類の中では小さめですが、同種を含めた他のサメなど、大型の動物を捕食します。

その食性もウミガメや海鳥、鯨の死体など多岐にわたり、イタチザメほどではないにしても、割と見境なく色々なものを食べているようです。

そんなオオメジロザメの歯は、多くのメジロザメの仲間のように上顎歯が幅広い鋸歯(ノコギリ状)になっています。下顎歯は細長いのですが、他のメジロザメ類よりも歯が幅広で大きいように見えます。

オオメジロザメの上顎歯
オオメジロザメの下顎歯

同居する魚が次々と犠牲になった攻撃性

また、オオメジロザメは非常に攻撃的なサメとして知られています。

オオメジロザメを40年以上飼育している沖縄美ら海水族館では、水槽内の様々な生物がオオメジロザメの犠牲になってきました。

元館長の内田詮三さんも自身の著書中で以下のように述べています。

このサメくらい同居魚を襲う例が多い種は、ほかにいない。

とにかく、ジンベエザメ以外は全て喰ったと言っても過言ではない。

『沖縄美ら海水族館が日本一になった理由』より引用

当該のオオメジロザメは、体重40kgのアカシュモクザメを首だけ残して平らげたり、観客の目の前で体重50kgのヨゴレの首を食いちぎるなど、色々な伝説が残っています。

「攻撃的」や「凶暴」という言葉は人間の主観が入り込みやすいので安易に動物に使いたくはないですが、オオメジロザメに関しては「凶暴」と称されても仕方ない気がします・・・。

人の生活環境に近い場所にも現れる

さらに、オオメジロザメはイタチザメと同じく熱帯や亜熱帯など暖かい海の比較的浅い場所に住んでいて、先の記事で紹介した通り塩類濃度が低い場所への適応能力もあります。

つまり、マリンスポーツの人気スポットや人間が簡単に行ける浅瀬にも、オオメジロザメが現れる可能性は十分にあるんです。

さらに、オオメジロザメが現れる浅瀬や河口付近は泥や砂で視界が悪いことも多く、そのような場所ではシャークアタックが起きやすいとされています。

実は世界で最も危険なサメ?

このような特徴をもつオオメジロザメは、世界中のサメによる事故をまとめているInternational shark attack fileにて、世界で三番目に多く人を襲っているサメとしてリストアップされています。

日本での実例を挙げると、1996年に起きたサメによる死亡事故は、後に行われた科学的な検証において、オオメジロザメが犯人である可能性が高いと示されています。

さらに、オオメジロザメは襲撃件数1位のホホジロザメ、2位のイタチザメに比べると同定が難しく、生息域にはデータを集めにくい発展途上国も含まれるため、

正確なデータを集計すればオオメジロザメの襲撃件数は増えるはず

実際に世界で最も多く人を襲っているのはオオメジロザメかもしれない

という意見を述べる専門家もいます。

意外に警戒心が高いサメ

このように、「好奇心が強く凶暴」と紹介されがちなオオメジロザメですが、実は用心深いという一面も持っています。

オオメジロザメは警戒心が強いためか、他のサメに比べると延縄にあまりかからないそうです。

実際、沖縄で行われているサメ駆除でイタチザメやツマジロが捕まったニュースは時々耳にしますが、オオメジロザメを捕らえたという話はあまり聞きません。

さらに、大型サメ類を餌で誘き寄せて観察するシャークダイブに参加したダイバーの方曰く、レモンザメやイタチザメは見える範囲に現れたりちょっかい出してきたりするのですが、オオメジロザメはかすかに見えるような遠くの方でぐるぐる回っていてなかなか近づいてこないそうです。

僕も沖縄でオオメジロを観察させていただく時、現地の方が生き餌を使って釣りをしてくれるんですが、目の前に弱った動きをする魚がいるのになかなか噛みつきませんでした。

噛み付く時もいきなりガブって丸呑みにするのではなく、ハムハムっと部分的に食い千切ることが度々ありました。

オオメジロザメに食い千切られた釣り餌。

オオメジロザメを駆除すべきか?

オオメジロザメは確かに危険なサメですが、だからといって彼らを見境なく駆除してしまっていい理由にはなりません。

先述の通り沖縄ではオオメジロザメの幼魚が川を上ってくることがあるのですが、この幼魚を釣り上げて殺してしまい「川の平和を守ったぜ」などと言うYouTuberや、「人食いザメが川に現れる!」といたずらに危険性を煽るテレビ番組などをよく目にします。

結論から言いますが、こういう人たちはアンポンタンです。

オオメジロザメは確かに人を襲うことがあるサメですが、川に遡上してくるのは全長60〜70cm程度の子供、ほとんど生まれたばかりの赤ちゃんです。

こちらから意図的に刺激したりしない限り、積極的に人を襲う可能性は極めて低いですし、噛まれても大怪我にはなりますが、致命傷になることは考えづらいです。

そもそも沖縄に限って言えば、オオメジロが出るとよく紹介される川は水が汚いうえに護岸工事もされているので、命知らずや酔っ払いでもない限り人が入ることはない川です(オオメジロザメよりも川の不衛生さの方が気になります・・・)。

沖縄の川を泳ぐオオメジロザメ。川に来るのはほとんどが全長1m以下の幼魚です。

そんな場所のオオメジロザメの赤ちゃんを危険視するのは過剰反応ですし、釣り上げても川の平和には何の関係もありません。

むしろ、遊び半分でオオメジロザメの幼魚をキャッチ&キルするのは、希少な野生生物の個体数に悪影響を与える危険があります。

日本でオオメジロザメの遡上が確認されているのは沖縄県の一部地域のみですし、一度に産む子供の数も7〜12尾程度とあまり多くありません。釣りすぎれば個体数に悪影響が出る恐れがあります。

もちろん意図せずに釣ってしまう場合は仕方ないので即リリースすれば良いと思いますが、視聴率や視聴回数を得るためにいたずらに危険性を強調しながらサメを殺して発信するのは、非常に頭の悪い環境破壊です。

危険生物も生物多様性の一部

これはオオメジロザメに限った話ではないですが、人間にとって直接的に害を及ぼすことがある生物でも、生態系という複雑な生き物同士の繋がりの中では重要な役割を担っています。

人を襲うことがあるサメやクマ、ハチ・・・。

人に嫌われがちなクモ、ゴキブリ、ムカデ・・・。

こうした生物が滅んでしまえば、他の生物が増えすぎて人間に害をおよぼしたり、直接的に利益をもたらす動物が連鎖的に絶滅する危険があります。

好きなものだけ食べていても健康を維持できないように、世間一般で人気の生物、害のない生物だけを保護して後は滅ぼすという、いいとこどりはできないんです。

また、浸透圧調節は僕たち人間の生存にとっても重要なものですが、オオメジロザメの淡水適応能力は今後の生理学研究において重要な鍵になる可能性を秘めています。

あくまで想像の話ですが、腎臓の病気の治療薬や脱水症状を抑える薬が、オオメジロザメの研究がきっかけで開発されるかもしれません。

オオメジロザメは確かに脅威にもなり得ますが、危険生物として警戒はしつつも無闇に殺したりせず、うまく付き合って行ければいいなと思います。

参考文献

  • Florida Museum of Natural History『Carcharhinus leucas』(2022年8月17日閲覧)
  • 内田詮三『沖縄美ら海水族館が日本一になった理由』2012年
  • 佐藤 圭一, 冨田 武照『寝てもサメても 深層サメ学』2021年
  • 仲谷一宏 『サメ ー海の王者たちー 改訂版』2016年
  • 矢野和成 『サメ 軟骨魚類の不思議な生態』1998年 
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