池に人喰いザメが棲むゴルフ場?オーストラリアのゴルフ場に迷い込んだオオメジロザメについて解説!

「ゴルフ場の池にサメが出た」という話を聞いたことあるでしょうか?

下水道的のワニみたいな都市伝説か、あるいはサメ映画の新作でありそうな話ですが、実話です。

1990年代頃、オーストラリアのクイーンズランドにあるカーブルックゴルフクラブ(Carbrook Golf Club)というゴルフ場内の池(大きさ的には湖)にオオメジロザメが何匹か住み着いたことで「サメがいるゴルフ場」として話題になりました。

この出来事は国内外のメディアが取り上げてかなり有名になったのですが、その後このサメたちがどうなったのか?ご存知の方は少ないと思います。

しかし、このサメたちが15年以上もこの湖で生きていたというレポートがつい最近発表されました。

今回はこのレポートの内容をもとに、

  • このサメたちはどのようにして湖に現れたのか?
  • どのように淡水の湖で生きていたのか?
  • 現在サメたちはどうなっているのか?

という問題について解説をしていきます。

目次

解説動画:池に人喰いザメが棲むゴルフ場?オーストラリアのゴルフ場に迷い込んだオオメジロザメについて解説!

このブログの内容は以下の動画でも解説しています!

※動画公開日は2023年9月24日です。

オオメジロザメの基本情報

今回の主役であるオオメジロザメは、メジロザメ目メジロザメ科メジロザメ属に分類されるサメです。

熱帯や亜熱帯などの温かい海域の沿岸域等に暮らすサメで、日本でも沖縄県で見ることができます。

オオメジロザメの主な特徴は以下の通りです。

オオメジロザメの特徴

イタチザメの縞模様のような際立った特徴が無いので、慣れるまでは見分けが難しいかもしれません。

ただ、他のメジロザメ類に比べると明らかにガッシリしていて厳つい見た目なので、まだ分かりやすい方だと思います。

この厳つい見た目を裏切らず、サメの中では攻撃的な種類とされ、ホホジロザメ、イタチザメに並び、最も多く人を襲っているサメの3種に数えられます(というより、世間で騒がれているシャークアタックのほとんどがこの3種によるもので、ほとんどのサメはいきなり人を襲ったり食べたりしません)。

そんなオオメジロザメは、淡水にも適応できる非常に珍しいサメとしても有名です。

ミシシッピ川やアマゾン川など、大きな川のかなり上流まで遡上したことが過去に確認されており、僕も沖縄県の川でオオメジロザメの幼魚を観察したことがあります。

沖縄の川を泳ぐオオメジロザメ。川に来るのはほとんどが全長1m以下の幼魚です。

淡水域で見つかるオオメジロザメは未成熟の個体が多いため、天敵が少なく獲物が豊富な川で安全に幼少期を過ごし、大きくなってから海の沖の方に出ていくという説が有力です。

※淡水に生息するサメ・エイ類についてはコチラも参照

洪水を機にサメがゴルフ場へ?

では、オオメジロザメたちはどのようにゴルフ場の湖にやって来たのでしょうか?

最も有力な説が川の洪水です。

今回の舞台であるカーブルックゴルフクラブの近くには、ローガン川とアルバート川という大きな川が二本流れています。

サメが現れたゴルフ場とその周辺地図

この川は海に繋がっており、オオメジロザメの幼魚が遡上していることが以前から知られていました。

そして、クイーンズランド周辺は亜熱帯気候で熱帯低気圧が発生しやすく、不定期で大きな台風や豪雨に見舞われ、川が洪水を起こすことがあります。

実際に現地で起きた洪水をまとめたデータによれば、1996年に大規模な洪水が発生しており、ちょうど同じ年にゴルフ場の湖で初めてサメが確認されています。そして、それ以降は2013年まで、大きな洪水がゴルフ場の湖に影響することはありませんでした。

厳密に流入のルートや時期を把握することは困難ですが、上記の事実から、恐らく1996年の洪水で流されたサメが湖に入り込み、水が引いた際に閉じ込められたとするのが妥当です。

その後、少なくとも6尾のオオメジロザメが湖で暮らしていることが確認され、カーブルックゴルフクラブのロゴがサメデザインになるなど、サメたちはゴルフ場のマスコット的な存在となりました。

淡水での生存期間は世界最長記録?

この事例でまず気になるのが、「オオメジロザメは淡水環境でどこまで生き残れるのか?」という問題です。

先述の通り、オオメジロザメは淡水への高い適応能力を持っていますが、無制限に適応できるかと言われれば話が変わってきます。

過去に行われた研究により、オオメジロザメは川などで5年ほど過ごした後に沖の方に出ていき、それ以上長期で淡水域に留まるのは稀とされていました。

また、沖縄の西表島で行われた調査では、オオメジロザメの幼魚は確かに川を泳いでいるものの、川の中でも塩類濃度の高い塩水楔を好むことが確認されています。

これらの情報をもとに考えるなら、オオメジロザメは淡水に進出できるものの、基本的には幼魚の時に一時的に滞在するだけであり、淡水の中でも塩類濃度の高い場所の方が過ごしやすいようです。

沖縄の川で釣り上げられたオオメジロザメ。川を泳いでいるのは幼魚であることが多いです。

しかし、カーブルッククラブの湖は外界から隔離された淡水域で、サメたちはそこで生き残ってきました。

サメたちがやってきた1996年以降、2013年までに大規模な洪水は起こっていないため、塩類濃度の高い水が供給されたり、別のサメが供給されることで長生きしているように見えただけということも考えづらいです。

したがって、この湖のオオメジロザメは完全に隔離された淡水域で約17年間生きていたことになり、これは世界最長の記録になります。

オオメジロザメが淡水に適応するメカニズムについてはまだ分かっていないことも多いですが、このゴルフ場のサメたちは「オオメジロザメは淡水環境でどこまで生き残れるのか?」という問題を考えるうえで重要な事例と言えるでしょう。

湖のオオメジロザメたちは何を食べていたのか?

もう一つ気になるポイントとしては、「ゴルフ場の湖にサメのエサは十分にあったのか?」という点です。

これについては、この湖には様々な魚が生息していたため、一定のエサが確保できていたと思われます。

ゴルフ場の湖には、ボラの仲間、クロダイの仲間、ターポン、フエフキダイの一種など、オオメジロザメと同じように川から流されてきたと思しき広塩性の魚たちが暮らしており、オオメジロザメはそれらをエサにしていたと思われます。

また、ゴルフ場のスタッフが、水面に出てきてほしいからという理由で鶏などのエサを与えていたようです。

実際の餌付けの様子はコチラ↓

この餌付けが野生動物と関わる方法として適切かどうか(それそも湖にいるオオメジロザメたちは野生個体なのか飼育個体なのか)という問題はさておき、ゴルフ場の人から食料を提供されていたというのも、長期で生存できた一因かもしれません。

サメたちは成熟や繁殖をしているのか?

最後に気になるのが、「このサメたちが成熟したり子供を産んでいる可能性はあるのか?」という点です。

サメの寿命や成熟年齢というのは分かっていることの方が少ないくらいですが、オオメジロザメはサイズで言えば全長157~230cmほどで成熟するとされています(年齢ベースでは15~20年ほどとされていますが諸説あり)。

学術的に計測されたわけではないものの、ゴルフ場のサメの中には1.8m以上の個体もいたそうなので、1996年に入ってきたサメたちが生き延びていたとしたら、湖の中でそのまま成熟した可能性はあります。

ただし、彼らが湖で繁殖していたと示す証拠は見つかっていません。

オオメジロザメは淡水では繁殖せず、海で交尾して浅瀬や河口付近で出産するとされています。

仮に繁殖していたとしても、成魚が泳ぎ回る閉鎖的な空間では、子ザメは食べられてしまって生き残れなかったと思います。

ゴルフ場のオオメジロザメの現在

サメが泳ぐゴルフ場として有名になったカーブルックゴルフクラブですが、現在はどうなっているのか?

結論から言えば、このオオメジロザメたちはいなくなってしまったと思われます。

湖が広すぎることもあり「いなくなった」と断言することはできませんが、2015年に確認されたのを最後にオオメジロザメは目撃されていません。

サメたちが消えた原因については明確に分かっていないものの、洪水で川に戻っていったか濁流の中で息絶えてしまった可能性が考えられます。

また、約6尾いたであろうオオメジロザメのうち、少なくとも1尾は過去死亡しているのが発見され(原因不明)、さらにもう1尾は違法な釣り人に殺されてしまったのが分かっています。

湖の中で共食いしたり、沈んだ死体を他の生物が食べてしまった可能性も考えられますが、証拠がないため何とも言えません。

ただし、先述の通りゴルフ場のある地域は嵐や洪水によく見舞われるため、また洪水が起きた時にオオメジロザメが再び入ってくる可能性もあります。

いつかまた、ゴルフ場の湖を泳ぐサメが見られるかもしれません。

あとがき

以上が、ゴルフ場に現れたオオメジロザメについての解説でした。

最後に補足をすると、今回発表されたレポートははサメがいなくなってからまとめられたということもあり、推測や目撃証言に基づく内容が多い印象でした。

サメがいた当時に湖の塩類濃度を調べたり定期的にサメを計測していたりすれば、もっと面白く確実な情報が出てきたかもしれません。

そう考えると面白いと同時に、かなり勿体ない事例だなと感じるので、今度サメがゴルフ場に現れた際は、より詳細な研究成果に期待したいです。

参考文献

  • David A. Ebert, Marc Dando, and Sarah Fowler 『Sharks of the World a Complete Guide』2021年
  • Peter Gausmann『Whoʼs the biggest fish in the pond? The story of bull sharks (Carcharhinus leucas) in an Australian golf course lake, with deliberations on this speciesʼ longevity in low salinity habitats』2023年
  • 佐藤 圭一, 冨田 武照『寝てもサメても 深層サメ学』2021年
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