チョウザメは今も日本にいるのか?サメじゃない古代魚の実態を解説!

今回はコバンザメと並んでサメと勘違いされやすい魚でお馴染みのチョウザメがテーマです。

ここ最近、北海道近辺でチョウザメを見たという投稿がX(旧Twitter)で連続し、密かに注目を集めました。

話題になった投稿のうち一つを見てみると、漁港のような場所を泳ぐチョウザメの様子を見ることができます。

こうした投稿を受けて、

日本の天然チョウザメってUMAレベルでめずらしいのでは?

本当に野生のチョウザメなのか?

日本産チョウザメ復活して欲しい!

等の声があがっています。

そこで今回は、チョウザメの特徴などを簡単におさらいしつつ、

  • 何故チョウザメがそんなに珍しい存在なのか?
  • 本当にまだ日本にいるのか?

という疑問についてを僕なりにまとめてきました。

目次

解説動画:チョウザメは今も日本にいるのか?サメじゃない古代魚の実態を解説!

このブログの内容は以下の動画でも解説しています!

※動画公開日は2024年4月21日です。

チョウザメはサメではない

チョウザメを語る上で最初に強調しておきたいことは、「チョウザメはサメではない」ということです。

確かにチョウザメ名前に「サメ」が付きますし、以下のような点がサメと共通しています。

  • 吻が伸びていて口は顔の下の方にある
  • ヒレの付き方がサメとそっくりで、各ヒレは折りたためない
  • 魚の中では比較的大型で、大きなものでは3~4mを超える

しかし、チョウザメはサメではありません。

サメは軟骨魚類という骨格のほとんどが軟骨で出来た特殊なグループなのに対し、チョウザメは硬骨魚類の仲間です。

チョウザメのシルエットは確かにサメっぽいですが、サメではありません。

系統学的なチョウザメの位置づけ

もう少し詳しく説明します。

僕たちも含めた脊椎動物のグループを系統学的に分けると以下のようになっています。

脊椎動物の系統学的なグループ分け

真骨類とはタイやマグロなど”普通の魚”と呼ばれる動物です。

上の図を見れば分かる通り、サメが含まれる軟骨魚類は系統が分かれていくかなり早い段階で分岐しています。

一方のチョウザメは確かに原始的な仲間ではあるものの、サメ類が分岐した後に誕生したとされている硬骨魚の仲間です。脊椎の一部が軟骨ですが、頭骨などは硬い骨でできており、体の仕組みも明らかにサメと異なります。

もしサメとチョウザメと同じと見なせるなら、人間もサメの仲間と言えるでしょう。それくらいサメとチョウザメは離れた存在だということです。

チョウザメとサメの身体的な違い

チョウザメとサメの見た目がどう違うのかも紹介しておくと、チョウザメはエラ孔がエラ蓋に覆われてますが、サメは5~7対のエラ孔がむき出しになっています。

また、ご存知の通りサメ類には何かしらの歯がありますが、チョウザメには歯がありません。

他にも、チョウザメは小さな卵(いわゆるキャビア)を沢山産むがサメは大きい卵または胎仔を少数産む、チョウザメにはウキブクロがあるがサメにはないなどの違いもあります。

左がシロチョウザメ、右がオオワニザメ。チョウザメはエラ孔がエラ蓋で覆われています。
左がチョウザメの卵であるキャビア、右がネコザメの卵殻です。サメ類は少数の卵または胎仔を産み落とします。

チョウザメは絶滅危惧種

以上を踏まえた上で、なぜ北海道にチョウザメがいるかどうかが注目を集めるのでしょうか?

端的に言えば、チョウザメの仲間は深刻な絶滅の危機に瀕している希少動物なのです。

チョウザメ類の絶滅リスク

チョウザメの仲間は27種が知られており、アジア、北米、中東、ヨーロッパなど幅広い地域に分布していますが、ほとんどの種が数を減らしてしまっています。

世界中の生物の絶滅リスクを評価しているIUCN Redlistでは、27種のチョウザメ類のうち、17種が近絶滅種(CR)、3種が絶滅危惧種(EN)、5種が危急種(VU)という評価を受けています。

残りの2種は、中国原産のハシナガチョウザメとヨウスコウチョウザメという種類ですが、ハシナガチョウザメは完全に絶滅(EX)してしまい、ヨウスコウチョウザメも飼育個体が生き残っているのみで野生では絶滅(EW)したとされています(現在、飼育個体の卵を野生環境で孵化させる試みが実施されています)。

なぜチョウザメの数は激減したのか?

チョウザメたちをここまで追い込んでいる主な原因は河川の開発、水質汚染、そして乱獲です。

種によって詳細な生態は異なるものの、チョウザメ類は基本的に河川の上流で産卵します。そのため、ダム建設などによる水流・水路の変化や、川に流れてくる汚水の影響をもろにうけてしまいます。

さらに、ご存知の通りチョウザメの卵であるキャビアは高級食材で肉にも需要があるので、見境ない乱獲や密漁が横行しました。

こうした影響により世界各地でチョウザメの仲間は激減してしまっています。

日本にもかつて北海道ではミカドチョウザメなどが見られましたが、国内の個体群は絶滅したとされています。

今も北海道にチョウザメはいるのか?

そんなチョウザメの仲間が北海道で確認されているのは絶滅種の奇跡的な復活なのでしょうか?

実はそういうわけでもないのです。

ロシアからの回遊個体

結論から言ってしまうと、北海道で見つかっているチョウザメはロシアの川から回遊してきたものだと思われます。

これを聞いて

あれ、チョウザメは淡水魚じゃないの?

と疑問に思うかもしれませんが、実はチョウザメの仲間は海に現れることもあります。

産卵場所が河川というのは恐らく全ての種で共通していますが、成長すると下流の方に下って、そのまま海に出て回遊するチョウザメもいます。

チョウザメが海面漁業で捕獲されたり、ホホジロザメの胃の中からチョウザメの仲間が発見された事例もあります。

北海道で確認されたチョウザメ48尾のDNAを調べた研究では、以下のような結果が得られています。

  • 36尾:ダウリアチョウザメ(別名カルーガ)
  • 10尾:ミカドチョウザメ
  • 1尾:アムールチョウザメ
  • 1尾:ダウリアとアムールの交雑個体

上記の研究が発表されたのは2004年ですが、その後の2019年にも登別の定置網でダウリアチョウザメが捕獲されています。思った以上にチョウザメは日本に来ているようです。

日本の川でチョウザメは繁殖していない?

こうした事実を知ると「チョウザメはまだ日本にいる」と言いたくなるかもしれませんが、個人的にはそう思いません。

何をもって「日本にいる」とするのかは議論が分かれそうですが、チョウザメ類の生活史を考えると、日本の川に遡上して繁殖してこそ、チョウザメが生息していると言える気がします。

北海道で見つかるチョウザメ類について言えば、見つかるのはどれも河口域や海の沿岸などで、ある程度成長はしているけどそこまで大きくない若い個体ばかりです。

川の上流で成熟個体や幼魚が発見されない限り、日本のチョウザメは野生絶滅していると考えるべきだと思います。

人為的に野生に放たれるケース

チョウザメが日本に現れる理由は回遊だけではありません。

人為的な要因でチョウザメが野に放たれてしまう、外来種の放流・脱走というケースも存在します。

宮崎県の川に突如現れたシベリアチョウザメ

2020年7月~9月頃、宮崎県大淀川水系にて、ウナギ漁の釣り針などによって90尾以上のチョウザメが混獲されるという事態が発生しました。

同年8月小林市にある水産試験場から約210尾チョウザメが脱走したと報じられたのでこの時の個体だと思われがちですが、大淀川ではこの脱走の前からチョウザメが釣り上がっており、脱走したチョウザメよりも明らかに大きなサイズが確認されています(さらに言えば、脱走した個体のほとんどは回収されています)。

また、捕獲されているのはかつて九州で記録されたことのあるカラチョウザメではなく、ロシアなどを原産とするシベリアチョウザメでした。

そして、宮崎県ではチョウザメの養殖が非常に盛んで、大淀川沿いにはシベリアチョウザメを飼育する複数の養殖場があります。

こうしたことを考えると、大淀川に出現したチョウザメは養殖場から逃げ出した個体と思われますが、県の調べに対し現地の全業者が「逃げていない」と回答しています。

大淀川は大きな川で他の川と他県から流入した可能性もありますが、いずれにしても誰も責任を取っていないことに変わりなく、チョウザメ出現の原因は分かっていません。

琵琶湖で発見されたチョウザメ

2022年5月、琵琶湖にて魞漁という定置網を引き上げた漁師が、体長約1mのチョウザメを発見しました。

この時見つかったチョウザメは「ベステル」と呼ばれる種類です。

野生に存在するチョウザメではなく、オオチョウザメ(ベルーガとも呼ばれる)とコチョウザメを人為的に交配させることで生まれてきます。

単純に野生種を育てるよりも肉質が良くて早く成熟させることができるとされ、恐らく最も多く養殖されているチョウザメです。

ベステルの幼魚

琵琶湖で見つかったこのベステルは、飼育されていた個体が捨てられた可能性が高いとされ、最終的には琵琶湖博物館が引き取って飼育展示することになりました。

今回紹介したこれらのケースではチョウザメが定着や繁殖した可能性はないようですが、チョウザメほどの大きな外来魚が一気に放流されると、川に棲む水棲昆虫や甲殻類が激減したり、それをエサにする在来魚にも影響が出る恐れがあります。

日本にチョウザメが戻ってくるとしても、それは彼らの個体数回復や環境改善によって起こるのが理想で、外来魚の放流には慎重であるべきです。まして、養殖個体やペットを流出するなど絶対にあってはいけません。

昨今のニジマス流出やブラックバスの密放流にも言えることですが、外来魚を放ってしまうことのリスクと取るべき責任について、個人も社会も重く受け止めるべきだと思います。

参考文献

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