【世界初】シャチがホホジロザメを襲う瞬間!サメVSシャチの最強ハンター対決を徹底解説!

「ホホジロザメとシャチはどちらが強いのか?」

図鑑やネットでは「シャチはサメも食べる最強生物」と紹介されることがあり、僕も以前の記事でサメとシャチの比較や捕食関係について解説をしたのですが、これまでサメVSシャチの戦いが目撃・記録されたことはありませんでした。

しかし、2022年5月にその決定的瞬間が映像に収められ、それを分析した論文が10月に公開されました。

本記事ではこの研究を基に、以前に確認されたシャチによるホホジロザメの捕食事例や、シャチの捕食によってサメの行動がどう変化したのかを、非専門家の方にも分かりやすくまとめました。

これを読んでいただければ、「シャチすげえ」という短絡的な感想で終わることなく、シャチの食性、ホホジロザメ狩りの詳細、シャチの捕食がもたらす生態系への影響など、幅広い視点から今回の出来事を考えていただけると思います。

目次

解説動画:【世界初】シャチがホホジロザメを襲う瞬間!サメVSシャチの最強ハンター対決を徹底解説!

このブログの内容は以下の動画でも解説しています!

※動画公開日は2022年10月23日です。

シャチの食性についておさらい

「シャチは何を食べていますか?」という質問に一言で答えるなら、「色々なもの」が解答になります。

サケやニシンなどの魚、海鳥やペンギン、アザラシやアシカなどの鰭脚類、イルカやクジラの仲間、そしてサメ類等々、シャチは本当に多様な動物を捕食しています。

時には、自分たちよりも巨大な大型クジラ類に襲い掛かることもあります。

ただし、全てのシャチが今挙げたような獲物を何でも食べるというわけではありません。

ほとんど全世界に生息するシャチは生息海域・行動・模様・食性などにより「エコタイプ」と呼ばれる複数のグループに分けられています。

一口に「シャチ」と言っても多様な暮らしぶりがあり、ほとんど一か所にとどまってサケなどの魚ばかり食べるものや、移動しながら海生哺乳類を襲うものなど様々です。

そのような多様性を持つシャチも、社会性を持ち、共同で狩りをするという点はほとんど全てのエコタイプに共通しています。

エコタイプにより群れの大きさなどに違いはありますが、基本的にシャチの多くは母子を中心とした血縁関係のある群れで行動します。そして、エサを食べる時は複数個体で協力し合って狩りします。

例えば、ノルウェー近海のシャチがニシンを襲う際、複数個体で群れの周りをグルグル回ったり、交代で群れの下に回り込んだりすることで群れを追い込んでいきます。

また、南極に生息するシャチがアザラシを襲う際、波を起こしてアザラシが乗った氷を細かく砕いたのち、その氷を広場所に運び、その上にさらに波をぶつけてアザラシを落として食べる様子が観察されています。

このように、シャチは様々な方法で、様々な獲物を捕食するのですが、そのうちの一部があのホホジロザメさえ食べてしまっているというのが今回の本題です。

ニシンの群れを襲うシャチ

サメを殺しまわるシャチコンビ

今回、シャチがホホジロザメを襲っている映像が世界初だとして話題になったのですが、今回のニュースの前から、シャチがホホジロザメを襲っているだろうという見立てはありました。

しかも、ホホジロザメを狙って襲っている特定の二個体がいるとされ、殺し屋コンビとして有名でした。

それがポート(Port)スターボード(Starboard)と呼ばれるシャチ達です。

ポートとスターボードはそれぞれ左舷と右舷を表す言葉です。それぞれのシャチの背ビレが左および右に歪んでいるからこのニックネームがつきました。

このポートとスターボードのコンビは2015年頃に南アフリカの西ケープ州沿岸にやってきたとされており、彼らが来て以降、海岸にホホジロザメの無残な姿が打ちあがるようになりました。

ホホジロザメが多く生息するダイアー島で研究を行っているDyer Island Conservation Trustによれば、2017年から今年2022年の間に、少なくとも8尾のホホジロザメが殺されています。

シャチたちはサメの内臓の中でも特に大きく栄養価の高い肝臓を狙っているようで、浜に打ちあがっていた8尾のうち7尾は胸鰭の後ろ側が食い破られ、肝臓を食べられていました。また、一部のサメは心臓まで食されていたそうです。

実際のホホジロザメの肝臓。

そして、こうしたシャチによるサメ狩りが連続したすぐ後、ホホジロザメが逃げるようにその海域を去ってしまい、長期間戻って来なくなってしまいました。

発信機での追跡調査や目視による観察記録をもとに長期的なホホジロザメが目撃される頻度のデータを観てみると、それまで1日に5~10回ほど目撃されていたのが、ポートとスターボードの目撃、およびホホジロザメの死体が打ちあがり始めた時期からガクッと少なくなっています。

『Fear at the top: killer whale predation drives white shark absence at South Africa’s largest aggregation site』内のグラフをもとに作成

さらに、発見されたホホジロザメに特徴的な傷があったことなどから、直接的な狩りの目撃こそないものの、ポートとスターボードという二頭がホホジロザメを殺しまわっているという説が濃厚になりました。

シャチがホホジロザメを襲う決定的瞬間の撮影

このように、シャチがホホジロザメを襲っていると思しき証拠自体は前からあったのですが、実際に襲っている瞬間がはっきりと記録されたことはありませんでした。

その世界で初めての事例が、今回の話題になった映像です。

ドローンによる撮影

2022年5月16日14時半ごろ。南アフリカのモーセル湾の港にてドローンを操縦していたクリスチャン・ストップフォースさんは、数頭のシャチが水面近くを泳いでいるのを発見しました。

ストップフォースさんがドローンでシャチのグループを追っていくと、そのうちの2頭が東側に分かれ、ホホジロザメが多くいることで知られている河口の方へ向かっていきました(このうちの1頭が、先程紹介したコンビの片割れスターボードでした)。

さらに、もう2頭が反対方向に向かって、まるで見張りをするように泳ぎだしました。

それから7秒後。5頭目のシャチが水中から姿を現し、その鼻先には3m近くあるホホジロザメが腹を上に向けている姿がありました。

シャチはすでに死んでいると思われるサメを横倒しにし、腹鰭の後ろあたりを噛みつかれたサメからは血が噴き出しました。

その後、シャチはサメを一度咥えて潜ったもののすぐに放しましたが、周りを泳いでいた別のシャチが尾鰭を咥えて深みへと潜っていき、そのままシャチもサメも見えなくなりました。

ヘリコプターからの撮影

同日2022年5月16日14時ごろ。観光客を乗せて飛行していたヘリコプターのパイロット、ダドリ―・アーチャーさんは、2尾のホホジロザメがシャチに襲われている現場を目撃します。

アーチャーさんは持っていたスマホで撮影を開始し、ホホジロザメの回避行動を記録しました。

ホホジロザメは泳ぎ回るシャチの後をゆっくりと追いかけるようにグルグルと周り、常に相手のシャチを視界にいれるように泳いでいました。

これは、ホホジロザメに狙われたオットセイや、イタチザメと対峙したウミガメなどが行う回避行動によく似ています。

アーチャーさんが撮影した映像は細切れになっていたのですが、記録された映像の中には、

  • 回避行動をとるホホジロザメに近づく別のシャチ
  • 一目散に逃げる他のホホジロザメ
  • ドローンの映像にも登場したスターボード
  • 海に浮かぶ大きなサメの肝臓とそれを食べるシャチの姿

などが収められていました。

※実際の映像はコチラ

シャチの捕食後に姿を消したホホジロザメ

今回の映像が撮影されてから、またしてもホホジロザメが即座に・長期間、モーセル湾付近からいなくなってしまったことが確認されています。

ビーチでは複数のホホジロザメがいくつかの方向に逃げていく様子が目撃され、ドローンで上空から確認できたホホジロザメの数も今回の捕食後に減少していました。

さらに、ホホジロザメを観察するケージダイブのツアーにおいても、捕食前は一度のツアーで平均3.3尾のホホジロザメと遭遇できていたのに対し、シャチの捕食が記録されてからは45日間全く観ることができなくなりました。

先程の事例と合わせて考えても、シャチの出現とホホジロザメへの攻撃が、他のホホジロザメが逃げ出す引き金になっている可能性は非常に高いです。

サメ狩りの文化がシャチの間で広まっている?

今回の件で注目すべきは以下の2点です。

  • スターボードがポートとは別のシャチたちと行動をともにしていた。
  • スターボードではないシャチがホホジロザメを殺していた。

シャチはいくつかのエコタイプに分かれ、母子を中心とした群れで生活すると紹介しましたが、そうした集団によって食性や狩りの方法が異なるだけでなく、鳴き声の違い(いわゆる方言のようなもの)も存在します。

そして、こうした文化と呼べるような習性が、群れの中で伝達・継承されていくことを示唆する研究があります。

今回の映像だけで結論を下すことはできませんが、スターボードやポートから始まったホホジロザメ狩りの文化が、南アフリカ近海に生息する他のシャチにも伝達され、広まっている可能性があります。

シャチのサメ狩りによる生態系への影響

今回のニュースを受けて「シャチすげえ」「シャチ頭いい」「シャチはサメより強い」とシャチを礼賛する声がネットでは上がっていますが、もう少し考えるべき問題があると思います。

それが、生態系への影響です。

ホホジロザメの繁殖については謎が多いのですが、これまでの研究によれば、一度に出産する子供の数は2~17尾程度、メスが成熟するまでに14~30年ほどかかるとされています。

つまり、個体数が減ってしまうと回復まで非常に時間がかかります。

スターボードたちから始まった南アフリカでのホホジロザメ狩りがさらに広まれば、ホホジロザメの個体数が、回復不可能なレベルまで落ち込む恐れがあります。

さらに、ホホジロザメが長期間姿を消したことにより、ホホジロザメの捕食対象であったクロヘリメジロザメが増加していることも確認されました。

クロヘリメジロザメ。

クロヘリメジロザメもホホジロザメ同様にシャチに襲われることがあるのですが、何故か彼らはシャチが出現しても逃げ出すことはなく、ホホジロザメが食べていたオットセイなどの大型動物はあまり襲いません。

これについてはさらに研究が必要な仮説の段階だと思いますが、シャチによるホホジロザメの捕食が増加すると、

  • 絶滅が危惧されるホホジロザメの個体数激減
  • クロヘリメジロザメやオットセイなどの増加
  • それに伴う小魚や海鳥などへの捕食圧増加

など、生態系にさまざまな影響が及ぶことが予想されます。

シャチの捕食は自然の摂理か?

ここまで聞いて、こんな風に思う人もいるかもしれません。

シャチの捕食でホホジロザメが減っても、それは自然の摂理だから別に良くね?

特に、ホホジロザメは世間から人食いモンスター扱いされている一方で、シャチは「強くて頭が良い海のお友達♪」のような信仰の対象になっているので、「シャチがサメを減らすことは良いことだ」という、歪んだ意見をもつ人も出てくる可能性すらあります。

確かにシャチがホホジロザメを狩るのは人間による乱獲や密漁とは異なりますが、ここでは以下の2点を考える必要があると思います。

シャチの行動パターンが人間により変化した可能性

そもそも何故南アフリカのシャチは突然ホホジロザメ狩りをはじめたのでしょうか?

この理由も詳しくは不明ですが、シャチに殺されたホホジロザメについて調査している研究者は、「外洋を泳ぐ魚たちの減少によりシャチの行動パターンが変化したのではないか?」という仮説を提示しています。

もし人間による乱獲や環境汚染の間接的な結果としてシャチのホホジロザメ狩りが始まったのであれば、これを自然の摂理とかいう理屈で放置するべきではありません。

「自然の摂理」とやらに任せることが生態系保全ではない

シャチの捕食が自然の摂理だと仮定して、それでも変化する生態系が僕たちにとって望ましいかどうか慎重に考える必要があります。

生態系・生物多様性を守る大きな理由は、生態系サービスの恩恵を人間が長期的に享受して持続可能な繁栄をしていくため、つまりは人間のためです(少なくとも僕はそう考えています)。

「自然を守る」というのは、自然の摂理などという曖昧な理屈で何もかも受け入れて放置することを意味しません(もしそうなら、僕たちはマラリアのワクチンを開発したり、津波に備えて防波堤を作るべきではないでしょう)。

今回のシャチの出現とホホジロザメの逃亡は、ホホジロザメのケージダイブを行なっている観光業者にとって痛手になりました。

また、ホホジロザメがいなくなることで増えるであろう生物、あるいはサメを食べ尽くした後のシャチ自体が、今後水産業に損害をもたらす可能性もゼロではありません。

南アフリカをはじめ、一部地域ではホホジロザメのケージダイブが観光業になっています。

今まさに起こっている現象の結果を予測するのは難しいですが、ホホジロザメの減少あるいは消失によって生態系サービスが著しく損なわれるのであれば、原因が野生動物のシャチであっても対策を講じるべきです。

ホホジロザメ同様にシャチも絶滅危惧種ですから、駆除したり追い払ったりするわけにもいきません。

しかし、彼らの生態をさらに解き明かし、双方ともに生きていける豊かな生態系を保全していく必要があると思います。

あとがきにかえて

以上が、シャチによるホホジロザメの捕食とその深掘り解説でした。

最後に付け加えておくと、今回のニュースを受けてシャチの凄さばかり持ち上げられがちですが、サメ好きとしてはホホジロザメも凄いと感じました。

圧倒的な脅威が迫ったと素早く察知して一目散に退却するということは、それだけ危機察知能力が優れていることを意味します。

また、その危機から遠く逃げられる高い遊泳力があること自体も、ホホジロザメの高い運動能力を物語っています。

シャチの知能ばかり持ち上げられがちですが、世間で思われているほどの知能と本能の境目はハッキリしないことも考慮すると、勝てない相手からさっさと逃げる、そして逃げる能力を持っているホホジロザメも、十分の頭が良く優れた動物と言えるのではないでしょうか。

参考文献&関連書籍

  • Alison V. Towner, Alison A. Kock, Christiaan Stopforth, David Hurwitz, Simon H. Elwen『Direct observation of killer whales predating on white sharks and evidence of a flight response』2022年
  • AV Towner, RGA Watson, AA Kock, Y Papastamatiou, M Sturup, E Gennari, K Baker, T Booth, M Dicken, W Chivell, S Elwen, T Kaschke, D Edwards & MJ Smale『Fear at the top: killer whale predation drives white shark absence at South Africa’s largest aggregation site』2022年
  • The Guardian『Drone footage shows orcas chasing and killing great white shark』2022年(2022年10月30日閲覧)
  • Science alert『Watch A Great White Become an Orca’s Lunch in World-First Footage』2022年(2022年10月30日閲覧)
  • 村山司『シャチ学』2021年
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