【海展レビュー】国立科学博物館の企画展「海 ―生命のみなもと―」に行ってきたのでサメ・エイ類を中心に紹介します!

先日、東京都の上野にある国立科学博物館(通称:科博)で開かれている特別展「海 ―生命のみなもと―」に行ってきました!

科博では度々「海のハンター展」や「深海展」など海をテーマにした企画展が開催されますが、今回のテーマは海そのものです。

今回は、そんな「海 ―生命のみなもと―」の展示やそこから学べる内容を、サメ・エイ類に焦点を当てながら紹介していきます。

「海 ―生命のみなもと―」は2023年7月15日~10月9日までの開催です。

詳しくは公式HPをご覧ください。

目次

サメ・エイの祖先たち

今回の企画展「海 ―生命のみなもと―」は、合計4つの章で構成されています。

「第1章 海と生命のはじまり」では、小惑星”リュウグウ”から得られた知見とともに、地球に存在する水の起源や海の形成過程、そしてその海で誕生した初期の生物たちが展示されていました。

およそ46億年前に誕生した地球は当初マグマに覆われていましたが、表面が徐々に冷えていくことで大気中の水蒸気が雨となって降り注ぎ、海が形成されたとされています。

「生物」と呼べる存在がその後どのように誕生したのか諸説ありますが、海底の熱水噴出孔で生まれたとする説が有力です。

アルカリ性の熱水噴出によってできた炭酸塩チムニー(実物)

それからシアノバクテリアが生まれ、真核生物が生まれ、多細胞生物が生まれ、サメ・エイ・ギンザメが分類される軟骨魚類が生まれるのはずっと後のデボン紀(4.2億年前のあたり)です。

硬骨魚の仲間(現生で言うマグロなどの魚と、シーラカンスなどを含む肉鰭類、およびそこから進化した人間を含む四肢動物)とはオルドビス紀(4.9億年前あたり)に分岐し、完全に独自の進化を辿ってきました。

つまり、マグロやシーラカンスはサメ類と一緒に「魚類」としてまとめられがちですが、系統で言えば人間の方がサメよりもマグロに近い存在ということになります。

そんな独自路線の軟骨魚類間は文字通り骨格が軟骨で分解されやすく、歯以外の化石が見つかることは非常に稀ですが、今回の海展ではそんな貴重な化石の実物が展示されていました。

ファルカタスという板鰓類の化石。背中にある突起はある個体とない個体が確認されていて、繁殖に関係している可能性が指摘されています。
エキノキマエラという全頭類(ギンザメ)の仲間。
ベラントセア。カエルアンコウのような見た目ですが、ギンザメと同じく全頭類です。

黒潮と親潮:レモンザメ・モノノケトンガリサカタザメ・オナガカスベ

「第2章 海と生き物のつながり」では日本の海に焦点を当て、如何にして海が多様な生物を育んでいるかが解説されています。

日本に住んでいると実感がないかもしれませんが、日本周辺の海は世界有数の生物多様性を誇っています。

2010年時点の研究では、日本の海(排他的経済水域内)は全世界の海の容量のたった0.9%なのに対し、全海洋生物の約13%が出現していると示されています。

「生物多様性を守る」というと、アマゾンをはじめ異国の熱帯雨林を守るイメージがあるかもしれませんが、日本の海はそれに匹敵する、あるいはそれ以上の豊かな環境なんです。

そんな豊かな海を育む重要な要素の一つが海流です。日本には南から流れる黒潮と、北から流れる親潮という巨大な海流が存在します。

暖かい海流と冷たい海流の両方が流れることで日本の海の中に大きな水温の変化が生まれ、多様な生物相を作り出しています。

また、黒潮海域は「生物の種数が多く色や形態も多様だが、種ごとの個体数は少ない」という傾向があり、親潮海域は逆に「生物の種数や色彩、形態の多様性が少なくなるものの各種の個体数は多い」という特徴があります。

今回の海展では、黒潮海域に生息する板鰓類としてレモンザメとモノノケトンガリサカタザメ、親潮海域の代表としてオナガカスベが展示されていました。

このうち、モノノケトンガリサカタザメはいおワールドかごしま水族館でトンガリサカタザメとして展示されていた個体が2020年に別種として新種記載されたエイの仲間です。

トンガリサカタザメに似ていますが、吻先や背ビレの先が丸みを帯びている、背中やヒレに白い斑点が見られないなどの違いがあります。

レモンザメ(左)とモノノケトンガリサカタザメ(右)
オナガカスベ

深海と表層をつなぐポンプ:ホホジロザメ・メガマウスザメ

海における流れは海流だけではありません。

生物多様性を育む横の流れが海流だとすれば、表層と深海をつなぐ縦の流れも存在します。

その一つがホエールポンプと呼ばれるものです。

ナガスクジラやアカボウクジラなどのクジラ類は深海に潜って小さな動物を捕食し、呼吸のために表層まで上昇して糞をします。この時に起こるエネルギーの移動がホエールポンプです。

巨大すぎるナガスクジラの頭骨(4m)。深海で小魚やプランクトンを大量に捕まえます。
タイヘイヨウアカボウモドキの頭骨標本。全クジラの中でも最も珍しいクジラの一種。

植物プランクトンにとっての栄養が乏しい環境でも、クジラ類が深海の動物を食べて表層で糞をするという流れで栄養が運ばれ、植物プランクトンが繁栄します。

それが他の生物のエサになったり、より多くの二酸化炭素を吸収してカーボンニュートラルにも貢献するという効果が生まれるのです。

そして、この現象には”ホエールポンプ”と名付けられていますが、サメ類にも当てはまります。

例えば、いわゆる「深海ザメ」のイメージがないホホジロザメも、水深200m以上の深みに潜り魚やイカを襲っていることが分かっています。逆に、深海ザメのイメージが強いメガマウスザメも、夜間は表層を泳いでいることが確認されています。

海展ではホエールポンプの役割を担う大型サメ類として、ホホジロザメとメガマウスザメの剥製が展示されていました。

なお、メガマウスザメの剥製は、現在は閉館してしまった京急油壺マリンパークで展示されていたものです。なんだか旧友に再会したような気持ちになりました。

鋭く大きな歯をむき出しにしたホホジロザメの剥製。
メガマウスザメの剥製。元々は京急油壺マリンパークに展示されていたものです。

縄文人の貝塚にサメやエイの骨

「第3章 海からのめぐみ」は人類と海との関係性に着目しており、水産資源の利用や航海技術の発展について学ぶことができます。

約700万年前に誕生した人類の歴史において、確認された最古の魚食は195万年前に食べられたオオナマズとされています。

その後に誕生したネアンデルタール人の頭骨から外耳道骨腫(別名サーファーズイヤー。低水温の海の頻繁に入ったりすると発症しやすい)が見つかっていることから、人類はだいぶ前から水棲生物を利用していたようです。

その後30~25万年前あたりに僕たちホモ・サピエンスが誕生し、およそ3万8000万年前に日本に渡ってきたとされています。

当時から貝殻を使った装飾品や釣り針など海産物が利用されていましたが、縄文時代になると各地に貝塚が作られ、より一層海と密接にかかわっていたことが分かります。

そんな貝塚の中からは、サメ・エイ類の歯や脊椎骨の痕跡が見つかることがあります。大昔からサメたちは水産資源として利用されてきたんですね。

貝塚から見つかったサメ・エイ類の骨。

海洋汚染に対して何ができるか?:フトツノザメ

「第4章 海との共存、そして未来へ」では、海の環境や海洋生物にもたらす悪影響と、それに対する取り組みについて解説されています。

先に紹介したように僕たちは古くから海の恩恵に預かってきましたが、経済や文化の発展と共に海洋環境を大きく変えてしまうようになりました。

その中でも特に最近注目されているのが海洋プラスチック問題です。

生物に分解されないプラスチックが尋常ではない量とペース(1年間に約40億トン!)で生産されており、その一部(1年間で900万~1400万トン)が海に流れ出てしまっています。

こうしたプラスチックが与える影響としてイメージされやすいのは生物による誤飲です。

実際にウミガメやクジラの胃の中からプラスチックが見つかっています。

特に、クジラ類はウシなどの反芻動物と同じく胃が複数の部屋に分かれており、誤飲したプラスチックが排出されにくいという問題が起きています。

実際にクジラの胃から発見されたプラスチックごみ

しかし、環境汚染の問題を考える際は、こうした目に見える分かりやすい問題だけでなく、目には見えない側面にも意識を向ける必要があります。

その例の一つが海洋プラスチックから流れ出る化学物質です。

現在使用されているプラスチック製品の多くには、紫外線による劣化や火災を防止するために、添加剤という化学物質が使われています。

こうした物質の中には、自然環境でなかなか分解されず、生物濃縮を通して生物の体内に蓄積し、健康被害を起こしてしまうものも存在します。

このような物質を残留性有機汚染物質(Persistent Organic Pollutants、通称POPs)と呼びます。

こうした有害物質は、小さなプランクトンが吸収する→それを小魚が食べる→それを中型の魚が食べる→それを大型の魚や鯨類などが食べる・・・という食物連鎖を通して濃縮していき、高次捕食者の体内に溜まってしまいます。

今回の海展では、そうした影響を受ける高次捕食者の例としてフトツノザメが展示されていました。

フトツノザメを含む複数の深海ザメの臓器からは、ポリ臭素化ジフェニルエーテル(PBDEs)が高濃度で検出されています。

フトツノザメ

PBDEsはプラスチックを燃えにくくするために用いられていた物質で、先に述べた残留性や毒性の高さから現在は国際的な生産、使用などの禁止が推進されています。

しかし、禁止される前に漏れ出たものや回収できていない商品から漏れているものが今も海洋生物に影響を与えています。

こうした汚染の悪影響は、マグロやサバなどの海中捕食者を日常的に食べている僕たち人間にも及ぶ恐れがあります。

海洋環境問題に取り組むということは「かわいそうな海の生き物を慈悲の心で助ける意識の高い活動」ではなく、すぐそこに迫りつつある人類への悪影響を止める(あるいは少しでも少なくする)活動なんです。

あとがき

今回の企画展は海の誕生、生物多様性、人間とのかかわりなど様々な内容を含んだ展示でした。

以前に開催された「海のハンター展」や「大地のハンター展」などに比べると生物標本の数自体は少ないものの、生物への理解を深めたり彼らを守っていくには、その環境や人間とのかかわりについても学ぶ必要があります。

そういった意味で、今回の海展は海洋生物好きには非常にためになる企画だと感じました。

今回はサメ・エイに絡める都合上、ほんの一部しか紹介していませんが、他にも面白い展示が沢山ありますので、興味のある方はぜひ国立科学博物館の企画展「海 ―生命のみなもと―」を訪れてみてください!

「海 ―生命のみなもと―」の詳細

特別展「海 ―生命のみなもと―」

  • 開催時期:2023年7月15日(土)〜10月9日(月・祝)
  • 開催時間:9時~17時(入場は16時30分まで)
  • 入場料:一般2000円、小・中・高校生600円
  • 会場:国立科学博物館(〒110-8718 東京都台東区上野公園 7-20)
  • 最寄り駅:JR上野駅(公園口から徒歩5分)、東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅(7番出口から徒歩10分)、京成線京成上野駅(正面口から徒歩10分)
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