今回は、サメ界のスピードスターとでも言うべきイケメンなサメを紹介しようと思います。
そのサメというのがアオザメです。
サメ好きであれば名前は知っている抜群にカッコいいサメですが、実はアオザメをあまり知らない方も、知らずに彼らの姿を目にしていたりします。
今回はアオザメの特徴や出演するサメ映画、危険性や保全状況について、非専門家にも分かりやすく解説していきます!
解説記事:実は『ジョーズ』にも登場していた?世界最速とされるアオザメの真実を徹底解説!【Mako shark】【ディープ・ブルー】
このブログの内容は以下の動画でも解説しています!
※動画公開日は2022年1月7日です。
アオザメはどんなサメ?
アオザメは、ネズミザメ目ネズミザメ科アオザメ属に分類されるサメです。
生息域は沖合や外洋域で、世界中の熱帯、温帯海域に分布し、水温が10℃程度の冷たい海にも現れます。日本でも青森県より南の海で確認されています。
大きさは全長約2~3m、大きいものでは4mを超えるとされる大型種で、とにかく見た目がカッコいいです。
とがった顔つき、三角形の背びれ、流線形かつ筋肉質な体つき。そして口から見える鋭くとがった歯・・・。まさにカッコいいサメイメージの典型的な姿がそこにあります。
また、多くのサメとは異なり、アオザメは下側が長い三日月形の尾ビレをしており、しかも尾柄部に強いキール(隆起線)があります。ここもアオザメの推しポイントです。
そして、名前の通り青いボディはメタリックな光沢を放っていて非常に美しいです。死後はこの色が黒ずんでしまいますが、それでもカッコよさと美しさがありますね。
このような特徴からアオザメのファンも多く、「サメ界のイケメン」なんて呼ばれることもあります。
見た目の通り広い海を常に泳ぎ続けるサメで、水深800m以深の深みに潜ることもあれば、時に4000㎞もの長距離回遊をすることもあります。
また、泳ぐスピードがずば抜けて速いことから「世界最速のサメ」としてもよく名前が上がります(遊泳速度については後述)。
アオザメの紛らわしい英名
アオザメは美しい青色のサメという話をしましたが、アオザメの英名はブルーシャークではありません。
ブルーシャークという名前は、ヨシキリザメという別のサメを指します。こちらも生きている時の青色が非常に美しく、クリクリお目目がチャーミングなサメです。
美しい青色をしているという点ではアオザメと似ていますが、ヨシキリザメはメジロザメ目の仲間であり、ネズミザメ目のアオザメとは分類学上離れた種類のサメです。
ではアオザメの英名は何かと言えば、「Mako shark」と呼びます。「Mako」はマオリ語で「サメ」を意味する単語に由来しています。
ちなみに、アオザメ属にはもう一種、バケアオザメというサメがいて、英語ではアオザメをShort-fin mako shark、バケアオザメをLong-fin mako sharkと呼びます。
バケアオザメはアオザメに非常に似ていますが、英名の通りアオザメよりも胸鰭が長いのが特徴です。
アオザメとホホジロザメの違い
アオザメはよく「ホホジロザメに似ている」と言われます。
確かにアオザメはとがった顔つき、流線形で筋肉質な体、尾鰭が三日月形であるなどホホジロザメの共通点を多く持っています。
実際、彼らは同じネズミザメ目ネズミザメ科にグループ分けされ、分類学的にも近い存在です。
サメ好き中級者以上の方は顔つき等で容易に見分けてしまうと思いますが、アオザメとホホジロザメの一番明確な違いは歯の形状です。
アオザメの歯は細長いものが多く、表面が滑らかです。一方、ホホジロザメの歯は幅広い三角形で、縁の部分がノコギリのようにギザギザしています。
ジョーズにアオザメも登場していた?
近い仲間のホホジロザメに比べるとアオザメはマイナーなサメかも知れませんが、実は知らない間に多くの人に見られている、ある意味なじみ深いサメだったりします。
『ジョーズ』に登場するのはホホジロザメですが、実は『ジョーズ』のポスターに描かれているサメはアオザメだとされています。
確かにポスターやDVDのジャケットをよく見ると、ホホジロザメにしては歯が細長く、ギザギザの三角形ではありません。さらに言えば、顔つきもホホジロザメにしてはシャープすぎる気がします。
『ジョーズ』のポスターはロジャー・カステルというアーティストの方が作成したのですが、彼は博物館を訪れたときに、このポスターのような構図で撮られたアオザメの写真を見て、それをもとに絵を描いたそうです。
なので、本編にアオザメは一度も出てこないのですが、映画『ジョーズ』の看板役はアオザメが務めているわけです。
アオザメの出演作品
ジョーズのポスターが実はアオザメという話をしましたが、その他にもアオザメは様々なフィクション作品に登場しています。
代表的なもので言えば、ヘミングウェイの名作『老人と海』です。
さらに、『ジョーズ』と並ぶS級サメ映画として有名な『ディープ・ブルー』に登場するサメもアオザメという設定です。
『ディープ・ブルー』に登場するサメはアオザメにしては目が小さく、人相ならぬサメ相が悪い気がしますが、確かにフォルムはアオザメによく似ていて歯もアオザメに似せて作られていました。
他にも、『パーフェクトストーム』、『MEGザ・モンスター』、『シャークネード』シリーズ、『シーワールドZ』など、出番が少ない物も含めれば、アオザメは色々な作品に出演しています。
映画に登場した回数はサメの中で割と上位かも知れません。
アオザメは人を襲うのか?
『ディープ・ブルー』では次々と人を襲っていたアオザメですが、実際のアオザメはマグロやカツオの仲間、イカ類、他のサメなどを食べています。
アオザメの歯は獲物を突き刺して捕まえるのに適した細長い形状で、ホホジロザメの歯のようにギザギザしていません。
歯の形状から判断するに、人間ほど大きな獲物を食いちぎるよりは、一口か二口で食べられる獲物を好むサメに思えます。
ただし、アオザメが生息する外洋ではいつエサに出会えるか分からないので、エサを選り好みしているというよりは「その海域で手に入りやすい生物を捕食しているだけ」というのが近いと思われます。
このような捕食者を日和見主義的捕食者(Opportunistic predator)と呼びます。
実際アオザメの胃の内容物は海域によって異なり、海生哺乳類やウミガメを襲った事例も存在します。
そもそも人が泳ぐような場所にあまり現れないので襲われることはまずないと思いますが、例えば船が転覆して海に投げ出された場合、あなたがアオザメのメニューに載ることはあるかもしれません・・・。
アオザメが速く泳ぐ体の仕組み
アオザメは「世界一速いサメ」と称されることが多く、実際かなり速いスピードで泳ぎます。
アオザメの見た目自体がシャープな魚雷みたいでスピード感がありますが、さらに彼らは奇網と呼ばれる血管構造を持っています。
エラで呼吸する多くの魚たちは、水中から酸素を取り込む際に外水温で血液が冷やされます。
その冷やされた血液が内蔵の方に向かうため、彼らの体温は下がり水温に近くなります。つまり、人間のように体温を一定に維持することができません。
こうした動物はよく「変温動物」と呼ばれます。
しかし、アオザメを含むごく一部の魚類は、エラから体内に向かう冷たい血液と内臓で温まった血液のそれぞれが流れる血管が隣り合っています。
これにより、体内に向かう血液は温められ、さらにエラに向かう血液が冷やされることで水温との温度差が減るため、海水と接する血管でも熱を奪われにくくなります。
実際アオザメは、周囲の海水温より体温を1~10℃高く保つことができます。
体温が高いということはその分筋肉の活動も活発になる為、アオザメは他の魚やサメ類よりも速く泳ぐことが出来るんです。
アオザメは本当に世界一速いのか?
アオザメの遊泳速度が速いことは間違いありませんが「実際に時速何キロで泳ぐか?」という点については慎重に考える必要があります。
例えば、一部のネット記事ではアオザメの泳ぐスピードを時速50㎞(時には時速96㎞!)と紹介しています。
しかし、これらは古い文献に基づいたものであり、最近は否定されています。
近年のバイオロギングを使った研究によれば、アオザメと同じく奇網を持つホホジロザメやマグロの平均遊泳速度は時速7~8㎞、早いイメージのあるカジキの仲間も時速2㎞ほどとされています。
アオザメについての詳しいデータは見つかりませんでしたが、ホホジロザメと同じく奇網を持つ大型種であること、マグロなど高速遊泳する生物を捕食していることを考慮すると、平均遊泳速度は時速2~7㎞ほどだと思われます。
ただし、獲物を追いかける時のスピードは、当然平均速度よりは速くなります。
ゲームフィッシングで針にかかったアオザメが派手に水中から飛び出すことがありますが、このジャンプは6m以上高くなることもあり、その高さからして飛び出す前の遊泳速度は時速35㎞以上にだと推定されます。
そのため、獲物を襲う、あるいは自分が襲われるなどの緊急時には、それくらいのスピードを出しているのかもしれません。
アオザメは絶滅危惧種?
アオザメは現在、絶滅が危惧されるサメでもあります。
アオザメはマグロなどと一緒に延縄や刺し網でよく混獲され、時にフカヒレや肉を目的に狙って漁獲され、さらにゲームフィッシングの対象にもなるため、世界的には減少傾向にあります。
IUCNレッドリストによれば、南太平洋では例外的な増加が見られるものの、海域によっては約70年間で80%ほど減少してしまっているようです。
生き物を捕まえて利用すること自体は当たり前のことなのでそれ自体を責めるつもりつもりはありませんし、幅広い海を泳ぎ回るアオザメの生態については分からないことも多く、今紹介した数値が完璧だとは僕も思いません。
しかし、アオザメに限らず、サメ類は成熟するまで時間がかかり、他の魚類に比べて子供を産む数も少ないです。
その分大きな子供を産むので子供の生き残る率は高いはずですが、乱獲によって急激に数を減らせば、回復不可能なレベルまで個体数が激減する危険があります。
こうした事情から、IUCNは近年、アオザメの評価をVUから、より深刻な危機に瀕していることを示すENに変更しました。
また、野生生物の国際取引を規制するワシントン条約でも、アオザメとバケアオザメは附属書Ⅱ(商業取引は可能だが許可が必要)に加えられました。
さらに、一部地域ではアオザメを含む一部のサメ類の漁獲自体が禁止されています。
アオザメは確かに肉も美味しく標本もカッコいいサメですが、だからこそいなくなって欲しくはありません。
「昔こんなカッコいいサメがいた」なんて寂しいことを将来言わなくて済むように、彼らを守っていきたいですね。
参考文献&関連書籍
- IUCN Red list『Shortfin Mako』(2022年9月9日閲覧)
- The Jaws Daily『The shark on the Jaws poster isn’t a Great White』2021年(2022年9月9日閲覧)
- 仲谷一宏『サメ ー海の王者たちー 改訂版』2016年
- 矢野和成『サメ―軟骨魚類の不思議な生態』1998年
- 渡辺佑基『ペンギンが教えてくれた物理のはなし』2020年
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