【貴重映像】世界初ホホジロザメの新生児を発見か?幼魚の特徴や繁殖方法を解説!

知名度・人気ともにトップクラスの危険ザメ、ホホジロザメに関するビッグニュースが舞い込んできました。

2024年1月29日、国際科学雑誌の『Environmental Biology of Fishes』に、産まれたばかりのホホジロザメと思しきサメの写真及び映像に関する記事が掲載されました。

実際の映像がコチラ↓

映像に映るサメの大きさ、ヒレの特徴、そして白いフィルムのようなものが剥がれ落ちている様子から、これは産まれたばかりのホホジロザメの可能性があると報告されました。

この神々しく美しい白いサメが本当にホホジロザメなのかは議論の余地があり、一部の専門家は、皮膚になんらかの異常を持つ個体かもしれないと指摘しています。

では、そもそもホホジロザメはどのように繁殖し、幼魚はどんな姿をしているのでしょうか?

今回は撮影された映像や投稿された記事に絡めて、ホホジロザメの幼魚の特徴や興味深い繁殖方法について解説をしていきます。

目次

解説動画:【貴重映像】世界初ホホジロザメの新生児?ジョーズの赤ちゃんと驚異の子育て!

このブログの内容は以下の動画でも解説しています!

※動画公開日は2024年2月17日です。

ホホジロザメ幼魚の特徴は?

今回ニュースになったホホジロザメが新生児であるという根拠の一つに、その体のサイズやヒレの特徴が挙げられていたので、成魚と幼魚の違いに重点を置きながら特徴を見ていきます。

ホホジロザメは成魚の全長が3.4~4.7m、大きいものでは6mに達することもある大型のサメです。

身体的特徴をまとめると以下の通りです。世間的にイメージされる怖くてカッコいいサメのイメージのほとんどが、このホホジロザメに由来していると思います。

ホホジロザメの主な特徴まとめ

ではこのホホジロザメの幼魚はどんな姿をしているのでしょうか?

ホホジロザメの出生サイズは全長は1.3~1.5mほどで、2尾~14尾ほどの産まれてきます。4~5mのメスが出産することを考えれば結構大きな赤ちゃんですね。

そして後でも触れる通り、ホホジロザメは胎生のサメなので、産まれてくる赤ちゃんも成魚と大きくは変わりません。

ただし、成魚のホホジロザメのヒレは全体的に先が尖っているのに対し、幼魚のホホジロザメは第一背ビレの先が明らかに丸みを帯びているという違いがあります。

また、ホホジロザメの幼魚の歯には副咬頭という、左右に小さく突き出たトゲのような部分があります。

この副咬頭は同じネズミザメ目の仲間であるシロワニやネズミザメも持っており、これらのサメは成魚になっても副咬頭が残っているのに対し、ホホジロザメは成魚になると無くなってしまいます。

ホホジロザメ幼魚の第一背ビレ。先が丸くなっています。
ホホジロザメ幼魚の歯。下顎歯の左右に小さく尖った部分があります。

ホホジロザメは卵とミルクで子供を育てる

今回撮影されたホホジロザメについて、「泳ぐときに剥がれ落ちている白い膜のようなものが、子宮内の物質なのではないか?」という仮説が提示されています。

では、そもそもホホジロザメは子宮内でどのように成長するのでしょうか?

ホホジロザメの卵食

一般向けのサメ図鑑では、ホホジロザメは母胎依存型胎生・卵食タイプと紹介されます。

ホホジロザメの赤ちゃんは体に最初から備わっている卵黄の栄養だけでなく、母胎から排卵されてくる卵を子宮内で食べることによって大きくなるのです。

卵食自体は他のネズミザメの仲間であるアオザメ、シロワニなどにも共通しています。

ホホジロザメの胎仔。卵を沢山食べたことで胃が大きく膨れています。

ホホジロザメの子宮内ミルク

ホホジロザメはさらに、子宮内で赤ちゃんにミルクを与えていることも分かっています。

2014年2月13日、沖縄県読谷村の定置網にて、全長4m95cmの妊娠したホホジロザメが混獲されました。

沖縄美ら島財団がこの妊娠個体を調べたところ、54.3~62.4cmの胎仔が6尾と、大量のミルクのような白濁食の液体が発見されました。

発見された胎仔はヒレが未発達なエイリアンを彷彿とさせる見た目でしたが、顔にホホジロザメの面影があり、小さな歯も生えていました。

そして、母親の子宮内壁を詳しく調べた結果、子宮内から大量に出てきた白い液体は脂質を多く含んだミルクであり、子宮内壁の絨毛組織から分泌されていることが明らかになりました。

同じ板鰓類であるエイの仲間、例えばアカエイやマンタ類で子宮内ミルクが分泌されることは分かっていましたが、サメの仲間で子宮内ミルクが確認されたのは今回が初めてでした。

ホホジロザメのミルクと哺乳類のミルクの違い

ここまで話を分かりやすくするため、ホホジロザメの子宮から見つかった液体を「ミルク」と当たり前のように呼んできましたが、哺乳類のミルクと分泌方法が異なることも後に判明しています。

哺乳類の母乳が乳腺で作られる際、脂質を含んだ細胞の一部が千切れ、その千切れた部分が集まってミルクを形成します。このような分泌方法をアポクリン分泌と呼びます。

対してホホジロザメの子宮内ミルクは、子宮内壁の細胞が脂質を蓄えた後に破裂することでミルクを分泌し、破裂して死んだ細胞が新しい細胞に置き換わるという方法で採用しています。このような方法はホロクリン分泌全分泌と呼ばれます。

なお、分泌方法の違いは同じ板鰓類の仲間であるアメリカアカエイとホホジロザメの間でも見られ、一口に同じ子宮内ミルクと言っても分泌方法などで多様性があるようです。

哺乳類とホホジロザメにおけるミルク分泌方法の違いイメージ。

ホホジロザメは3つの栄養供給段階を持つ

これらの情報を過去に発見された妊娠個体に関する知見と合わせて考えると、ホホジロザメは

  1. 元からついている卵黄の栄養である程度成長する
  2. その後は子宮内壁から分泌されるミルクを摂取して70~80㎝ほどまで大きくなる
  3. さらに妊娠後期になると排卵されてくる大量卵を食べて1.5m近くまで成長する

という、三段階の栄養供給を受けていると考えられます。

また、ミルクを分泌していた子宮内壁の組織は、卵食をする頃には魚のエラに似た構造へ変化し、より多くの酸素を提供できるようになるということも分かっています。

この複雑な栄養提供が進化の過程で獲得されたって考えるだけでロマンですし、こんなに大量の栄養を与える方法で複数の赤ちゃんを同時に育てる母ザメが凄すぎますね。

ホホジロザメ胎仔への栄養提供3段階まとめ

撮影されたサメは本当に新生児のホホジロザメだったのか?

以上を踏まえたうえで、今回の映像に映ったホホジロザメが新生児なのかどうか考えていきましょう。

白いホホジロザメ撮影の詳細

動画が撮影されたのは2023年7月9日、場所は米国カリフォルニア州カーピンテリアの海岸から約0.4㎞離れた場所です。

このカーピンテリアという場所は、過去にも若いホホジロザメが沢山現れて人間の近くを泳いでいると話題になった場所です(詳細はコチラ)。

ビーチでドローンを飛ばしてホホジロザメを撮影していたカルロス・グアナ氏とフィリップ・スターネス氏はCBSニュースの取材に対し「岸から300m程離れた場所で、大きなホホジロザメが水中に潜るのを発見し、その数分後にこの白く小さなサメが現れた」と答えています。

撮影された映像から推定されるホホジロザメのサイズは約1.5mで、当初はアルビノのホホジロザメだと思ったそうです。

しかし、映像を確認したところサメが泳ぐうちに白いフィルムのようなものがまるで脱皮するように剥がれていったことに気付いたそうです。

もしこのサメがアルビノや白変種であれば、膜が剥がれた部分から通常のグレーっぽい体色が見えることはありません。

グアナ氏とスターネス氏はこの映像について、

  • 撮影されたホホジロザメのサイズがホホジロザメの最小サイズに近いこと
  • 第一背ビレの先が丸いなどホホジロザメの幼魚特有の特徴が見られること
  • 撮影された場所が過去の研究で提唱されたホホジロザメが出産場所と重なり、時期も合致していること
  • 同じ日時に同じ場所で大型の成熟個体が確認されていること

などを根拠に、撮影された白いホホジロザメは新生児で、肌についているのは子宮内物質ではないかという仮説を提示しました。

動画開始から35秒~ほどの映像で、体から何かがはがれているのが分かります。

新生児とする根拠の問題点

これがもし本当にホホジロザメの白変種であれば世紀の大発見ですが、残念ながらそう断言するのは現在難しいです。

まず、並べられている根拠が全て状況証拠であり、出産の瞬間が記録されたわけではありません。

次に、投稿された記事の中でグアナさんたちは「ホホジロザメが子宮内ミルクを分泌するということを考えれば、この子宮内ミルクあるいは他の液体が生まれた直後で体に貼りついていた可能性はある」としていますが、先程解説した通り、ホホジロザメの母体は妊娠後期になると子宮内ミルクを分泌しなくなります。

さらに、同じネズミザメ目の仲間であり卵食をするシロワニというサメは出産の瞬間が記録されていますが、新生児は特に白い膜のようなものは身にまとっていませんでした。

シロワニの赤ちゃんが産まれる瞬間の映像はコチラ↓

以上のことから、今回撮影されたホホジロザメは、繁殖に関わる物質に覆われた新生児だったのか、それとも皮膚に何らかの異常がある個体だったのか、はっきりと分からない状況です。

とはいえ、いずれにしても人類がまだ解明していないホホジロザメの謎であることに代わりありませんから、今後の研究で解き明かされるのを楽しみに待っていようと思います。

参考文献

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