【BGサメ図鑑】シロワニ Carcharias taurus

標準和名シロワニ
学名Carcharias taurus Rafinesque, 1810
英名Sand tiger shark, Grey nurse shark, Spotted-ragged tooth shark
分類ネズミザメ目 シロワニ科 シロワニ属
生息域東太平洋を除く世界各地の熱帯、温帯海域。日本では小笠原諸島などに生息。
飼育難易度★★★☆☆(水族館で長期飼育の実績あり)
サメ好き偏差値★★☆☆☆(サメ好きなら常識レベル)
目次

シロワニの特徴

シロワニは鋭く尖った歯をむき出しにした顔が特徴のサメです。顔つきと体格のせいで人喰いザメ扱いされがちですが、後述する通り大人しいサメです。

主な特徴を画像にまとめると以下の通りです。

サイズ

全長はオスが190~200cmほどで、メスは220~230cmほど。メスは最大で3m以上に達します。

体型や顔つき

円錐型の吻、非常に小さい目、歯がむき出しになった大きな口、がっしりした体つきが特徴です。

5対のエラ孔は胸鰭の始まりより前に位置しています。

また、水族館に展示されている複数のシロワニを観察していると、メスの方が体が太く、オスは細いという明らかな体格の差が見られるため、個人的に性的二形ではないかと推測しています。

ヒレの特徴や位置関係

シロワニは第一背ビレが体の後方にあり、胸ビレよりも腹ビレ側に位置しています。また、臀ビレは第二背鰭よりやや後方にあります。

また、一般的にイメージされるサメは第一背ビレと胸ビレ以外のヒレが小さいと思いますが、シロワニは第一背ビレ、第二背ビレ、腹ビレ、臀ビレが全てほぼ同じサイズで幅が広い三角形なのも特徴です。

体色や模様

背中側の色は明るい茶色、褐色、灰色、緑がかった灰色などと表現されることが多いです。「シロワニ」という名前に反し、白っぽく見えることはあまりありません(図鑑の説明にそう書いてあることはありますが・・・)。

腹側は基本的に白色ですが、個体により背中側の色が侵食したように、お腹側にも模様が入っていることもあります。

また、体の側面に不規則な斑点模様がよく見られます。一部の図鑑では「この模様は幼少期によくみられ、成魚になると消滅する」などと紹介されていますが、成熟した個体でも斑点は確認できます(薄れることはあるようです)。

歯の形状

シロワニの歯は細長く先の尖った牙のような形状で、左右に小さな副咬頭があります。この小さな副咬頭が可愛らしいというのはシロワニの推しポイントの一つです。

なお、上顎歯と下顎歯で形状の違いはほとんどありません。

また、シロワニの歯は抜け替わりのサイクルが速いのか、よく水族館の水槽底に落ちているのを見かけます。

シロワニの歯
歯が一本抜け落ちそうなシロワニ。

似ている種との見分け方

シロワニと似ているサメにはオオワニザメが挙げられますが、以下のような特徴で見分けられます。

  • オオワニザメの方がクリクリした大きな黒目をしている。
  • オオワニザメの第一背ビレはシロワニと比べて明らかに胸鰭に近い位置にある。
  • シロワニの第二背ビレ、腹ビレ、臀ビレは第一背ビレとほぼ同じサイズなのに対し、オオワニザメはこれらのヒレがやや小さい。
  • シロワニの歯は副咬頭が基本的に左右一つずつだが、オオワニザメの歯は二つかそれ以上ある。

シロワニの分布

東太平洋を除く世界各地の熱帯、温帯海域に分布しています。

日本近海では小笠原諸島でシロワニを観ることができ、他にも南日本、伊豆諸島で記録があります。

相模湾や駿河湾でも記録があるようですが、漁獲や目撃の話をほとんど聞かないため、現在見られる可能性は非常に低いと思います。

シロワニの生息環境

シロワニは沿岸域の比較的浅い場所に生息しています。

水深232mでの記録もあるようですが、多くの場合は水深15~25mほどの岩礁などで暮らしており、よく洞窟船や珊瑚礁、沈没船などを住処にしています。時には水深1m程度のビーチや港にも現れます。

浅瀬の洞窟などは体の大きなシロワニが泳ぎ回るには不向きに思えますが、シロワニは水面から吸い込んだ空気を胃の中に貯めることでウキブクロの代わりにするという面白い特技を持っています。

これにより、ほとんどのサメは一定速度で泳ぎ続けないと底の方に沈んでしまう中、シロワニは非常にゆっくり泳ぐか、ほぼ静止した状態でも浮力を維持することができます。

昼間は基本的にじっとして夜に活発になりますが、回遊することもあります。

シロワニの食性

様々な種類の硬骨魚、小型のサメやエイ類などを食べ、時に甲殻類も捕食します。

歯の形状からも分かる通り、一口か二口で食べられるような小さな動物を主に食べており、全長2mを超えるあたりからトラザメ類やガンギエイ類などの板鰓類を多く食べるようです。

また、シロワニは時に一定の社会構造を持った群れで暮らし、共同で狩りをすることがあります。

シロワニの繁殖方法

繁殖方法は母胎依存型胎生の卵食タイプで、母胎内の赤ちゃんが他の卵を食べることで成長します。

また、シロワニは子宮内で卵だけでなく他の赤ちゃんも食べていることが確認されていることから、子宮内共食い(embryophagy)をするサメとしても知られています。

実際にこれまで確認されたシロワニの出産では、二つ子宮それぞれから1尾ずつ産まれてきています。

ただし、この子宮内共食いが確認されたのは一例のみであるため、「子宮内共食いをするのが本当に一般的なのか?」という疑問は残ります。

また、一般向けのメディアやサメ図鑑ではシロワニが子宮内共食いをする唯一のサメのように紹介されることがありますが、同じネズミザメ目で卵食タイプのアオザメでも子宮内共食いが確認されています。

なお、出産の際、仔ザメは尾ビレから出てきます。

シロワニの胎仔
アクアワールド大洗で死産になったシロワニの胎仔。

シロワニと人間のかかわり

シャークアタックの危険性

International Shark Attack Fileによれば、これまで発生したシロワニによる非誘発性の事故(Unprovoked attack)は36件、そのうち死亡事故は0件です(2023年8月14日現在)。

歯をむき出しにした顔と体の大きさゆえに危険ザメと思われがちですが、実際には非常に大人しいサメです。

小笠原諸島をはじめとする一部のダイビングスポットではシロワニと泳ぐことが可能で、僕も実際に野生のシロワニと泳いだことがあります。

ただし、人間が近づいても逃げないことが多いため、迂闊に触ってしまうことで噛まれたり体当たりされて怪我をするリスクはあります。絶対に触らないようにしましょう。

消費利用や観光業

インド洋北部とアフリカ西海岸では食用として利用されているようです。

北米やオーストラリアでも利用されていた歴史がありますが、現在は保護対象となっています。

シロワニは浅い水深を主な生息域とし、サメらしい迫力ある姿でありながら動きが遅く大人しいため、ダイビングでは非常に人気なサメです。

水族館飼育

シロワニはネズミザメ目で唯一、安定して長期飼育が可能なサメです。

2023年7月現在で、アクアワールド茨城県大洗水族館、すみだ水族館、鳥羽水族館、マリンワールド海の中道など、数多くの水族館で飼育されています。

シロワニは体が大きいですが浅瀬に暮らしており、動きも基本的にはゆっくりなので、狭い環境への適応能力が高いのだと思われます。

また、アクアワールド茨城県大洗水族館は日本初(世界で5園館目)になる、人口環境下でのシロワニの繁殖に成功しています。

この個体(個体番号がNo.9であることから通称キューちゃん)は2021年6月17日に出産され、同年10月17日から2023年7月現在まで常設展示中です。

その後もアクアワールド大洗では2023年5月に2尾目のシロワニ(No.10)が生まれていますが、残念ながらこの個体は死亡しています。

なお、現在日本の水族館で展示されているシロワニのほとんどは南アフリカやオーストラリアから輸入された個体ですが、すみだ水族館のシロワニだけは日本の小笠原諸島から連れてこられた国産のシロワニです。

水族館生まれのシロワニ(通称キューちゃん)
すみだ水族館のシロワニは日本で唯一の国産個体展示です。

保全状況

IUCN Redlistではシロワニを近絶滅種(Critically Endangered)と評価しています(2023年7月現在)。

西オーストラリアでは回復傾向が見られるものの、全体的には数を減らしており、絶滅が心配されています。

約70年ほどで西オーストラリアの個体群が80%以上減少し、西アフリカや東南アジアの個体群は80%以上、北大西洋や南アフリカの個体群は30~49%ほど減少したとされています。

また、南西大西洋、地中海、アラビア海にもシロワニが生息するとされていますが、数が激減したためほとんど見られず、すでに現地の個体群は絶滅している可能性もあります。

参考文献

  • David A. Ebert, Marc Dando, and Sarah Fowler 『Sharks of the World a Complete Guide』2021年
  • Florida Museum of Natural History『Carcharias taurus』(2023年8月27日閲覧)
  • IUCN Redlist『Sand Tiger Shark』(2023年8月27日閲覧)
  • Jose I. Castro 『The Sharks of North America』 2011年
  • Malcolm J. Smale『The diet of the ragged-tooth shark Carcharias taurus Rafinesque 1810 in the Eastern Cape, South Africa』2005年
  • Shoou-Jeng Joung, Hua-Hsun Hsu『Reproduction and Embryonic Development of the Shortfin Mako, Isurus oxyrinchus Rafinesque, 1810, in the Northwestern Pacific』2005年
  • アクアワールド茨城県大洗水族館『シロワニ幼魚(個体番号:No.10)の死亡について』2023年(2023年8月27日閲覧)
  • 公益財団法人いばらき文化振興財団『【アクアワールド茨城県大洗水族館】「日本初!シロワニの赤ちゃん展示開始」【2021年10月12日(火)~】』2021年(2023年8月27日閲覧)
  • 佐藤 圭一, 冨田 武照『寝てもサメても 深層サメ学』2021年
  • 仲谷一宏 『サメ ー海の王者たちー 改訂版』2016年
  • 沼口麻子 『ほぼ命がけサメ図鑑』2018年 
  • 矢野和成 『サメ 軟骨魚類の不思議な生態』1998年 
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