【BGサメ図鑑】ネムリブカ Triaenodon obesus

標準和名ネムリブカ
学名Triaenodon obesus (Rüppell, 1837)
英名Whitetip reef shark
分類メジロザメ目 メジロザメ科 ネムリブカ属
生息域インド洋・太平洋の熱帯および亜熱帯海域の沿岸に分布
飼育難易度★★★☆☆(水族館で長期飼育の実績あり)
サメ好き偏差値★★☆☆☆(サメ好きなら常識レベル)
目次

ネムリブカの特徴

ネムリブカは体が細長く、吻が短くて平ら、眼は猫っぽいなど、一見サメらしい姿ではあるものの怖さは感じられず、カッコよさよりも可愛さが強いサメに思えます。

また、グレーメインの体色の中に白い模様が入っているのがオシャレなファッションのようで愛らしいです。

主な特徴を画像にまとめると以下の通りです。

サイズ

全長は大きくても170cm程度です。2mを超えるという報告もありますが誇張されたものか非常に例外的な事例と思われ、だいたい1~1.5m程の個体が多いようです。

体型や顔つき

ネムリブカは全体的に体が細長いサメです。

吻は非常に短く、口幅の半分ほどもありません。また、吻先は丸みを帯びていて頭はやや平たい形をしています。

眼はやや猫目気味の楕円形で、メジロザメ科では珍しく鼻孔には皮弁があります。

さらに、泳ぎ続けなくても呼吸ができるサメ(ドチザメなど)は目の後ろにある噴水孔が大きいことが多いのですが、ネムリブカは噴水孔が非常に小さい(ほぼない)のも特徴です。

ネムリブカの顔。噴水孔らしきものが見えません。

ヒレの特徴や位置関係

第一背ビレが体の後ろ側にあり、胸ビレよりも腹ビレ近くに位置しています。第二背ビレと臀ビレが大きく、第二背ビレは第一背ビレの3/4程度の大きさがあります。

また、ネムリブカの幼魚は成魚に比べると全長に対して尾ビレ上葉が長いです。

若干丸みを帯びたガラス越しの写真なため正確ではありませんが、写真上で割合を測ってみると、確かに幼魚の方が全長に占める尾鰭の割合が10%ほど高いことが確認できました。

ネムリブカの幼魚と成魚の尾鰭比較。正確に計測したものではないので扱いには注意。

体色や模様

背中側は灰色で、茶色っぽいか青みがかって見えることがあります(光の加減や個体差による)。体の側面には斑点模様がランダムに散らばっています。

他の多くのサメ類同様にお腹側は白いものの、ホホジロザメなどのようにはっきりと分かれているわけではなく、グラデーションに近いです。

また、第一背ビレと尾ビレ上葉の先がはっきりと白くなっているのも特徴で、この模様が英名「Whitetip reef shark(白い縁のあるリーフのサメ)」の由来です。

なお、第二背ビレには白い模様がないことが多いものの、たまに第二背ビレにも白い模様の入っていることもあります。

歯の形状

ネムリブカの歯は三叉に分かれており、これが学名の「Triaenodon」の由来になっています。

真ん中に太くて長い尖った部分があり、その左右に1~2つの副咬頭があります。

ネムリブカの歯。左が上顎歯、右が下顎歯。

ちなみに、ネムリブカの歯の形状はドチザメに似ており、実際に本種は1960~70年代頃までドチザメ科の仲間とされてきました。

しかし、以下のような特徴を持つことから、ネムリブカは現在ドチザメ科ではなくメジロザメ科に分類されています。

  • 瞬膜がある。
  • 尾ビレ前に明確な凹みがある。
  • 噴水孔が非常に小さいかほぼ存在しない。
  • 尾鰭下葉が発達している。
  • 腸の内部構造が葉巻型である。

似ている種との見分け方

ヒレの先が白いという点ではヨゴレとツマジロが似ている種と言えますが、顔つきや体格などが明らかに異なるため、ネムリブカと混同する可能性は皆無だと思われます。

一応違いを挙げるなら、ツマジロもヨゴレも典型的なサメ型と言える流線形の体をしており、両方ともネムリブカより吻が長く、第二背ビレと臀ビレが小さいです。

さらに、ツマジロは全てのヒレ先に白い模様があり、ヨゴレの白い模様はネムリブカやツマジロほど明確に分かれていません。

見た目の違いとは異なりますが、ネムリブカとヨゴレの英名は「Whitetip」という部分が共通しているので、「Whitetip shark」という呼び方だとネムリブカとヨゴレどちらの話をしているのか分かりづらいということはあるかもしれません(なお、ツマジロの英名はSilvertip sharkです)。

左がツマジロ、右がヨゴレです。

ネムリブカの分布

ネムリブカはインド洋・太平洋の熱帯域に幅広く分布しています。

紅海、ミクロネシア、オーストラリア、沖縄など、ダイビングが盛んな地域の沿岸と生息域が被っており、こうしたダイビングスポットでは最もポピュラーなサメの一種です。

余談ですが、僕がダイビング中に初めて出会った野生のサメはネムリブカでした。

ネムリブカの生息環境

ネムリブカは水深8~40mの浅い場所に生息しています。

水深1mより浅い場所に現れるのは珍しいとされていますが、小笠原諸島の南島や母島などでは非常に浅い場所に集まるネムリブカが目撃されています(僕も父島のビーチでキャッチ&リリースをしていた時、水深50cmもないような場所に集まって来たネムリブカを見ています)。

逆に、沖縄の読谷で水深330mという深海からの記録がありますが、極めてまれな事例だと思われます(記録を記載した谷内先生ご自身が疑ったほどです)。

サンゴ礁でよく見かけるサメであり、昼間は海底や洞窟の中で大人しくしていることが多いです。

メジロザメ類の中では珍しく口腔ポンプ換水をするサメで、泳ぎ続けなくても口をパクパク動かすことでエラに海水を送って呼吸することができます。

ほとんど回遊せずに一か所にとどまり、それぞれ決まった洞窟を使うことも多いです。ただし、強い縄張り意識はないようで、他のネムリブカと折り重なるように洞窟に入っていることもあります(その様子が実に可愛らしいです)。

実際に寝ているとは限りませんが、この眠っているような姿が「ネムリブカ」という名前の由来になっています。

岩礁と思しき場所で並んでいるネムリブカ。

ネムリブカの食性

サンゴ礁や岩礁にいる硬骨魚や甲殻類、タコなどを主に襲って食べます。

昼間はじっとしていることが多いものの夕方から夜にかけて活発になり、岩の隙間に入った獲物も頭を突っ込んで襲います。

ネムリブカの吻がメジロザメ類の中でも特に短く体が細長いのは、このように狭い場所に逃げ込んだ獲物を襲いやすいよう進化した結果だと思います(あるいは、吻の短いサメがこうした狩りの方法を確立させたのかもしれません)。

ネムリブカの繁殖方法

繁殖方法は母胎依存型胎生の胎盤タイプで、栄養が吸収された後の外卵黄嚢が臍の緒・胎盤を形成し、母ザメから直接栄養を受け取ります。

妊娠期間は約1年ほどで、少なくて1尾、多くて6尾の子供を産みます。生まれたばかりの子供は体の色が淡く、目が大きくてどこか小生意気な顔をしており、最高に可愛いです。

アクアワールド茨城県大洗水族館では、2021年8月頃に交尾が観察された1年後の2022年8月27日に4尾の出産が確認されています(雄1尾・雌3尾。そのうち雌1尾は4日後に死亡)。

ネムリブカの幼魚。

ネムリブカの人間のかかわり

シャークアタックの危険性

International Shark Attack Fileによれば、これまで発生したネムリブカによる非誘発性の事故(Unprovoked attack)は5件、そのうち死亡事故は0件です(2023年9月28日現在)。

ネムリブカは非常に大人しく小型の動物を襲うサメなので、積極的に人間を襲う確率はゼロに近いです。ISAFで記録されているUnprovoked attackについても、何かしら特殊な状況だったのではないかと思います。

ただし、熱帯や亜熱帯地域ではダイビングおよび釣りで出会いやすいサメなので、釣り上げた時やダイバーがサメにイタズラしたりすることで噛まれる危険性はあります。

消費利用や観光業

食用にされることはあるようですが、シガテラ毒の危険性が高く、積極的に食べるべきサメとは思いません。

先述の通りダイビングでよく見かけるサメなので、食品利用よりも観光資源として考えた方が良いでしょう。

水族館飼育

水深の浅い場所に生息するサメで常に泳ぎ回らないためか、水族館での飼育は容易な方です。アクアワールド茨城県大洗水族館、マクセルアクアパーク品川、新江ノ島水族館、大阪海遊館など、数多くの園館で長期飼育されています。

ただし、ネムリブカは水槽の底で動かないことも多いため、死角のある水槽ではほとんど見られないこともあります。

保全状況

IUCN Redlistはネムリブカを危急種(Vulnerable)と評価しています(2023年10月7日現在)。

混獲を含めた漁業活動や娯楽目的の釣りなども影響はしていますが、サンゴ礁を主な住処としているため、生息域の破壊、気候変動の影響などの要因の方が深刻な危機と言えるでしょう。

参考文献

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