種を超えた友情?サメがウミガメを救うディズニー的な感動物語の真相とは?【動物の利他的行動】

「サメが他の動物を助けた」と聞いたら信じられるでしょうか。

にわかには信じがたい話ですが、そんなことが現実に起きたと主張する動画がTwitterに投稿されました。

ウミガメを運ぶように水面に現れてボートに近づいてくるサメ。サメがいなくなった後にウミガメを船の上に上げてみると、首にロープのようなものが絡まっているのを発見。ロープから解放されて海に戻っていくウミガメ。

これらの様子に英語の字幕とナレーションがつけられ、「サメがウミガメを助けるために船に届けた」という美談になっています。

元のツイートが1,783イイね、597リツイート(2023年6月15日現在)、拡散した日本語アカウントはそれ以上の数値を出しています。ネタなのか本気なのか、コメント欄にも「こんなことあるんだ」や「種を越えた友情!」という驚きや称賛の声が集まっているようです。

では、実際にサメがウミガメを助けることはあり得るのでしょうか?

今回はこの動画の真相や、サメの利他的行動の可能性について解説していきます。

目次

解説動画:種を超えた友情?サメがウミガメを救うディズニー的な感動物語の真相とは?【動物の利他的行動】

このブログの内容は以下の動画でも解説しています!

※動画公開日は2023年6月13日です。

ウミガメ救出動画の真相

先に結論を言ってしまうと、この動画は完全なヤラセであり、サメはカメを助けていません。

ディズニー映画のお涙頂戴でもあるまいし、サメがカメを助けるなんてことは99.99%ないと僕は断言します。

では、何故そう言い切れるのか?この動画の問題点を順番に解説していきます。

動画に映っていたサメの食性

今回動画に映っていたサメはイタチザメという種類です。

イタチザメは全長4mを超えることもある大型種で、ホホジロザメの次いで多くの人を襲っている危険ザメでもあります。

このイタチザメは、「海のごみ箱」とあだ名がつくほどの悪食で、胃の中から様々な生物やごみが見つかっていますが、その中でも特にウミガメをよく食べていることが知られています。

イタチザメがサーファーを襲ってしまうのも、ウミガメと勘違いしているという説が有力です。

イタチザメ

そんな何でも食べるうえにウミガメをよく襲っているイタチザメが、わざわざ獲物を助けるようなことをするのか?かなり疑わしいです。

実際の動画を見てみると、カメを食べようとするように口を何度か開いていて、実際に噛んでいるように見えるシーンもあるため、食べようとしていたのは間違いないと思います。

カメの方も、サメに身を任せているように思えず、自分を食おうとしているサメから逃れるために抵抗しているように見えます。

人がカメを助けるとどうやって認識した?

次に問題になるのが、「ボートに近づければカメが助かるとどうやって理解したのか?」ということです。

僕たちは自分たち人間やボートに関する知識があるため、以下のような複数の予測を立てることができます。

  • 海の上に浮かぶあの細長い物体は乗り物である。
  • その上にはホモ・サピエンスという手先が器用な動物が乗っている。
  • 彼らの多くはウミガメに対して好意的な感情を持っている。
  • 彼らに届ければ無条件でウミガメを助けてくれるだろう。

しかし、これらの予測をサメが出来るとは到底思えません。

こういう言い方をすると、サメの知能が低いように思われるかもしれませんが、他の野生動物でもここまで理解することはまず無理です。

そもそも、カメを食べずに助けるという行為が「賢い」という思考は、「他者を助けるのは良いこと」や「ウミガメは守るべき存在」という価値観に基づいた人間本位な考えです。

「厳しい自然界の海では、次にいつ獲物に出会えるか分からない。だからそんなカメはさっさと食うか、食わないなら放置する方が賢い」という考え方もできます。

二つの動画を組み合わせたフェイク

根本的な問題ですが、この動画自体がフェイクだと思われます。

サメに襲われているカメを釣り人が助ける動画と、研究者がカメからロープを取り除く動画の二つをつなぎあわせ、そこに英語のナレーションと字幕を付けて「サメがカメを助けた」というストーリーを捏造しているようです。

実際に素材にされた動画はコチラ↓

そして、素材にされた釣り人側の動画を見ると分かりますが、間違いなくサメがカメを殺しにかかっています。

つまりこの動画は、ディズニー的な世界観が現実にもあると思い込んでいる、あるいはそう信じたがっている人からのイイねやリツイート欲しさの、クソ詐欺動画であるとみなすのが妥当です。

サメは他の動物に利他的になり得るか?

今回取り上げた動画はフェイクでしたが、サメが他の動物を助けたりすることはあるのでしょうか?

ほとんど研究されていないテーマだと思うので僕の推測ですが、サメでは「種を越えた絆」のような利他的行動は起こりにくいと思われます。

今回の動画で捏造された「種を越えた絆」的な物語が起こるケースとして、単なる偶然や人為的な影響で起こる場合を除けば、次の二つが考えられます。

利害に基づく協力関係

一つ目は、協力すれば自分も何か利益を得られる「情けは人の為ならず」の関係です。

例えば、ホンソメワケベラという魚は、自分より大きな魚の口の中の食べカスや寄生虫を食べることで知られています。

この場合、ホンソメワケベラの「他の魚を掃除する」という行動には「食料を手に入れる」というメリットがあり、大型魚の「ホンソメワケベラを食べない」という行動には「掃除してもらえる」というメリットがあります。

生物学的には、こうした関係を相利共生と呼びます。

大型魚の口やエラの中に入り掃除をするホンソメワケベラ。

注意しなければならないのは、片方しかほとんど利益を得ていないのに、人間から見ると相利共生に見えてしまうケースもあるということです。

例えば、大型サメ類によくくっついていることでお馴染みのコバンザメは、「張り付かれる大型魚が寄生虫を食べてもらえ、コバンザメは食料を得られて泳ぐエネルギーも節約できる」という双方にメリットのある関係に見えます。

しかし、実際には張り付かれる側にそこまでメリットはなく、コバンザメが一時的な一方的に利益を得ている片利共生という説が有力です。

本能の誤作動

二つ目は、本来血縁者などに対して発揮される行動が、何らかの理由で別種の動物に発揮される場合です。

2017年タンザニアにて、ヒョウの子供に授乳するメスのライオンが確認されました。

無防備で何の利害関係もない赤ちゃんはエサでしかないはずなのに、襲わないどころか、わざわざ自分の栄養で作ったミルクを分け与えていたのです。

感動的な話に思えるかもしれませんが、自分の遺伝子を残すうえで何のメリットもない個体に自分の資源を与えてしまっているという点で、この事例はカッコウの托卵に近いと感じました。

カッコウは自分で卵を育てず、他の鳥の巣に卵を産み付けて育てさせます。

カッコウの卵は巣の持ち主が生んだ卵より早く孵化し、生まれたヒナは他の卵を巣から突き落として皆殺しにします。

成長したカッコウのヒナは宿主の鳥より体が大きくなり、見た目も全く異なるのですが、巣の持ち主はカッコウの雛を我が子のように育て上げます。

これは宿主の鳥が進化の過程で獲得した「自分の巣にいる子は我が子と認識する」や「黄色い口を開けて餌をねだっている子にはエサを与える」などの本能が、本来発揮すべきでない時に発揮されている、誤作動のような事態だと言えます。

先のヒョウに授乳したライオンも、同時期に近い年齢の我が子を育てていたそうなので、そうした複数の条件が重なったことにより、子育ての本能をヒョウの子供に向けてしまったのでしょう。

サメでは本能の誤作動が起こらない?

以上を踏まえて、サメの利他性について考えていきます。

何故「種を越えた絆」的な現象がサメで起こりにくいのかと言えば、前者の「利害に基づく協力関係」なら起こり得ますが、後者の「子育て本能の誤作動」がまずあり得ないからです。

サメやエイの仲間でも、先程紹介したホンソメワケベラなどに自分を掃除してもらうことがあります。

また、珊瑚礁で小魚を捕まえるためにハタがウツボとある種の協力関係を築いている事例が確認されており、サメが獲物を襲うために他の生物と協力する可能性もあるとは思います(あまり聞いたことはありませんが)。

しかし、サメ類は子育てをせず、その他誤作動を起こすような血縁者に対する世話や保護をほとんど行いません。

オスはメスと交尾したらそれっきりで、メスも卵を産み落とすか出産すれば終わりです。

卵生のサメであれば、産んだ直後の卵を巻き付けたり、流されにくい場所に運んだりすることはありますが、その後は献身的に世話をしたり守ったりすることはありません。

これは、サメが非情だとか知能が低いという話ではなく、それで問題ないような子供の産み方をしているからです。

胎生のサメであれば、赤ちゃんは成魚をそのまま小さくしたような、自分で泳げて狩りもできる状態で産まれてきます。卵生のサメも、魚全体で考えればかなり巨大で硬い卵を産み落とします。

彼らは、無防備な状態の子供を世話するのではなく、そもそも食べられにくくて生き残りやすい子供を産むという繁殖様式を採用しているんです。

ネムリブカというサメの赤ちゃん。親とほとんど変わらない姿で産まれてきます

子育てをしない以上、他の動物を子供や血縁者などと勘違いして助ける可能性はゼロに等しいです。

したがって、サメが他の動物を助けているように見える行動が起こることはあり得ますが、子育てを行う動物に比べれば、その可能性は低いと言っていいと思います。

夢を見たいならフィクションでやれ

ここまで聞いて「夢を壊すな」とか意味不明なことを言う人も多分いると思いますが、「夢を見たいならフィクションでやれ」。以上です。

ディズニーの動物系作品にも、

ニモの父親は性転換してメスになっていないとおかしい

シンバの元の群れにいるメスは全員彼の血縁者だから群れに戻っても近親相姦になるだけ

など、生物学的に言えばおかしいところが沢山あります。

それでも、間違っているから直せと僕は言いません(解説のネタや切り口にすることはあります)。

何故なら、フィクションだと誰でも分かる形で作られており、これがリアルだと勘違いする人がいても「現実を調べずに勘違いする方が悪い」と言えるからです。

しかし、今回取り上げたような動画は明らかに騙そうとして作られたものであり、このような悪意のあるコンテンツを許すわけにはいきません。

AIの発達や普及により、今回取り上げた動画よりも巧妙なフェイクが今後増えてくると予想されます。

科学の基礎知識や思考法を身につけ、こうした詐欺的なコンテンツから身を守れるようにしていきたいですね。

参考文献

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