瀬戸内海にジョーズ出没?本格サメ小説『ホワイトデス』のあらすじや魅力を解説!【ネタバレなし】

つい先日、「サメ好きには特に読んで欲しい!そうではない人にもお勧めしたい!」と思える小説が発売されました。

それが雪富千晶紀著の本格サメ小説『ホワイトデス』です。

「ホワイトデス」という言葉を初めて知った方のために説明すると、『ジョーズ』のモデルにもなった最も危険とされるサメ、ホホジロザメの呼び名の一つです。

よく紹介される英名は「Great white shark」ですが、「White shark」、「White pointer」など様々な呼び名があり、「White death(白い死神)」もその一つです。

実際のホホジロザメ

サメがメインテーマの小説ということで早速読んでみたんですが、これは物語として面白いだけでなく、現実の野生動物との向き合い方についても学びを与えてくれる作品だと感じました。

そこで今回は、本格サメ小説『ホワイトデス』のあらすじや魅力について紹介していきます!

作品の結末や核心部分のネタバレはしませんが、序盤に起こる出来事や登場人物の心情変化などは解説いたします。予めご了承ください。

目次

解説動画:瀬戸内海にジョーズ出没?本格サメ小説『ホワイトデス』のあらすじや魅力を解説!【ネタバレなし】

このブログの内容は以下の動画でも解説しています!

※動画公開日は2023年5月25日です。

『ホワイトデス』あらすじ

 『ホワイトデス』がどのような作品か端的にお伝えすると、日本の瀬戸内海に突如現れた巨大ホホジロザメの恐怖と、そのサメをめぐる人々の苦悩や活躍を描いた物語です。

この作品には様々な人物が登場しますが、物語の大筋は湊子という大学生と、盛男という現地の漁師の二人を軸に展開していきます。

サメを守りたい女子大生

1人目の湊子は海洋生物学を学ぶ大学2年生で、研究室の課題に取り組むため、同級生とともに瀬戸内海を訪れます。

しかし、人一倍海洋生物への愛情が強い彼女は、学業に取り組む傍ら、日本で活動する海外の環境保護団体SMLのボランティアとしても活動していました。

そんな中、自分たちの活動拠点である瀬戸内海の海に6m級のホホジロザメが現れ、人間を次々に襲っているというニュースが報じられます。

さらに、湊子はSMLの協力もあり、正体不明の何かが瀬戸内海にサメを閉じ込めていることを知ります。

「絶対にサメを駆除されたくない!」という強い想いのもと、湊子はSMLの駆除反対活動に参加しながら、サメが出られなくなっている要因を調べ始めます。

サメを駆除したい漁師

もう一人のメインキャラクターである盛男は孫もいるような年齢の地元漁師で、まだ20代の息子と共に瀬戸内海でタイラギ漁をしていました。

しかし、ある日の漁で潜水していた息子がサメに襲われ、行方不明になってしまいます。

息子を失った悲しみに加え、潜り手を失って漁も続けられなくなった盛男は、サメを駆除しないよう説得しにきた湊子たちから、サメが瀬戸内海に何故かとどまっていることを聞かされます。

湊子たち保護団体への反発と息子を奪ったサメへの憎悪を糧に、盛男はわが子の敵である巨大ザメに戦いを挑みます。

単なる保護VS駆除ではない

このように、本作はサメを救いたい余所者の少女と、サメを殺したい地元の老年漁師という、相反する視点を軸にして進みますが、「保護VS駆除」という単純な構図ではありません。

サメが人を襲う恐ろしい描写や漁師とサメとの戦いを描きつつも、サメがとどまる原因を突き止めようとする科学ミステリーも展開され、最後には衝撃の真相と怒涛の展開が待ち受けています。

内容は盛りだくさんですが散漫になることなく、細かい描写や設定が後半で伏線回収され、一本の筋でつながったストーリーになって行く様子は見事でした。

サメ好き、パニック好きはもちろん、ミステリーが好きな人も楽しめる一冊だと思います。

『ブルシャーク』の続編?

本作の著者である雪富さんは、この前にもサメが登場する小説『ブルシャーク』を執筆しています。

タイトルの通りオオメジロザメが登場する作品なのですが、実はこの『ブルシャーク』と『ホワイトデス』は世界観が繋がっており、前作で活躍したサメの専門家の渋川マリをはじめ、前作に出てきたキャラクターも登場します。

先程紹介した湊子も、渋川の教え子という設定です。

また、前作をまだ読んでいない方のためにぼかして言いますが、前作の後半で明らかになった、あるサメ類の異常が本作にも絡んできます。

前作を読んでいなくても十分楽しめると思いますが、細かい設定や人物関係までしっかり把握しておきたい場合は、『ブルシャーク』から読むことをお勧めします。

ちなみに、前作『ブルシャーク』はサメ映画の原点『ジョーズ』の流れに沿い、序盤は中々サメが姿を見せず「そもそも本当に相手はサメなのか?」という感じで進むのですが、本作は最初からホホジロザメが暴れまわります。

サメが登場するという点では共通していますが、テイストや流れは見事に書き分けられており、本作『ホワイトデス』が『ブルシャーク』の二番煎じということはありません。その点はご安心ください。

ベースになった実話:瀬戸内海サメ襲撃事件

本作のあらすじを聞いてピンときた方も既にいると思いますが、この作品は、実際に日本で起きたサメの事故をモチーフにしていると思われます。

それが俗に『瀬戸内海サメ襲撃事件』と呼ばれるシャークアタックです。

1992年3月愛媛県の松山にて、海中でタイラギ漁をしていた漁師が何かに襲われ、行方不明になりました。

船の上にいた漁師が潜水服を引き上げた時には漁師の姿はなく、潜水服は大きく切り裂かれ、ヘルメットの金属部分には穴が開いていました。

懸命な捜索の甲斐もなく、漁師も襲った生物も見つからなかったのですが、傷の大きさ、残された歯のかけら、当時の水温などの状況から、漁師を襲ったのは全長5m級の巨大なホホジロザメだったと結論付けられました。

その2か月後には兵庫県で巨大なホホジロザメが漁獲され、さらに3か月後の6月には愛媛県で小型ボートがサメに襲われる事故も発生し、映画『ジョーズ』さながらのパニックが起きました。

※瀬戸内海サメ襲撃事件の詳細はコチラ

事故の概要を改めてみると、本作『ホワイトデス』で盛男の息子が襲われる場面に非常に似ていますし、物語の舞台も瀬戸内海、時期も同じく3月です。

物語の中でも、「昔タイラギ漁中にサメの事故があった」というセリフが出てくるので、この事故を参考にしていることは間違いないと思います。

この他にも、沖縄でイタチザメの駆除をしているベテラン漁師や、日本への入国を拒否されているテロリスト的な保護団体など、明らかに実在のモデルがいそうな人間たちが登場するので、サメ好きとして妙なリアリティを感じました。

湊子の過激に思える保護思想も「少しイタイけど若気の至りで許される」という、現実にいそうな姿を描いており、生き物周りの人間関係が非常によく表現されていると思います。

人を食うサメは悪なのか?

この『ホワイトデス』は作品として面白いだけでなく、野生動物との向き合い方について学びを与えてくれるように感じました。

本作は先程紹介した通り、サメ駆除を悪と考え守ろうとする湊子と、サメを卑劣な悪魔のように憎み殺そうとする盛男の二人を中心に展開します。

世間的には湊子が過激な保護思想を持った危ない人で、盛男の方は至極真っ当に感じるかもしれませんが、本作で個人的に注目して欲しいのはこの二人の心情や考え方の変化です。

息子の仇としてサメを追う盛男は、強大すぎるサメの力に圧倒され、サメを利用して金儲けしようとする人々に苛立ち、自分よりもサメ狩りに長けた漁師と出会うなど、サメ騒動を通じて様々な経験をします。

そんな中で彼は、サメを殺したいという思いを抱えつつも、サメが悪ではないこと、より厳密に言えば、人間にとって危険なことと悪であることは別だと理解し始めます。

もう一人の偏った考えを持っていた湊子も、サメを守りたいという想いを行動原理にしながらも、後半ではサメだけでなく苦しむ人々を思う気持ちがセリフに現れるようになり、「人間の都合でサメを殺すのは常に悪なのか」という問題に直面することになります。

僕はこの本を読んで、現実世界でも理解されるべきテーマがここにあるのではと感じました。

例えば、害獣や外来種の対応を議論する際、駆除の必要性を訴える側と、動物に罪や悪意はないから命を奪うのはおかしいという人の対立がよく起こります。

しかし、そもそも悪や罪なんてものは人間社会が勝手に生み出したもので、野生動物にそんな概念はないはずです。

サメが人を襲うと”凶悪な人食いザメ”と騒ぎたてられますが、彼らに悪意はありません。

サメからしたら「海で手に入った肉」というだけで、魚、イカ、アシカ、人間、これらに肉としての量や質以外の違いはありません。

作中のセリフに絡めて言うなら、彼らは利己的な遺伝子の乗り物として精いっぱい生きているだけ。「人間を食べたら悪」というのは人間側の勝手な都合です。

しかし、だから全てを受け入れろというわけではありません。

動物たちの悪意のない生き方が、人間にとって極めて残酷な脅威になることがあります。それに抗うのは生物として当然です。

だから、「人間を食うサメは悪だから殺す」も「サメに悪意はないから駆除はおかしい」も、悪だの悪意だのに焦点を当てている時点でずれています。

自然は常に中立で、何の善意もなく恵をもたらすこともあれば、何の悪意もなく残虐に振舞うこともあるという視点で、どう向き合っていくかを考える必要があるのではないでしょうか。

本作『グレイトホワイト』は、ただ単にサメの恐怖をいたずらに煽るわけではなく、逆にサメの保護思想を押し付けることもしません。

時に残酷だけど悪意はないという自然の中立性、それを一面的にしか観ない人の偏り、安易に利用しようとする人の愚かさなど、現実世界にも通じる問題を提示してくれているように感じました。

この記事でほんのわずかでも興味を持っていただけたのであれば、ぜひ実際の作品を手に取って読んでいただければと思います。

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