なぜシュモクザメの頭はトンカチ型なのか?ハンマーヘッドの理由を徹底解説!

サメに詳しくない方でも「シュモクザメ」や「ハンマーヘッドシャーク」と聞けば、どんな姿をしているサメなのかすぐに想像できると思います。

カッコいい・ヘンテコ・可愛い・キモイなど人によって評価が分かれつつも、その不思議な見た目からシュモクザメ類の知名度や人気は高いです。

では、なぜシュモクザメの仲間はハンマー型の頭をしているのでしょうか?

本記事では過去に行われた研究などをもとに

  • ハンマーヘッドにはどんなメリットがあるのか?
  • 成長過程でどのようにハンマーヘッドが形成されるのか?
  • どのような進化を経てハンマーヘッドが誕生したのか?

上記3点の疑問にお答えしていきます。

目次

解説動画:シュモクザメの頭は何故トンカチ型なのか?ハンマーヘッドの理由を徹底解説!

このブログの内容は以下の動画でも解説しています!

※動画公開日は2023年12月14日です。

シュモクザメの頭の構造

まずはシュモクザメの頭がどうなっているのかおさらいしておきましょう。

ご存知の通り、シュモクザメの頭は左右に長く張り出しており、左右それぞれの端に眼球と鼻孔があります。

アカシュモクザメの頭骨標本

なお、こうした形状の頭を持つサメは「シュモクザメ」や「ハンマーヘッド」という名称でひとまとめにされがちですが、現在は9種の仲間に分かれています。

その中にはハンマーというよりも団扇に見えるウチワシュモクザメや、逆に頭が横に長すぎるインドシュモクザメなど多様な仲間がいます。

シュモクザメ類2属9種まとめ。

ハンマーヘッドの機能的な理由

どういう経緯でハンマーヘッドになったにせよ、厳しい自然界で今もまとまった数が生き残っているということは、あの頭の形が生存に有利に働いているはずです。

まずはハンマーヘッドの機能的な利点を紹介します。

嗅覚を使う上で有利になる

先ほど見て頂いた通り、シュモクザメの鼻孔は張り出した頭の先にあります。

サメが獲物を探す際、まず音を感じ取って獲物の存在に気付き、次に水中を漂う獲物の臭いをキャッチします。

この時、左右の鼻孔が離れていることにより、臭い左右どちらの方向から強い臭いが来ているかをかぎ分け、より正確に獲物がいる方向を知ることができます。

視野が広くなる

シュモクザメは鼻孔だけでなく、眼球も頭の端にそれぞれついています。これにより、彼らは他のサメよりも広い視野を持つことができると示す研究があります。

フロリダ・アトランティック大学の研究者が複数のシュモクザメ類を対象に、いわゆる”普通の頭”をしたサメであるニシレモンザメやハナグロザメと比較してどれくらい視野が広いのかを測定しました。

それぞれのサメの目に光を当ててそれに対する反応を電極で測定するという方法で左右の眼の視野が重なる部分の面積を測定したところ、垂直方向の視野はハンマーヘッドと普通のサメで大差ありませんでした。

しかし、水平方向の視野を比較した結果、アカシュモクザメの視野はニシレモンザメなどに比べて約3倍もの広い範囲が見えていることが分かりました。

また、シュモクザメ類でありながら頭の張り出し具合が控えめなウチワシュモクザメの場合、ニシレモンザメ達よりも少しだけ広い数値にとどまりました。

以上の結果から、ハンマーヘッドには視野を広げる効果があると言えそうです。

実験対象のサメたちの視野

より広い範囲の電気を感じ取る

サメやエイの仲間は、ロレンチーニ瓶という感覚器官をもっています。

サメ類の頭をよく見てみると、小さな穴のようなものがたくさん並んでいます。これがロレンチーニ瓶と呼ばれるもので、穴の中にはゼリー状の物質が詰まっています。

シュモクザメの顔。青髭みたいな小さな穴がロレンチーニ器官です。

サメ類はこのロレンチーニ瓶で生物が出す微弱な電気を感じ取ることができるため、獲物が隠れていても見つけることができます。

シュモクザメ類もロレンチーニ瓶を持っており、しかも頭が左右に張り出しているので配置されている面積も広いです。

したがって、砂の中などに隠れた獲物を探す際により広い範囲の電気を感じ取り、獲物を見つけやすくなるというメリットがあります。

頭を使って舵取りをする

シュモクザメのハンマーヘッドには、泳ぐ際の方向転換に役立つという機能もあります。

シュモクザメの仲間は頭が左右に張り出しているだけでなく、頭のすぐ後ろのあたり(人間で言えば首に当たると思いますが、厳密には首ではない)に、他のメジロザメ類よりも大きな筋肉を持っています。

これにより、シュモクザメは他のサメよりも頭を上下に大きく動かすことができます。

北海道大学の仲谷先生の研究によれば、他のメジロザメ類の頭が上に30度動かせ下には全く動かせなかったのに対し、シュモクザメは頭を30度上げるだけでなく下方向にも15度動かせたそうです。

要はシュモクザメたちは、ハンマーヘッドを可動域の広い飛行機の翼のように利用して、頭でかじ取りをしているわけです。

実際に水族館でシュモクザメを観察していると、素早く泳いでいる状態でも急角度で方向転換をしたり、狭い範囲でクルクル回転したりと、方向転換や細かい動きが特異なのが分かります。

今度水族館でシュモクザメを見る時は、頭の形だけでなくその泳ぎ方にも注目してみてください。

頭で獲物を押さえつける

ヒラシュモクザメというシュモクザメ類の最大種が、ハンマーヘッドを使ってエイを襲っている様子が過去に確認されています。

1988年5月24日、バハマの北ビミニ島近海を泳いでいたダイバーが、アメリカアカエイを襲う3mほどのヒラシュモクザメと遭遇しました。

彼らが観察した内容をまとめると以下の通りです。

STEP
底の方を泳ぐエイを追いかける

ヒラシュモクザメはダイバーの上を泳いでいたかと思うと、海底付近を泳いでいたアメリカアカエイに猛スピードで向かっていきました。

STEP
距離を詰めて頭を振り下ろす

アメリカアカエイとの距離を詰めたヒラシュモクザメは、平たい頭を叩きつけるようにしてエイを攻撃します。

STEP
頭で抑えつけて噛みちぎる

ヒラシュモクザメはエイに対してもう一度頭を叩きつけ、その頭をエイに押し付けたまま噛みつき、胸ビレを噛み千切りました。

このように、ヒラシュモクザメは自身のハンマーヘッドを、獲物のエイを押さえつける道具として使っているようです。

アカエイ類の尾には鋭い毒針がついているのですが(詳しくはコチラ)、ヒラシュモクザメには効かないようで、エイの毒針が顎に刺さったまま普通に生きていけるようです。

ヒラシュモクザメ
ヒラシュモクザメの顎骨。よく見ると歯茎に当たる部分にアカエイ類の毒針が刺さっています。

一つ補足をすると、このハンティング方法はヒラシュモクザメで確認されただけなので、他のシュモクザメ類も同じようにエイを襲っているのかは分かりません。

全てのシュモクザメ類がエイを多く食べているわけではありませんし、この狩り自体が浅瀬でないと出来ないと思われるので、大型かつ沿岸に生息するヒラシュモクザメ特有かもしれません。

ハンマーヘッドはどのように産まれる?

ここからはハンマーヘッドの理由を発生過程から見ていきます。

シュモクザメの繁殖と出産

シュモクザメの仲間は全て母胎依存型胎生の胎盤形成タイプです。つまり、赤ちゃんは母親のお腹の中で卵黄や臍の緒から栄養を受け取り、小さなサメの姿で産まれてきます。

こちらの写真はシロシュモクザメの赤ちゃんです。臍の緒がお腹から伸びていて、胎盤に繋がっています。

赤ちゃんの頭に注目してみると、成魚に比べて頭の幅が少し短い気がしますが、産まれてくる時点ですでにハンマー型をしているのが分かります。

母胎内の胎仔がハンマーヘッドになる過程

お腹の中で胎仔がハンマーヘッドになっていく過程が、ウチワシュモクザメというサメで観察されました。

複数の妊娠個体から胎仔を取り出して観察した結果、全長2㎝程度では比較対象となったトラザメ類との違いはあまり見られませんでした。

しかし、サメらしいヒレが徐々に出来上がり始める全長3㎝~4㎝頃になると、ウチワシュモクザメの胎仔は骨格が急に左右に張り出し、眼や鼻孔も左右に移動し始めます。

全長と両眼球の距離をグラフ化すると、全長2cm程度では比較対象であるトラザメ類とそこまで変わりありませんが、全長3~4cmあたりで両目の距離が急に離れているのが分かります。

実際のウチワシュモクザメ

ウチワシュモクザメの成魚はだいたい76~90cmほどの小型のサメですが、それでも出産されてくる子供のサイズは24~34cmほどになります。

今回の実験結果から、シュモクザメは発生のかなり初期の段階でハンマーヘッドになると言えそうです(ただし、ウチワシュモクザメ以外のサメで発生過程が変わる可能性もあります)。

ハンマーヘッドはどのように進化した?

最後に、シュモクザメがハンマーヘッドをしている理由を進化の視点から考えていきましょう。

「進化はゆっくり進む」というイメージを持つ人は、普通の頭を持つメジロザメ類から少しだけ頭が左右に飛び出たサメが生まれ、その系統が徐々にハンマーヘッドになっていったと考えるかもしれません。

しかし、コロラド大学とフロリダ大学の研究チームが出した結論は逆でした。

シュモクザメ類8種のDNAを詳細に分析した結果、いわゆる普通の頭を持っているメジロザメ類から最初に分岐したのはインドシュモクザメであり、ウチワシュモクザメが最も新しい種であると判明しました。

つまり、最初に頭が極端なほど左右に長い種が誕生し、そこから張り出し方が控えめなシュモクザメ類が分岐していったことになります。

シュモクザメ類の系統樹。

一応補足しておくと、「ウチワシュモクザメが一番優れている」や「頭の張り出しは結局失敗だった」という話ではありません。

各シュモクザメ類は大きさも生息環境も異なるので、それぞれの環境やサイズなどに合った頭の形が獲得されていったのでしょう。

頭が左右に張り出すという大きな変異が自然淘汰の中で子孫に伝わり続け、浅瀬を泳ぐ小型種から外洋を泳ぐ大型種まで多様な仲間を生み出していったことは非常に興味深いですし、実にロマンを感じますね。

まとめ

以上がシュモクザメがハンマーヘッドである理由の解説でした。

今回の内容をまとめると以下の通りです。

  • シュモクザメのハンマーヘッドには感覚器官をより効果的に使える、頭を動かすことで機敏な動きができるなどのメリットがあり、頭を狩りの道具として使う仲間もいる。
  • シュモクザメは母親のお腹の中ですでにハンマーヘッドになっており、発生のかなり速い段階で頭が左右に張り出し始める。
  • 進化の歴史において、インドシュモクザメのような突出した頭のサメが最初に誕生し、その後の進化の過程でアカシュモクザメやウチワシュモクザメ等が生まれていった。

本記事をきっかけに、きっかけにシュモクザメへの理解を少しでも深め、魅力に気付いてくれる方が増えれば幸いです。

参考文献

  • The Conversation(Gavin Naylor)『Why do hammerhead sharks have hammer-shaped heads?』2022年
  • David A. Ebert, Marc Dando, and Sarah Fowler 『Sharks of the World a Complete Guide』2021年
  • D. M. McComb, T. C. Tricas, S. M. Kajiura『Enhanced visual fields in hammerhead sharks』2009年
  • Steven R. Byrum, Bryan S. Frazier, R. Dean Grubbs, Gavin J. P. Naylor, Gareth J. Fraser『Embryonic development in the bonnethead (Sphyrna tiburo), a viviparous hammerhead shark』2023年
  • Wesley R. Strong, Jr., Franklin F. Snelson, Jr. and Samuel H. Gruber『Hammerhead Shark Predation on Stingrays: An Observation of Prey Handling by Sphyrna mokarran』1990年
  • 仲谷一宏『サメのおちんちんはふたつ ふしぎなサメの世界』2003年
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