2026年5月18日正午ごろ、大分県大分市にある田ノ浦ビーチにて、シュモクザメが泳いでいるのが目撃されました。
サメの全長は約80cmほど(一部報道では1mとも)の小さなサイズでしたが、この事態を受けて大分市は同ビーチでのマリンスポーツを禁止するという措置を実施しました。なお、目撃時点で海水浴は解禁前でした。
大分県にある水族館、大分マリーンパレス水族館うみたまご(以下うみたまご)の職員はメディアの取材に対し、以下のように回答しています。
“小魚を追って沿岸海域に入ってそのまま田ノ浦ビーチに入ったのかなと思う”
“子供といえど歯は鋭い歯をしているので噛まれるとまちがいなく病院に行くくらいの大けがをする。サメを見つけたら岸から上がるということを守ってほしい”
『海水浴場に“アカシュモクザメ” 清掃業者が目撃 市はマリンスポーツを一時禁止に「小魚を追って入ってきたか」 【大分発】』より引用(うみたまご職員、鳥越善太郎氏のコメント)
その後5月21日に行われた目視とドローンでの安全確認でサメが確認されなかったため、現在はマリンスポーツの禁止は解除されているとのことです。
実際のニュース映像はコチラ↓
このニュースに対して、ネットでは様々な反応がありました。

岸のすぐ近くにサメが出るなんて怖い



シュモクザメに中学生が食べられたことあったよね



シュモクザメは危険じゃないのに対応が大げさでは?



何で”ハンマーヘッドシャーク”と呼びたがるの?
今回は「大分のビーチに現れたシュモクザメ」というテーマで、危険性や対策、メディア報道の是非について解説をしつつ、上記のような意見・疑問に僕なりに回答していきます。
解説動画:田ノ浦ビーチに現れたシュモクザメは人喰いザメ?ハンマーヘッドシャークの危険性や対策の是非を解説!
このブログの内容は以下の動画でも解説しています!
※動画公開日は2026年6月5日です。
田ノ浦ビーチ現れたサメの危険性
まず最初に一番皆さんが気になるであろう、現れたサメの危険性についてお話します。
結論から言えば、今回のサメは大して危険では無いと僕は思います。
今回見つかったのは先程も伝えた通り、シュモクザメの仲間です。うみたまごの方は「アカシュモクザメ」としていました。
日本近海には、以下3種類のシュモクザメがいるとされています。
- アカシュモクザメ(Sphyrna lewini)
- シロシュモクザメ(Sphyrna zygaena)
- ヒラシュモクザメ(Sphyrna mokarran)






このうちアカシュモクザメとシロシュモクザメは頭の形状や歯の形などをよく見ないと見分けが難しく、公開された映像だけでは厳密に見分ける僕には自信はありません。
ただし、いずれのシュモクザメの場合も今回お伝えする内容にそこまで影響しないと思うので、「アカシュモクザメであろう」という前提で、ひとまず話を進めます。
アカシュモクザメは積極的に人間を攻撃するサメではありません。
彼らは主にイカ類や小型の硬骨魚、甲殻類など、人間よりもずっと小さな動物を食べています。ある程度大きな個体であれば小さなサメなども食べますが、人間を狙って襲ってくることはまず無いと思っていいです。
実際にアカシュモクザメを見るためにダイビングで潜っている人は数多くいますが、シュモクザメが襲ってきたなんて話は聞いたことがありません。今回のニュースが話題になった時も「むしろ観に行きたい」とテンションを上げてるダイバーの方もいました。
まして、今回目撃されたのは生後数か月もしないような幼魚です。仮に人間が水の中で一緒にいたとしても、向こうから逃げてしまうと思います。
もちろん、何かの偶然が重なったり、捕まえようとするなど人間が危害を加えた時に噛まれるリスクはあります。なので注意するに越したことはないですが、過度に心配する必要はないでしょう。
シュモクザメは人喰いザメか?
シュモクザメは危険性が低いという話をすると、一部から否定的な意見をもらうことがあります。
今回はそんな意見を二つ取り上げて、僕なりに回答していきます。
反論1:大きなシュモクザメであれば危ない
まず一つ目が、「今回現れたのは小さいけれども、大きいシュモクザメなら危険である」という意見です。
アカシュモクザメを含め、日本近海に生息するとされるシュモクザメ類は大きくなると3mを超えます。体つきも今回撮影された幼魚と比べて太くがっしりとしてきて、歯も大きくなります。
なので、本気で噛みついてきたら大怪我になるのは間違いありませんし、ひょっとすると死亡事故につながるかもしれません。


ただし、「噛まれたら大怪我になるか」と「積極的に噛んでくるか」は別問題です。
先にも触れた通り、アカシュモクザメは人間より小さな動物を主に食べています。ダイバーの経験則からしても人間に積極的に近づいてくるサメではないので、噛まれる確率は非常に低いです。
世界中のサメ関連事故をまとめているInternational Shark Attack Fileによれば、シュモクザメ類によるUnprovoked bites(人間側が攻撃を誘発していない事故)の件数は18件、そのうち死亡事故は0件となっていました。
確かに事故は起きていますが、約10種ほどいるシュモクザメ類を合計してもこの程度です。三大危険ザメとされる三大危険ザメ・ビッグ3と呼ばれるホホジロザメ・イタチザメ・オオメジロザメには遠く及びません。


サメの事故自体がそもそも稀であることを考えると、「危険性は極めて低い」と評価するのは妥当だと思います。
「大きいシュモクザメなら歯が大きいから危険だ」という人は、通り魔と料理人を比較して「料理人だって包丁を持っているから危険だ」と言っているように僕は感じてしまいます。
生き物の危険性というのは、持っている能力だけでなく、気性の粗さ、遭遇率など、複合的な要素を元に考えるべきでしょう。
反論2:天草で女子中学生がシュモクザメに食べられた
シュモクザメが危険だという人が好んで持ち出してくる事例が、「天草で女子中学生がシュモクザメに食べられた」という話です。
俗に「天草女子中学生サメ襲撃事件」と呼ばれます(本来は”事故”と呼ぶべきだと思いますが、ネット上では”事件”と表記されがちです)。
この事故では、熊本県天草郡の沖合で泳いでいた当時13歳の少女が、下腹部をサメに大きく噛み千切られ即死して、その犯人がシュモクザメとされています。
この事故を根拠に「シュモクザメは危険な人喰いザメである」と主張したがる人が一定数いるのですが、この事故がシュモクザメによるものというのは非常に疑わしいです。
この事故がシュモクザメによるものだとする根拠で言われているのが「噛み跡がシュモクザメに似ていた」というものですが、専門家や公的機関から発表された情報での確認ができず、本当に噛み跡の検証が行われたのか真偽不明です。
そもそも噛み跡だけで種を絞り込むのは相当難しいので、「シュモクザメ類」というかなり具体的なところまで特定する時点で専門家が関わっているはずで、なにかしらアカデミックな文書が残っていそうなものです。しかし、そういった事実を示す記録、または参考文献にしているサイトは見つかりませんでした。
「当時その海域でシュモクザメが多く目撃されていた」なんて話が根拠に用いられている記事もありましたが、シュモクザメなんて普段人間が意識しないだけで普通に海を泳いでいるので、こんな情報は事実だとしても何の証拠にもなりません。
今となっては真相は確かめようがありませんが、僕は「天草で女学生がシュモクザメに殺された」という話は、他の大型サメ類など別の動物による事故だったか、人為的な要因で起きた事故が誇張・脚色されたものだと考えています。
仮にこれがシュモクザメによる仕業だったとしても、恐らく相当に大きな最大サイズに近い個体でしょう。
沖合の海でたまたまそんなサメに出くわし、たまたま噛まれて命を奪われるなんて事故は例外中の例外、文字通り万が一みたいなものなので、この一例だけで「シュモクザメは危険な人喰いザメだ」などと騒ぎ立てるのは乱暴です。
マリンスポーツ禁止は過剰な対応か?
シュモクザメの危険性が世間一般で思われているほどではないとすると、「マリンスポーツ禁止」という大分市の対応が過剰に見えてくるかもしれません。
しかし、僕は行政がこういう対応になるのは仕方ないと思います。
現れたのがシュモクザメでも考えるべきリスク
今回現れたサメによる事故が起こる可能性はほとんどないと思いますが、相手は野生動物ですから絶対ないと断言はできません。何かの偶然が重なって、サメが人を噛んでしまうこともあり得るとは思います。
もしそうした事故が起きた場合、たいていの人はサメの種や大きさごとの危険性なんて分からず「サメ=危険」と思ってますから「対策や注意喚起をしなかった行政に問題がある」と非難されたり、職員が責任を取らされるリスクがあるでしょう。
また最近はSNSでバズるためなら何をしてもいいと勘違いしている人が多いので、あえてサメを刺激するような行為をしたり、サメを捕まえようとする人も出るかもしれません。
仮に人間側に問題があってサメが人に噛まれたとしても、マスメディアや低俗なインフルエンサーは「凶暴なサメが人に噛みつき大怪我」と危険性を煽るような発信をするでしょうから、サメに対する偏見を是正したいと考える側からしても迷惑です。
さらに、もし人で賑わっているビーチにサメが出た場合、たとえ小さくて危険性のサメでも、怖いと思った人がパニックを起こすかもしれません。そうなると、転倒や衝突などで怪我をする人や、最悪溺れてしまう人が出る危険性もあります。
こうした事情を考慮すると、実際にシャークアタックが起こる確率はともかく、行政がマリンスポーツや遊泳の禁止という措置をとるのは、仕方ない気がします。
何故サメではビーチを閉鎖し、イルカでは閉鎖されないのか?
小さなシュモクザメの出没でビーチを閉鎖したことよりも僕が気になるのは、「大して実害のなさそうな小さなシュモクザメが大分県のビーチに現れただけで禁止措置が取られるのなら、なぜ実害を起こしていた福井県のイルカの時は海水浴が禁止にならなかったのか?」ということです。
2022年から福井県の海水浴場に現れたミナミバンドウイルカが人間に噛みつくなどの事故を連続でお起こし、少なくとも53人が怪我をするという事態になりました。この時、注意喚起は行われたのですが、何故か遊泳禁止などの措置は取られませんでした(詳しくはコチラ)。
なお、当該個体はその後発信機による追跡が行われ、2025年に死亡したとされています。
大分県と福井県という管轄が異なる場所での出来事なので単純に比べるのは適切ではないかもしれませんが、「サメは人喰いでイルカはお友達」みたいな素人以下のイメージで対策が決められているように感じてしまい、なんともモヤモヤします。
サメもイルカも大型で鋭い歯を持つ野生動物なので最低限の距離感を保つべきというのは大前提として、イメージや感情論ではなく、実情に基づいたリスク管理をしていくべきだとは思います。


サメを捕まえて処分すべき?
今回の件を取り上げたYahooニュースのコメント欄やSNS上では、「捕まえて駆除すべき」のような意見もいくつか見かけました。
ここまで話した危険性の低さだけ考えても、駆除すべきというのが的外れだと理解してもらえるかと思うのですが、それに付け加えて知ってもらいたいのが、アカシュモクザメは絶滅危惧種だということです。
世界中の様々な生き物の絶滅リスクを評価しているIUCNレッドリストで、アカシュモクザメはCR(Critically Endangered)という評価を受けています(2026年6月現在)。これは日本語だと「近絶滅」などと訳されたりする評価で、絶滅危惧種の中でもかなり厳しい評価です。
主な脅威は漁業活動で、延縄、巻き網、刺し網などで混獲されてしまうことにより、北西大西洋やメキシコ湾などの一部を除いて、世界全体の海で個体数が激減しているとされています。
さらに言えば、近年ちょうど日本の九州にある有明海が、アカシュモクザメが産まれ育つ重要な場所であることが明らかになりました(詳しくはコチラ)。
こうしたことを考えると、今回現れたアカシュモクザメはむしろ守っていくべき存在であり、たかだか海水浴場に現れたくらいで駆除すべきなどという意見には到底賛同できません。
なぜ”ハンマーヘッドシャーク”と報道するのか?
最後に、アカシュモクザメの危険性や対策の是非等とは別の話題に触れておこうと思います。
それが「ハンマーヘッドシャーク」と呼ばれることについてです。
今回の出来事を取り上げた記事の中に、シュモクザメではなくハンマーヘッドシャークと見出しにつけたり、「別名ハンマーヘッドシャーク」とわざわざ記しているものがありました。
例えば、あるYahoo!ニュースの記事ではタイトルを『田ノ浦ビーチに「シュモクザメ」“ハンマーヘッドシャーク”目撃 大分市が注意呼びかけ、マリンスポーツ当面禁止に』という風に「シュモクザメ」と「ハンマーヘッドシャーク」を併記していて、別の記事内ではサメの種類について「アカシュモクザメ、通称「ハンマーヘッドシャーク」」のように表記していました(どちらの記事も現在はURL削除済)。
これについて一部の方が、



なぜシュモクザメという和名があるのにハンマーヘッドシャークと呼ぶのか?



「ハンマーヘッドシャーク」という呼び方は俗っぽくて好きではない
などのような意見をネットに投稿していました。
英名が通称になっている生物もいる
これに関しては、僕も和名がある生き物を英名や俗称で呼んでしまうことがあるので、あまり批判的な立場は取れません。
例えば、ナポレオンフィッシュには「メガネモチノウオ」という標準和名がありますが、僕は前者で呼んでしまうことが多いです。アマノガワテンジクダイのことも、学名のカタカナ読みである「プテラポゴン」と呼びがちです。




理由としては、英名や俗称の方が通りが良いので相手に伝わりやすい、幼少期から観ていたテレビ番組の影響で英名の方が先に頭に浮かぶなどが挙げられます。深い意味はありません。
ダイバーの方と話していると、「ハンマー」や「タイガー」とサメを英名で呼ぶ人は割といるので、そういう人は意外に多いと思います。
また先に挙げたプテラポゴンなどの一部の魚は、熱帯魚業界で流通する際に和名や英名ではなく学名のカタカナ読みであることも多いので、その方が伝わりやすいというケースもあります。
SEO的な理由で「ハンマーヘッドシャーク」表記が使われている可能性
今回の件でふと思ったのは、SEO的な理由でメディアが「ハンマーヘッドシャーク」という名称を使いたがっている可能性があるということです。
SEOとは「Search Engine Optimization(検索エンジン最適化)」の略です。要するに、Googleなどで自分の記事が検索結果の上位に表示されるようにして、多くの人にアクセスしてもらい、売上や問い合わせを増やしてもらうための取り組みを指します。
SEOの観点で言えば、「シュモクザメ」よりも「ハンマーヘッドシャーク」という言葉を使った方が検索されやすい、または上位表示させやすいなら、「ハンマーヘッドシャーク」を使うべきという話になります。
本格的な有料SEOツールで試すのは大変なので、無料で使えるYouTubeの分析ツール「Kamui tracker」というもので「シュモクザメ」と「ハンマーヘッドシャーク」それぞれのトレンドを調べてみました。
実際のデータを出すと規約に引っ掛かりそうなのでぼかして伝えますが、平均の視聴回数では約2倍、7日間の視聴回数では約89倍、「ハンマーヘッドシャーク」を含む動画の方が多く再生されていました。
このデータだけで結論を出すことはしませんが、「ハンマーヘッドシャーク」というワードを使った方が数値が取れるからメディアが用いているという可能性はあると思います。
大衆に伝えるためには俗っぽい言葉も必要?
ここで僕が伝えたいのは、こういう大衆にいかにリーチさせるかという手法や計算も、適切な情報発信をしていく中では必要になるかもしれないということです。
生き物について詳しく、正確で適切な情報を伝えたいと思っている人ほど、総称や俗称ではなく標準和名を用いたり、専門書に載っているような用語をタイトルに使ったりします。
今回の例で言えば、「シュモクザメ」や「ハンマーヘッドシャーク」ではなく、「アカシュモクザメ」と表記するのが、本来は適切でしょう(サメの同定が合っているのであれば・・ですが)。
しかし、そうした言葉は検索されにくいので、せっかくコンテンツを丁寧に作っても、広く伝えていく力が弱かったりします。
もちろんそんなコンテンツを見つけてくれるマニアックな人だけ囲って細々と発信していくというのも一つのやり方です。
ただもし、「一人でも多くの人に伝えていきたい」、「ネット上の数値を成果として発信力を高めていきたい」、「間違った情報が溢れるネットに正しい情報をねじ込んでやりたい」のような思いがあるのであれば、もう少し俗っぽい、大衆受けがいい言葉を選んだ方がいいかもしれません。
少なくともYouTubやブログという場所はそういう戦場だと僕は思っているので、「”人喰いザメ”や”危険生物”のような、不適切だったり俗っぽいかもしれないけどウケがいいワードを使いながらも如何に適切な発信ができるか?」ということを考えながら試行錯誤しています。
なので、本記事のタイトルにも「シュモクザメ」と「ハンマーヘッドシャーク」が入っています(これでどこまで伸びるか分かりませんけどね)。
もしこれを読んでいる方が「自分も生き物に関する発信をしていきたい」や「世の中にある誤っていたり不適切な情報を正していきたい」みたいな思いを持っているのであれば、今お話ししたが何かの参考になれば幸いです。
参考文献
- FNNプライムオンライン『海水浴場に“アカシュモクザメ” 清掃業者が目撃 市はマリンスポーツを一時禁止に「小魚を追って入ってきたか」 【大分発】』2026年
- International Shark Attack File『Species Implicated in Attacks』
- IUCN Redlist『Scalloped Hammerhead』
- TBS NEWS DGG『サメ目撃の田ノ浦ビーチ、ドローンや目視で確認されず マリンスポーツ禁止を解除 大分』2026年
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