『パニック・マーケット』のネタバレあり感想&サメ解説【BGサメ映画レビュー】

「スーパーの中をサメが泳ぐ」という設定自体はトンデモに聞こえますが、パニック映画としては良くできているのでオススメです。

邦題パニック・マーケット
原題Bait / Bait 3D
公開年2012年
監督キンドル・レンドール
出演ゼイヴィア・サミュエル/シャーニ・ヴィンソン/エイドリアン・パン
制作国オーストラリア/シンガポール
ランク準A級(世間的にはB級だが個人的にはお勧めしたい。)
ストーリー★★★★☆
演出や絵作り★★★★☆
サメの造形★★★☆☆

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目次

あらすじ

ビーチのライフセーバーをしていたジョッシュは、親友であり恋人の兄であるローリーをサメに殺されてしまう。

1年後、スーパーで働いていたジョッシュは、ローリーの死をきっかけに別れた恋人ティナに再会するが、そこに二人組の強盗がスーパーに押し入って店は修羅場と化す。

さらにその直後、地震の影響で巨大な津波が押し寄せ、ジョッシュたちは他の客や店員と共にスーパーの中に閉じ込められてしまう。

生存者たちは脱出を試みるが、水浸しになった店内にはホホジロザメが侵入していた・・・。

これ以降の記載は映画の重要部分についてのネタバレを含みます。鑑賞前にネタバレを知ってしまったことに対する責任は一切負いかねますので、予めご了承ください。

見どころ・ツッコミどころ

洗練された無駄のないストーリー

日常生活の中に危機的な状況(例えば学校を占拠する武装集団)が突如出現し、自分がその中で活躍する。

そんな妄想をした中学生男子は多いはずですが、本作『パニック・マーケット』は、そのサメ版を現実にした作品と言えるでしょう。

世間的にはB級サメ映画として認識されているものの、ストーリーが非常にスムーズで洗練されており、もっと高い評価に値する作品だと思います。

本作にはジョッシュとティナ、ティナの現恋人、刑事とその娘(万引き犯)、店長、店員、強盗二人組など数多くの人物が登場し、しかもそれとは別に駐車場に閉じ込められたカップルと万引き犯の恋人たちもサメに襲われるという二軸構成になっています。

これだけ登場人物が多いサメ映画はグダグダすることが多いのですが、本作は導入部分がしっかりしているためストーリーやキャラクターの理解で苦労することはありません。

ニュースで流れるサメの情報、吠えだす犬たち、海鳥の大群などわずかな伏線で後の出来事を暗示しながら、最低限の会話劇だけで各人物の関係性や性格を観客に説明する流れは実に見事でした。

20分もない短いシーンの中で、ジョッシュがティナに未練があること、強盗のドイルが極悪人ではないこと、店長のジョサップが嫌味で偉そうな男であることなどが分かりやすく描かれており、登場人物が多いにもかかわらず「誰が誰だか・・・」のような気持ちになることなく物語に入っていくことができます。

また、万引き犯ジェイミーの父親が刑事であるという設定、万引き後のジェイミーとライアンのやり取りが後の脱出劇で活かされるなど、会話劇の中に伏線が散りばめられているのも評価に値します。

津波で押し寄せた水が直撃したのにほぼ無傷なジョッシュたち、死体だらけの店内なのに生きた人間ばかり襲うサメ、買い物カゴアーマーなどリアリティ面でツッコむべき点は多くあるものの、絵作りや演技、ストーリー運びのクオリティは総じて高く、娯楽作品としてはA級に匹敵するサメ映画だと思います。

良作だがグロ描写やや強めのサメ映画

本作のサメは脱出劇における障害の一つという位置づけですが、終始一貫してサメが重要な役割を果たし、サメを置いてけぼりにして人間模様ばかりになることはありません。

ゆっくりと背ビレを水面から出して泳ぎつつ、襲う瞬間は荒々しく人間を引き裂くことで、その存在感を十分に見せつけてくれました。

数多くのキャラクターを登場させてその関係性を描きつつ、垂れ下がる電気ケーブルや強盗などサメ以外の脅威も登場させながら、それでもサメは疎かにしない・・・。トンデモ系サメ映画が多く作られた2010年代前半において、本作のクオリティは頭一つ抜けていると言えるでしょう。

強いて難点をあげるとすれば、サメ映画の中ではグロ描写が多いことです。

津波で無残な姿になった死体が頻繁に映りますし、飛び出したサメが派手に下半身を噛み千切って内臓が垂れ下がったり、サメをおびき寄せるエサとして死体の腕を切ったりと、「水に引きずり込まれて辺りが真っ赤になって終わり」という場面が多いサメ映画の中では、割と人を選ぶ作品かもしれません。

お子さんとサメ映画を観るという方はご注意ください。

その他見どころや豆知識

  • ポメラニアンのブリーちゃんがひたすら可愛い。
  • 津波の勢いで死体がぶつかってもヒビ一つ入らない車のガラス(しかもその後サメの一撃であっさり割れる)。
  • 津波でサメと共に店内に閉じ込められたことに対し「警官だろ!どうにかしろ!」と喚く店長ジョサップ。「こういうアホは食われるだろうな」と思っていたら本当に食われました。
  • 何度見ても買い物カゴアーマーがシュールすぎます。しかも、みんなの危機を救ったスティーブの末路も悲惨過ぎて救いようがありません。
  • 2021年に中国で公開されたサメ映画『ジョーズ・リベンジ(原題:鲨口逃生)』は、本作をパクったような展開が数多く観られます。どれくらいパクリ要素があるのか是非確かめてみてください。

サメに関する解説

サメの造形

本作のサメは定番のホホジロザメで、場面によりCGとアニマトロニクスを使い分けていました。

少し目が小さくて可愛らしい顔ではありましたが、背ビレの位置や尾鰭の形などは及第点で、背中側とお腹側の色の境目、尾柄部のキールなどもリアルに描かれていました。

また、本作はアニマトロ二クスとCGの使い分けが上手く、アニマトロ二クスではぎこちなくなりがちな水中での動きや激しい捕食シーンがCGで補われており、サメのビジュアルに力を入れていることが伺えます。

少しCGがのっぺりして「いかにも」のように見えるところもありましたが、全体的に作品が高クオリティなのでそこまで気になりませんでした。

ただし、テーザーガンで撃たれて苦しむサメの口元をよく見ると、上顎歯がホホジロザメにしては細長く、ワニのような円錐形をしているように見えます。ここはややマイナスポイントですね。

実物のホホジロザメの上顎歯。円錐形ではありません。

サメの行動

まず指摘するべき点は、サメが狭いスーパーの中で生き残れるのかどうかという点です。

ホホジロザメは沿岸に現れることもありますが、基本的には沖合を泳ぐサメであり、狭い場所に慣れているとは思えません。

面積が小さく障害物も多い店内では、壁や棚にぶつかって傷ついたり、あるいは十分に呼吸できずにすぐ弱ってしまう恐れがあります。

また、本作のサメは生きている人間ばかり襲っていましたが、サメは弱っている獲物や死体から食べ始めることが多いです。

第二次世界大戦中に戦艦の乗組員がサメの犠牲になったことで知られるインディアナポリス号の沈没事故でも、サメはまず海に浮かんだ死体から貪ったと伝えられています。

そもそも流されてあんな場所に閉じ込められた状態で食欲を発揮するのか疑問ですが、あれだけ血を流した死体が沢山ある場所なら、サメは楽に手に入る肉塊から食べ始めると思います。

その他サメに関する解説

  • 冒頭で海パンオジサンがサメに襲われる際に謎の水しぶきが上がりますが、謎です。サメは普通あんなことはしません。
  • 本作最大のツッコミどころかもしれない買い物カゴアーマーですが、よくよく考えるとサメはエサの入ったカゴにそのまま噛みつくことがあるので、スティーブはそのまま噛み砕かれていてもおかしくない気がします・・・。
  • ぶら下がった店長を噛み千切るシーン、あそこまでジャンプするならそれなりの助走が必要で、店内の水深では足りないと思います。

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