外来種とは何か?駆除すべき?人間は外来種?定義や問題点などをまとめた外来種基礎講座!

突然ですが、あなたは「外来種」という言葉の意味を説明できますか?

もし、「海外から来たヤバい生物」や「日本の自然を破壊する悪い生き物」と思っていたら、この記事を必ず最後まで読んで欲しいです。

『緊急SOS!池の水ぜんぶ抜く大作戦』というテレビ番組のお陰もあって「外来種は駆除しないといけない」という認識や「ブラックバスやカミツキガメが問題になっている」という知識はだいぶ広まったと思います。

しかし一方で、そもそも「外来種とは何か?そして何が問題なのか?」という理解がされず、「外来種=悪い」というイメージばかり先行したり、「外来種に罪はないのに駆除するのは可哀想だ!」や「人間こそ最悪の外来種だろ!」というズレた認識に基づいた反発が起こっています。

今回は、非専門家でも覚えておくべき外来種の基本を僕なりに解説します

これをきっかけに、より深い理解のきっかけにして頂ければと思います。

目次

解説動画:外来種とは何か?駆除すべき?人間は外来種?定義や問題点などをまとめた外来種基礎講座!

※動画公開日は2020年3月21日です。

外来種は人によって持ち込まれた生物

そもそも「外来種」という言葉はどんな生物を指すのでしょうか?

外来種の定義を一言でまとめると「元々その地域にいなかったのに、人間の活動によって別の地域から入ってきた生物」です。

この定義には「意図的かどうか」や「いつ移入されたか?」は関係ありません。

水産資源として放流された魚、捨てられたり脱走したペット、貿易する際に貨物と一緒に運んでしまった虫など、人間活動で本来の生息域から移入された生物全般が外来種です。

また、人間が品種改良した生物は”本来の生息域”をそもそも持たないため、どの地域でも外来種になります。

例えば、野良猫はだいぶ前から日本に生息していますが、野生種を品種改良した家畜なので、誰が何と言おうと外来種です(詳しくはコチラ)。

猫
猫も外来種です。

逆に言えば、自分の力や自然要因で生息域を移動・拡大させる生物は外来種ではありません。

大陸間を旅する渡り鳥、地球規模で回遊するホホジロザメ、海流や風に運ばれて生息域を広げる植物の種などは外来種の定義から外れています。

あくまでも「人間の活動によって」移動する生物を外来種と呼ぶんです。

サメ社会学者Ricky

外来種の対義語(人間活動に関係なく元々その地域に住んでいた生物)を「在来種」と呼びます。

外来種のよくある誤解

「外来種」という言葉自体はほとんどの人が聞いたことあると思いますが、定義を知らないがために誤解している人が多いです。

今回は、その中から3つだけ取り上げて訂正します。

よくある誤解1:海外から日本に来た生物

マスメディアで取り上げられる外来種はブラックバスやヒアリなど海外から来た生物が多いですが、外来種であるかどうかに国境は関係ありません。

例えば、長野県で捕まえたカブトムシを東京に持ち帰り「可哀想だから逃がしてあげよう」と近所の森に逃がしたら、このカブトムシは外来種になってしまいます。こうした外来種を「国内外来種」と呼びます。

また、日本原産で海外で猛威を振るっている外来種もいます。

マメ科の植物であるクズやコガネムシの仲間であるマメコガネは、米国の農業や農業に深刻な被害をもたらしています。

外来種問題は「人間によって移入された生物により生物多様性が脅かされている」という地球規模の問題であり、「海外の強い生物が日本の弱い生物をいじめている」というイメージは、外来種問題のほんの一部でしかないんです。

よくある誤解2:人間も外来種

外来種の問題について発信すると「人間こそ最悪の外来種」という発言をよく聞きます。

ただの中二病なら可愛いのですが、特定の外来種を擁護したい人が「人間も外来種⇒つまり外来種が拡大するのは自然の摂理⇒だから駆除するな」という方向に誘導してくることがあるので注意が必要です。

酷い事例では、外来種問題と人種差別を無理やり関連付けて、外来種駆除活動を歪んだ悪行だと宣伝する、とんでもなく頭が悪くて迷惑な人もいます。

何度でも確認しますが「自力ではなく人間の活動によって運ばれた生物」が外来種です。自分で生息域を拡大した人間は外来種ではありません。

よくある誤解3:外来種は悪者

これもメディアの影響が大きいと思いますが「外来種はとにかく悪者!」と考える人が多いです。

ですが、これは以下の理由により大きな間違いと言えます。

まず、全ての外来種が移入先に定着できるわけではありません。むしろ、いきなり違う環境に連れてこられて適応できず、子孫を残せないまま死んでしまう生物も多いです。

また、家畜や野菜のように僕たちの生活に欠かせない外来種も多くいます。日本人の食文化を支える稲や乳牛も外来種です。

さらに、非常に限られたケースですが、生物多様性保全のためにあえて外来種が移入されたこともあります。数の減少により近親交配が深刻化したフロリダパンサーを救うためにテキサス州のピューマ(近縁亜種)を導入した事例が有名です。

なにより、現在問題になっている外来種も、彼ら自身に罪はありません。よく分からない霊長類によって知らぬ間に遠くに運ばれてしまった生物たちであり、彼らもまた被害者です。

冒頭で紹介した通り、外来種という言葉それ自体には「問題を起こす生物」や「危険な生物」などの意味は含まれておらず、外来種は悪者を意味する言葉でも、侮蔑や差別が込められた呼称でもありません。

侵略的外来種とは?

「外来種は悪者ではない」と言った直後なので矛盾して聞こえるかもしれませんが、移入先で問題になっている外来種がいることも事実です。

こうした外来種を侵略的外来種と呼びます。

具体的に言えば、「その地域の生態系や人間社会に悪影響を及ぼす危険性のある生物」を指します。

メディアで主に取り上げられるのは、この侵略的外来種たちです。残念ながら、こうした生物は管理や駆除が必要になってきます。

侵略的外来種が与える影響をグループ分けすると以下のようになります。

侵略的外来種の影響まとめ

上記のイラストは、環境省がまとめたものを参考に僕が作ったグループ分けです。ひとまずこれに沿って紹介していきます。

生態系への影響1:捕食

「捕食」は文字通り、外来種が在来種を食べてしまうことです。

食う喰われるの関係自体は在来種同士でも起きますが、外来種の方がサイズが大きくて繁殖力が強かったり、その外来種の捕食者に当たる存在が移入された環境にいなかった場合、在来種が食べつくされてしまう危険があります。

人間に例えるなら、剣と槍だけで闘っていた集団に、いきなり銃火器をもった特殊部隊が乱入するようなものです。

「捕食」の被害を起こす外来種としてはブラックバス、ウシガエル、グリーンアノールなどがあげられます。

生態系への影響2:競合

在来種を直接的に襲うことがなくても、在来種が食べる餌や生活環境を争うことで在来種に悪影響が出ることもあります。これが「競合」です。

自然界にある資源は有限なので、今までいなかったライバルが急に増えることで、在来種が飢える確率や子孫を残せない確率が高くなってしまう危険があります。

「競合」の被害を起こす外来種としては、オオタナゴやタイワンリスなどが挙げられます。

また、「競合」とは言えないかもしれませんが、外来種が他の地域から伝染病や寄生虫を持ち込んでしまい、在来種が死滅してしまう危険性もあります。

外来種側は現地の環境でそれらに適応していますが、在来種は防衛手段を持っていないので甚大な被害を受けてしまうんです。

今回は「競合」に近い問題として取り上げましたが、これは「感染」などの別カテゴリーにされることもあります。いずれにしても他の被害同様に重大な問題です。

生態系への影響3:遺伝子攪乱

分かりやすく言えば、外来種が在来種と交雑して雑種を作ってしまうことです。これは「捕食」などと比べると問題がイメージしにくいので軽視している人も多いですが深刻です。

まず、外来種と在来種が繁殖しようとしても、そもそも子供を作れなかったり、産まれた雑種が生殖能力を持っていないことが多いです。

「なら遺伝子が混ざらなくていいじゃん」と思うかもしれませんが、在来種が子孫を残すために使った時間やエネルギーが無駄になってしまいます。個体数の少ない種や繁殖ペースの遅い種では、これだけでも絶滅の要因になりかねません。

また、産まれた雑種がこれまでない形質を獲得するなどして、「捕食」や「競合」の問題を引き起こす可能性もあります。

さらに、一番の問題なのが、外来種の遺伝子が交じることで地域ごとの遺伝子多様性が失われてしまうことです。外来種と混ざり合うことで、その地域の固有のグループが遺伝子的に絶滅してしまいます。

人間社会への影響1:人的被害

外来種の中には人間に怪我をさせたり命を奪いかねない生物もいます。

そうした生物が生息域を拡大すると、鋭い歯で噛まれる、毒を注入される、危険な伝染病を媒介してしまうなど、移入先の人々が直接的な被害を受ける危険があります。

代表例としては、カミツキガメ、セアカゴケグモ、ヒアリなどが挙げられます。また、野犬や野良犬も狂犬病を媒介する危険な外来種です。

人間社会への影響2:産業被害

外来種が農作物や家畜を食べてしまったり、建築物などを壊すことを指します。

畑を荒らし家屋に浸入するアライグマ、巣穴により堤防や畔を破壊するヌートリアなどに代表されます。

補足:外来種被害の区分について

各項目で代表的な外来種名を挙げていますが、もちろん複数の影響をもたらす外来種も多くいます。

例えば、アライグマは在来種の捕食、タヌキなどの在来種と競合、アライグマ回虫や狂犬病ウイルスの媒介、野菜や養殖魚の食害など、あらゆる被害をもたらします。

外来種は駆除するのは良くないのか?

ここまで侵略的外来種の問題を紹介してきましたが、こうした外来種問題を発信すると以下のような批判を受けることもあります。

外来種に罪はない!外来種だって命!人間の都合で駆除するのはおかしい!

確かに、人間が連れてきた生物を「侵略的」と称して駆除したりするのは身勝手な気もしますし、「かわいそう」という気持ちも分かります。

彼らは何か目的や意志をもって生物多様性を破壊しようとしているわけではなく、連れてこられた環境で生物として当たり前のことをしているだけです。

アライグマ
侵略的外来種アライグマ。見た目があまりにも可愛いためか、駆除に対する感情的な批判を目にすることがあります。

しかし、罪はなくても人間や生態系に害があるのは事実です。

また、人間の都合で駆除するのがかわいそうと言うなら、人間の都合で勝手に天敵や競合相手を導入された在来種もかわいそうです。

そもそも、悪や罪というのは人間が社会秩序を維持するために作ってきた人間同士の決まりごとであり、他の生物では何の意味もない虚構です(こうしたものを僕は社会的虚構と呼びます)。

そのため、罪だの悪だのという概念を安易に人間以外の生物に使うべきではありません。

「命」や「可哀想」という言葉で駆除や管理に反対するのは簡単ですが、それだけでは何の解決策にもなっていません。僕たちが起こした問題は僕たちが対処すべきです。

外来種・外来生物・特定外来生物の違い

外来種や侵略的外来種と紛らわしい言葉として「外来生物」「特定外来生物」があります。

外来生物は国外外来種、つまり日本国外から来た外来種のことを指します。

この外来生物のうち、明治以降に移入された種で生態系や人間社会に被害を及ぼす(侵略的になり得る)生物の一部が「特定外来生物」として法規制の対象になっています。

代表例はブラックバス、アライグマ、カミツキガメなどです。最近ではアリゲーターガーをはじめとするガー科の魚も特定外来生物に指定されました。

特定外来生物は許可なく飼育・売買・放流・生きたまま運搬することが禁止されており、違反した場合は刑事罰の対象となります。

ただし注意しなければならないのは、「特定外来生物=侵略的外来種」ではないということです。

例えば、ネコやニシキゴイのように、特定外来生物ではない生き物でも侵略性が指摘される事例は多く存在します。

コイの放流やネコの放し飼いは現在の日本では特定外来生物ほど厳しく制限されていませんが、生態系や公衆衛生を脅かす外来種の不適切な管理に他なりません。

外来種を扱う際は「違法であるかどうか?」だけでなく、「この生物が移入されることでどのような影響があるのか?」をしっかりと考える必要があります。

補足Ⅰ:「外来生物」の定義

「外来生物=国外外来種」と紹介しましたが、これは外来生物法という法律の用語として使う場合であり、生物学・生態学の議論では「外来種=外来生物」のように使われることもあります。

補足Ⅱ:なぜ明治以降なのか?

特定外来生物を明治以降のものに限定しているのには、明治以降の移動・移送能力の大幅な向上や環境破壊により外来種の侵入が進んでしまったという考えが関係しています。あくまで法解釈の問題なので「明治以前に来た生物は外来種ではない」という主張は間違いです。

ここまで読んで混乱状態になった方もいると思うので、用語について簡単に図解しました。

外来種の区分まとめ

少し複雑かもしれませんが、これらを理解していないと「明治よりずっと前に来たんだからネコは外来種じゃない!」や「特定外来生物に指定されていないから好きに放流してOK!」などの勘違いにつながるのでご注意ください。

外来種問題の身近な対策

環境省では外来種の被害を防ぐための外来種被害予防三原則を公開しています。

  • 入れない(外来種はむやみに非自然分布域に移入しない)
  • 捨てない(移入された外来種を野外に出さない)
  • 拡げない(野外で繁殖しているものの拡大を防ぐ)

これだけ言われると政府や省庁の役目のように聞こえてしまいますが、これらの原則を僕たちも実践することが大切です。

最も身近な例が、ペットを絶対に捨てないことです。

飼育を始めたペットはその子が死ぬまで飼ってください。放し飼いにせず適切に管理してください。「無理かもしれない」と思ったらそもそも飼わないでください。

捨てられた多くのペットは死んでしまいますし、生き残れても外来種として先にあげたような問題を起こします。

実際、アライグマは某アニメの影響によるペットブームの結果、飼い切れなくなって捨てられたものが野生化しました。見た目の可愛さに惑わされずに彼らの生態をよく調べれば、一般人がペットにしていい動物ではないと分かったはずです。

ペットの遺棄は飼い主としての責任放棄であり、社会に迷惑をかけて環境を破壊する最低な行為です。絶対にやめましょう

もしペットを飼育したい場合は、下記のことを必ず確認してください。

  • 費用面(初期費用はもちろん、エサ台、電気代、医療費などはいくら必要か?)
  • 設備面(どれくらいのケージや水槽が必要か?室内や施設内で終生飼育できるか?)
  • 生態面(どこまで大きくなるのか?寿命は何年なのか?)

上記を調べて問題なく準備できる、最期まで飼い切る自信がある場合のみ、ペットをお迎えするのが賢明です。

外来種の基本まとめ

以上が外来種の紹介でした。

長くなってしまったので今回の内容を以下にまとめました。

  • 外来種は時期や意図的かなどに関係なく、元々その地域にいないのに人が移入させてしまった生物である
  • 外来種は悪者ではないが、中には生態系や人間社会に被害をもたらす侵略的なものもいる
  • その中でも特定外来生物に指定されているものは飼育・売買・運搬などが禁止されている
  • 外来種問題には様々な対策が必要だが、一般人がまずできる取組みはペットを責任もって死ぬまで飼い切ることである

グローバル化した世界において、外来種を完全にゼロにすることは恐らく無理です。そして、生態系そのものも変化していきます。

しかし、「犯罪がなくならないから警察もいらない」や「人はいずれ死ぬから生きていてもしょうがない」が間違っているのと同じで、大惨事を防いで守るべきものを守るためにできることを実践するのは意味があると思います。

今回は外来種に関する基礎の紹介でしたが、興味がある方は「そもそも生態系や生物多様性とは何か?」や「この記事で出てきた外来種は何が問題視されているのか?」などを調べてみて下さい。

本サイトでも別の解説記事を更新していく予定です。

参考文献

  • 環境省 『日本の外来種対策』(2022年3月26日閲覧)
  • 河村攻一 『交雑がもたらす遺伝子汚染の実態 ―雑種に隠された危険性』2015年
  • 国立環境研究所 『侵入生物データベース』※各生物の項目を検索にて参照(2022年3月26日閲覧)
  • 小坪遊 『「池の水」抜くのは誰のため?―暴走する生き物愛―』2020年

※本記事は2022年3月までにWebサイト『The World of Sharks』に掲載された記事を加筆修正したものです。

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