シャチによるサメ狩りが止まらない?ホホジロザメ以外も犠牲に?サメVSシャチの最新情報を解説

シャチがホホジロザメやエビスザメを襲っている件について解説した記事サムネイル

2022年5月南アフリカにて、複数のシャチがホホジロザメを襲っている様子が撮影され、その分析結果が論文として発表されました。

トッププレデター同士の被食関係を記録したこともありこの出来事は話題になりましたが、実はあれ以降も他のサメが次々とシャチに襲われていました。

さらについ最近、南アフリカから離れたオーストラリアでもシャチによるサメ狩りが始まった疑惑が浮上しています。

本記事ではシャチによるサメ狩りの現状や、それによって懸念される問題を解説していきます。

目次

解説動画:シャチによるサメ狩りが止まらない?ホホジロザメ以外も犠牲に?サメVSシャチの最新情報を解説

このブログの内容は以下の動画でも解説しています!

※動画公開日は2023年11月23日です。

シャチの餌食になるエビスザメ

以前の記事ではポートとスターボードと呼ばれる”殺し屋コンビ”のシャチがホホジロザメを襲っていると紹介しましたが、今回取り上げるのはエビスザメです。

エビスザメの特徴

エビスザメはカグラザメ目というラブカなどと同じグループのサメで、

  • 丸みを帯びたどこか微笑んだような顔
  • 背ビレが一基しかない
  • エラ穴が7対ある

などの特徴を持ちます。

エビスザメの全長は1.5~2.2m前後でホホジロザメに比べると小型ではありますが、サメやエイの仲間、アシカやアザラシなどの大型動物を襲うこともあるハンターです。

上顎歯は鋭いフックのような形状、下顎歯は櫛に似た横に長い形でギザギザになっており、肉を引っかけて切り裂けるような形をしています。

ニヤケ顔のエビスザメ。
エビスザメの歯。

肝臓を抜き取られた姿のサメを発見

このように生態系全体で見れば高次捕食者のエビスザメですが、シャチの前ではなす術がないのか、彼らもシャチの餌食になっているようです。

ことの発端は2015年11月、南アフリカの南西のフォールス湾に潜っていたダイバーが、いつもなら数多く見ることができるエビスザメを全く見かけないことに気が付きました。

その後、数頭のエビスザメが胸のあたりを切り裂かれた状態で海底に沈んでいるのが発見されます。

この当時はシャチが襲ったのかはまだ確証がない状況でしたが、翌年の2016年4月、5頭のエビスザメの死骸が肝臓を抜き取られた状態で打ちあがりました。

この時に死骸に残っていたシャチの歯型が確認され、一連のサメ狩りがシャチによるものだと判明しました。

2023年もエビスザメが打ち上がる

そして今年2023年の2月、ケープタウンの海岸に19頭のエビスザメの死骸が打ち上げられ、やはり肝臓を抜き取られた状態で発見されました。

狩りの瞬間が目撃されたわけではありませんが、サメたちが打ちあがる数日前に2時間以上同じ場所で潜水を繰り返すシャチが目撃されています。

今回も全く同じように肝臓だけ食べられていることも考慮すると、シャチの仕業とみて間違いないと思われます。

短期間に20尾近い数のサメが襲われている時点で驚きですが、実はこのエビスザメたちは嵐やうねりによって打ち上げられたと推測されています。

つまり、これらのサメは偶然人目につく場所に死骸が辿り着いただけであり、実際にはもっと多くのサメがシャチの餌食になっている可能性があるのです。

オーストラリアでもサメ狩り発生か?

ここまでお話しした内容は南アフリカで起こった出来事ですが、同じくホホジロザメが多く生息してケージダイブが盛んなオーストラリアでも、シャチのサメ狩りが報告されました。

2023年10月ヴィクトリア州ポートランドの西にあるケープブリッジウォーターのビーチにて、およそ3m程のホホジロザメが引き裂かれた状態で発見されました。

実際の打ち上げられたホホジロザメの映像はコチラ↓

確定的な情報はまだ出ていないものの、そもそも襲われているのが頂点捕食者のホホジロザメであり、内臓の詰まった部分だけ食べられているため、南アフリカの事例に近いものを感じます。

実際にこのサメが発見される2日前に、湾内をぐるぐると回るように泳ぐシャチの群れが目撃されており、シャチに襲われた可能性は十分にあります。

このオーストラリアの事例について、シャチとサメの関係性を研究しているフリンダース大学の生態学者ローレン・メイヤー博士は、

ローレン・メイヤー博士

そこまで驚くほどのことではない

とコメントしています。

このあたりの海域はホホジロザメの重要な通り道のようになっており、シャチもまたこの海域でサメ以外にも様々なものを捕食していました。

今回の事例より以前からシャチがサメを襲うことはオーストラリアでもあったため、南アフリカからサメ狩りが伝わったというわけではなく、ただ単に同じような出来事が偶然起きただけの可能性はあります。

一方で、打ちあがったサメを発見した現地の漁師ベン・ジョンストン氏は取材に対し、

ベン・ジョンストン氏

15年以上ここで漁をしていてホホジロザメもシャチも身近な存在だが、打ちあがったホホジロザメを観るのは今回が初めてだ。

と答えており、今後の展開に注目する必要がありそうです。

シャチは何故サメを襲うのか?

勢いの止まらないシャチによるサメ狩りですが、何故彼らはサメを襲うのでしょうか?

南アフリカでサメの研究をしている海洋生物学者のアリソン・ノック博士は以下のように解説しています。

アリソン・ノック博士

サメの肝臓には油や栄養がたっぷり含まれており、噛みちぎった後も浮力のおかげで沈まないため、理想的なエサのようです。

これは確かにそうだと思いますが、何故そもそも獲物としてサメを狙い始めたのかが気になります。

ホホジロザメは狙いづらい獲物?

エビスザメはまだしも、ホホジロザメはかなり獲物として狙いづらい動物に思えます。

全長3~5m。大きいもので6mに達するサイズで、クジラ類の肉を引き裂ける鋭い歯も持っています。

さらに、奇網と呼ばれる血管構造により、哺乳類と同じように体温を周りの水温より高く保つことができるため、運動能力がサメの中でもずば抜けて高いです。

人間はすぐに「闘う」や「VS」という構図で考えがちなので、「骨格を見ればサメに勝ち目がないのは明らか」などと浅い感想を抱くだけで済ませがちですが、こうた特徴を考えると一方的にエサとして襲うとしても難易度が高いはずです。

オットセイの囮に勢いよく噛みつくホホジロザメ

元々のシャチの獲物が減少した?

シャチのサメ狩りが多くなった要因として、現地の研究者は「外洋を泳ぐ魚たちの減少によりシャチの行動パターンが変化したのではないか?」という仮説を提示しています。

実際に南アフリカの漁業資源を評価した『Status of the south african marine fishery resources 2020』を見ると、小型の魚はそうでもありませんが、回遊魚や大型魚類は減少傾向にあるという見解でした。

あくまで推測の段階ですが、これらのことを総合的に考えると、食べづらい獲物であるホホジロザメを襲わないといけないほど、シャチがこれまで餌にしてきた大型魚が減ってしまっている可能性はあると思います。

そして、ホホジロザメ程の獲物に手を出すということは、より仕留めやすいであろうエビスザメなどのサメたちは、今後壊滅的な影響を受けてしまうことが懸念されます。

サメが減ると何が起きるのか?

「サメとシャチ」というテーマでYouTube動画をアップすると、

シャチは人間の味方でサメは敵

サメがいなくなっても誰も困らない

などと、誰も求めてないシャチ過剰礼賛のイタイご意見を頂くことがあります。

知能が高いとされる動物を推している人の中に知能が低い人が混じっているのは色々な意味で残念ですが、そうした勘違いを少しでも潰しておくべく「サメがいなくなると何がマズいのか?」という点も解説します。

生態系への影響

シャチによってホホジロザメやエビスザメなどの数が激減した場合、彼らのエサになっていたオットセイや他のサメ類の数が増加する可能性があります。

その場合、増えたオットセイや中型サメ類たちが食べていた小魚や頭足類、海鳥などが沢山食べられてしまい、生態系のバランスが崩れてしまうかもしれません。

もちろん、シャチがホホジロザメやエビスザメの空いた穴を多少は埋めてくれるでしょうが、サメの肝臓だけ食べることからも想像できる通り、シャチはかなりの偏食家です。

そのため、シャチの捕食圧がホホジロザメたちと全く同じように作用することは期待できず、オットセイの数だけ激増したり、シャチが他の絶滅危惧種を多く食べてしまうなどの影響が懸念されます。

サメが減ることによる生態系変化予想の簡略図。

産業への影響

今回取り上げた南アフリカとオーストラリア、どちらもホホジロザメのケージダイブや、大型サメ類を見られるダイビングが人気の観光地です。

以前の記事で触れた通りケージダイブには賛否があるものの、数多くの人々を魅了する観光業であることは間違いありません。

しかし南アフリカでは、シャチによるホホジロザメの襲撃が目撃された後、ホホジロザメが一斉に長期間いなくなってしまうことが分かっており、ケージダイブ業者への影響は大きいです。

もし今後も同じような出来事が続く、あるいはオーストラリアなど他地域に拡大する場合、数億円規模の経済効果を持つエコツーリズムが廃業に追い込まれる恐れもあります。

ケージダイブは現在も人気の観光業

さらに、先述した生態系のバランス崩壊が起きた際、その影響が漁業対象の魚に及べば、現地の漁業従事者たちも苦しむことになります。

シャチ自体も絶滅危惧種なので追っ払ったり駆除したりするわけにもいきませんが、「サメがいなくなっても問題ない」というのは、こうした観点を無視したバカげた主張であるとご理解頂ければ幸いです。

参考文献

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

コメント

コメントする

目次