美しき猛毒クラゲ?カツオノエボシの生態と危険性を解説!【海水浴行く人必見】

前回の記事ではサメの毒について解説しましたが、今回はサメよりも恐ろしい猛毒生物を解説します!

その名もカツオノエボシです!

名前だけ聞くと烏帽子をかぶったカツオ見たいですが、もちろんカツオではありません。

名前通りの姿だとしたらこんな感じ?

テレビの危険生物特番などでよく紹介されるので名前自体は知っていると思いますが、実は非常に美しく興味深い生態をもつ生物でもあります。

今回は美しき危険生物、カツオノエボシを紹介していきます!

目次

解説動画:猛毒クラゲ?カツオノエボシの生態と危険性を解説!【危険生物】【海水浴行く人必見】

このブログの内容は以下の動画でも解説しています!

※動画公開日は2020年7月25日です。

何故”カツオノエボシ”と呼ばれるのか?

カツオノエボシという名前は水面に浮いている部分が烏帽子にえぼし見えることから名付けられました。

古風な感じでお洒落ですが、どちらかと言うと餃子に見えますね。

浮いている部分のシワが餃子に見えて仕方がないです・・・。

今の人が名付けるなら絶対「海餃子」とかになると思います・・・。

ちなみに、英語名は「Portuguese Man O’ War」と呼びます。日本語訳すれば「ポルトガルの軍艦」という意味です。

烏帽子(餃子)の部分が帆を張ったポルトガルの船に見えることが由来だそうですが、なんか『パイレーツ・オブ・カリビアン』の船みたいでカッコいいですよね。

試しに船名と並べてみたら違和感が仕事放棄してました・・・。

カツオノエボシはクラゲではない?

そんなお洒落な名前のカツオノエボシは、ちょっと変わった形のクラゲといった見た目をしています。

しかし、「カツオノエボシはクラゲ」と言い切っていいのか少し迷います・・・。

水族館でよく見るミズクラゲや沖縄の危険生物として有名なハブクラゲ、そしてこのカツオノエボシはどれも「クラゲ」という言葉でひとまとめにされていますが、実はそれぞれ大きく分類分けが異なります。

分類学に馴染みがない方にはピンとこないかもしれませんが、綱レベルでの違いはかなり大きいです。

例えるなら、ミズクラゲとカツオノエボシを一緒にしていいなら、人間とマグロとスズメを全部同じ仲間にできます。

クラゲの分類は掘り下げると面白いのですが、今回はあくまでカツオノエボシの解説なので「一口に”クラゲ”と言っても色々いる」くらいに思えていただければOKです。

カツオノエボシは合体ロボット?

カツオノエボシは一つの動物ではなく、複数のヒドロ虫という生物が集まった群体とされています。

学校で生物を習った方は、「群体」と聞くとボルボックスを思い出すのではないでしょうか。

ボルボックスとは少し違いますが、カツオノエボシは個虫と呼ばれるものがつながってできた存在です。

イメージしやすいように言えば、合体ロボットみたいな感じです。

「俺が腕!私は足!僕は胴体!我は頭!」みたいに、それぞれが違う役割を果たすパーツがつながって、一つの生命体のように動きます。

カツオノエボシは大きく分けると4つの部位で構成されています。ここではそれぞれ気胞体、栄養個虫、生殖枝、触手部分と呼びます。

カツオノエボシ構成要素イメージ
カツオノエボシ構成要素イメージ。
  • 気胞体:烏帽子または餃子に見える部分。気体が入っており浮力を調整する。
  • 栄養個虫:黄色い部分。消化液を出して溶かしながら獲物を吸収する。
  • 生殖個虫:子孫を残すために使われる。詳細に調べれば雌雄が分かる。
  • 感触体:触手部分。刺胞という毒液と針の入った小さな細胞カプセルが並ぶ。獲物や敵に触れると、圧力で閉じ込められていた毒針が飛び出す。
補足:カツオノエボシ構成要素と名称について

生殖に関わる部位と触手部分についてはもっと細かく分かれるとする研究もあるようです。詳しくは参照文献欄の新江ノ島水族館スタッフブログをご参照ください。当記事では「大きな誤りとは言えないだろう」と判断したうえ、分かりやすさ重視であえて古い方の記事内容を参照しています。

実はよく動くし美しい

カツオノエボシはプランクトンです。

「え、違うよ!だってデカいじゃん!」と思った方のために補足すると、プランクトンは遊泳力が低く流されるような生活をする生物を指します(微生物という意味ではありません)。

カツオノエボシに遊泳する能力はほとんどなく、ぷかぷか浮いて波に漂います。流れに身を任せながら触手を使い、他のプランクトンや小魚を捕まえて食べているんです。

こう聞くと「浮いているだけで全然動かない生物なのかな?」と思うかもしれませんが、実は意外に動きますし、その様子は非常に美しいです。

青い粒々のような部分が触手についている刺胞で、黄色い点々が栄養個虫の口にあたる部分です。

こちらは2018年にアクアマリンふくしまに展示された個体ですが、触手を上下させて活発に動いていました。

青も黄色もハッキリとした色合いで、毒々しさと美しさを兼ね備えた姿ではないでしょうか?

ただし、この美しい姿は生きている間しか見られません。

そして、カツオノエボシは海沿いの水族館などで展示されることがありますが、長期飼育は難しく、一時的な展示になってしまうことが多いです。

カツオノエボシが展示されたという情報を耳にした方は、お早めに現地に向かうことをお勧めします。

ちなみに、動く様子の動画もYouTubeにアップしています!

“電気クラゲ”と恐れられる危険生物

カツオノエボシの触手にある刺胞という毒針のカプセルは、他の刺胞動物も持っています。

その多くは人間にとってそこまで害はありません。

しかし、このカツオノエボシの毒はかなり強力です。

刺されると電流を食らったような激痛に襲われるため、”電気クラゲ“と呼ばれるほどです。

カツオノエボシの毒針に刺されると激痛を味わうだけでなく、蕁麻疹じんましん、くしゃみ、咳、呼吸困難、嘔吐、脱力感などの症状に苦しみます。

さらに、アナフィラキシーショックを起こすことで、最悪の場合ショック死してしまう危険もあります。

必ずアナフィラキシーショックを起こすわけではないですが、遊泳中に刺されれば突然の痛みと体調不良により溺死するリスクも高くなります。

海やゴミに溶け込む猛毒生物

カツオノエボシの怖いところは毒の強さだけではありません。

カツオノエボシの色は海の中に溶け込んでしまう上に触手がかなり長いため、こちらが全く気付かないうちに刺されてしまうことがあります。

また、遊泳力がないカツオノエボシは砂浜に打ち上げられることも多く、その見た目がビニール袋に似ていたり、海藻や他のゴミに紛れていて非常に分かりにくい場合も多いです。

そのため、海岸で遊んだりビーチコーミングをする時は、ゴミと間違って触らないよう注意する必要があります。

カツオノエボシの刺胞は死んだように見える状態でも発射されることがあるので、打ち上げられたものも絶対に触ってはいけません。

刺されてしまった場合の対処法

もしカツオノエボシに刺されてしまった場合は、絶対に触手に触らないように気を付けながら触手を取り外し、速やかに医療機関で処置してもらうのが一番だと思います。

応急処置をするとしたら、海水で洗い流してください(真水はNG)。

やってはいけないことは以下の通りです。

  • 刺された場所を引っかく(刺激を受けた刺胞が毒針を発射する恐れあり)
  • 真水をかけて洗い流す(浸透圧の差が刺激になって毒針が発射される恐れあり)
  • 酢をかける(一部のクラゲ毒には有効とされるがカツオノエボシの場合は逆効果)

以上の注意点は行政機関や水族館が出している情報をまとめたものです。

しかし、個人ブロガーが書いたネット記事などに「酢が有効」などと記載されてしまっており、情報が錯綜しているように思えます。

注意点を細かく覚えるのが大変という方は、

  • とにかく素手で触るな
  • 真水とか酢とか余計なものをかけるな
  • さっさと病院いけ

この三つだけ覚えておきましょう。

カツオノエボシを食べる生物

カツオノエボシが人間にも危険な毒を持つことを紹介しましたが、なんとこのカツオノエボシを食べてしまう生物がいます。

その名をアオミノウミウシと言います。

アオミノウミウシ
少し見えづらいですが、生きたアオミノウミウシです。

カツオノエボシと同じく美しい青色をしていますが、名前の通りウミウシの仲間です。

多くのウミウシの仲間は岩場やサンゴなどの上にいる底生生物ですが、アオミノウミウシは海を漂っていることが多いです。

このアオミノウミウシは、カツオノエボシを含むクラゲ類食べてしまうだけでなく、彼らが持つ刺胞を体内に取り込み、自分の体表面に配置します。

つまり、獲物の毒針を手に入れてそのまま自分の防具として活用するんです。

補足:刺胞を取り込む能力

アオミノウミウシ以外のミノウミウシの仲間でも、刺胞を飲み込んで自分の毒針として活用する行動が確認されています。また、この行動を盗刺胞(盗刺胞機構)と呼びます。

この事実自体はテレビや普通のYouTuberも紹介していますが、よく考えると全く持って謎に満ちた、チート級の能力に思えます・・・。

毒針を発射させずに食べられるのはまだ理解できます。特定の毒に耐性がある動物は割と多いですから。

しかし、基本的に他の生き物を食べる時は分子レベルまで分解してしまいます。消化吸収しても毒が効かないのはいいとして、どうやって刺胞を壊さずに体表面まで運んでいるのか・・・。

人間に例えるなら、植物をたくさん食べた人が葉緑体を手に入れて光合成するようなものです。まさにチート級と言えるでしょう。

なお、以上のことから分かる通り、アオミノウミウシも猛毒を持っています。

非常に美しい見た目の生物ですが、もし見つけても素手で触らないよう十分にお気を付けください・・・。

参考文献

※本記事は2022年3月までにWebサイト『The World of Sharks』に掲載された記事を加筆修正したものです。

※カツオノエボシを含む有毒生物の害を受けた場合の処置については、必ず行政や専門家が公表している情報を参照してください。

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