【世界初】単独でホホジロザメで襲うシャチ!たった2分で内臓を引きずり出す・・

2024年3月1日 学術雑誌『African Journal of Marine Science』に、南アフリカのシャチが群れではなく単体でホホジロザメを襲っている様子についての論文が掲載されました。

南アフリカで以前から背鰭が極端に折れ曲がっている2頭のシャチ、ポートとスターボードがサメを次々に襲っていることが話題になっており、今回そのサメ狩りコンビの片割れスターボードが、小さいホホジロザメを単独で仕留める様子が公開されました。

シャチが単独で狩りをした前例自体はあるものの、ホホジロザメを一等で襲う様子が記録されたのは世界初だと思われます。

  • 一体どのような狩りが行われたのか?
  • こうしたサメ狩りの影響でホホジロザメの個体数に変化はあったのか?
  • これらのサメ狩りはシャチに何か影響を及ぼすことはあるのか?

今回は発表された論文の内容をもとに、上記のような疑問にお答えできればと思います。

目次

解説動画:単独でホホジロザメで襲うシャチ!たった2分で内臓を引きずり出す・・

このブログの内容は以下の動画でも解説しています!

※動画公開日は2024年4月3日です。

シャチ単独でホホジロザメを襲う

まずは今回記録されたシャチによるサメ狩りを紹介していきます。

狩りの様子が撮影されたのは2023年6月18日、場所は南アフリカのモーセル湾です。

モーセル湾は南アフリカ沿岸部の大都市ケープタウンから東に約400km地点にあり、以前に複数のシャチがホホジロザメを襲う動画もこのモーセル湾で撮影されました。

14時17分頃:サメ狩りコンビを発見

シャチの目撃連絡を受けて出発していた船ワイルドキャット号が、岸からほど近い場所にあるSeal islandという小島付近で、ポートとスターボードの2頭を発見しました。

波の少ない滑らかな水面にはミナミオオセグロカモメが海に飛び込んでいる様子が見え、辺りにはサメの肝臓独特の臭いがただよっており、既にサメが襲われていることが示唆されていました。

そのままボートが2頭のシャチを追っていると、ポートがSeal islandの北側に向かい、スターボードと100m以上離れた島の反対側に移動します。

15時02分頃:スターボードが単独でホホジロザメを追う

その後、2.5mほどの小さいホホジロザメが水面に現れ、スターボードがそれを追う様子が確認されました。

スターボードはサメの左胸鰭に噛みついて数回サメに頭突きのような攻撃を加え、最終的には内臓を引きずりだしました。スターボードがサメを追いかけてから仕留めるのに、たった2分しかかからなかったそうです。

なお、この捕食行動が観察された場所から100mほど離れた場所でケージダイブをしていた別の船Shark Warriorに乗っていた研究者が、肝臓を加えて泳ぐスターボードを撮影しています。

今回もシャチは肝臓だけ食べていったようです。

さらにその翌日の2023年6月19日、3.55mほどのホホジロザメが肝臓を抜き取られた状態でモーセル湾の海岸に打ち上がっているのが見つかりました。

このサメが襲われる瞬間は目撃されていませんが、船が現場に到着する前に襲われていたサメだと推測されています。

実際の映像はコチラ↓

小さいサメだから単独で仕留められた?

シャチが単独で狩りをすること自体は前例があるものの、ホホジロザメを単独で襲う様子が学術的に記録されたのは今回が初めてです。

たったの2分でホホジロザメを仕留めてしまうと聞くとやはりシャチは凄いなと感じますが、この出来事のさらに1年前のシャチは、もっと時間をかけてチームでサメを襲っていました。

2022年にサメ狩りが撮影された際、スターボードを含めた6頭のシャチが共同でホホジロザメを襲う様子が目撃されています。

シャチの存在に気付いたホホジロザメはシャチの周りをグルグル回るように泳いで距離を保っていましたが、そこに別のシャチが加わって沖への逃げ道を塞ぐようなチームプレイで狩りが行われていました。

これら一連の狩りには2時間ほど要しており、サメ1尾に対しシャチ6頭で狩りをしていたので、やはりシャチと言えどもホホジロザメは一筋縄ではいかない相手のようです。

今回単体のシャチがわずか2分でサメを仕留めたのは、ホホジロザメの大きさが2.5mとまだ小さかったことも要因の一つだと思います。

人間からすれば2.5mのサメは割と大きいと思いますが、ホホジロザメは出産の時点で1m以上の大きさがあり、大きいものは6m近くにまで成長します。2.5mなら恐らく未成熟の子供です。

論文の著者の一人アリソン・タウナー博士も「より大きなホホジロザメを仕留めるには協同で狩りをする必要があるかもしれない」と考察を述べています。

シャチのサメ狩りでホホジロザメは減少しているのか?

このようにシャチがサメ狩りを行うと、周囲の海域からホホジロザメがいなくなってしまうことがあります(詳しくはコチラ)。

では、こうしたシャチによるサメ狩りで、ホホジロザメの生息域や個体数に変化はあったのでしょうか?

これについて結論から言えば、移動しているだけで個体数は減っていないという意見と、シャチに関係なく減っているんじゃないかという意見があります。

まず2023年に発表されたヘザー・ボウルドリー氏らがまとめた研究によれば、フォールス湾やハンスバーイでホホジロザメの目撃件数が減少していたものの、そこからさらに東のモーセル湾での目撃およびアルゴア湾での混獲が増加しました。

このため同研究では、南アフリカ全体の個体数は彼らが保護されるようになった1991年から減少しておらず、シャチの捕食を含む何らかの要因で東に移動しただけではないかという結論に至っています。

南アフリカのホホジロザメ確認事例の推移簡略図

しかし、別の研究者エンリコ・ジェナリ氏が、それに反論するような記事を投稿します。

ジェナリ氏の主張をまとめる以下の通りです。

  • 東側で確認事例が増えたのはドローンの普及や釣り技術向上などの影響が大きいかもしれず、そのことがボウルドリーの研究では考慮されていない。
  • 西側にいたホホジロザメが東に移動しただけなら、東側のアルゴア湾でもっと多くホホジロザメが確認されているのではないか?
  • フォールス湾やハンスバーイでホホジロザメの減少が始まったのは2013年だが、サメ狩りコンビのシャチが最初に確認されたのは2015年なので時期が合わない。

要するに、ホホジロザメは移動したのではなく数が減ってしまっており、その背景にはシャチとは別の要因があるのではないかと指摘しているのです。

どちらの見方が正しいのかここで断定的に論じるのは難しいですが、いずれの研究者もホホジロザメが現地の生態系において重要な存在であるという点では意見が一致しています。

また、ホホジロザメが移動または減少をすると、

  • 移動先の海域で地域でシャークアタックが起きやすくなる
  • 移動先の海域でホホジロザメの混獲が増えてしまう
  • ホホジロザメが減少した地域でケージダイブ産業の収益が下がってしまう

など、人間とホホジロザメの関係性における変化も懸念されています。

ホホジロザメ狩りの先駆者とでもいうべきポートとスターボードはどこから来たのか?ホホジロザメの数や行動はどう変化するのか?今後も注目していく必要がありそうです。

南アフリカではホホジロザメのケージダイブが盛んです。

ホホジロザメ狩りはシャチ側にもリスクあり?

シャチによるサメ狩りが話題になると、サメが人間の敵だと思い込んでいる人や、魚類よりも哺乳類の方が優れていて価値があると決めつけている人が湧いてきて、シャチを過剰に礼賛したりサメを蔑むことがあります。

捕食対象の一種というだけで蔑んだり魅力や価値が劣っていると決めつけることは知性と品性に欠ける言動だと思いますが、そこまででするほどシャチが好き過ぎる方々にこそ認識して欲しい問題があります。

それが汚染物質が生物濃縮するリスクです。

生物濃縮とは、食物連鎖を通して生物の体内に化学物質が蓄積していく現象です。

化学物質の中には水に溶けにくいため尿などで排出しづらく、体内(特に脂肪)に溜まりやすいものがあります。

こうした化学物質を動物プランクトンが体内に取り込み、その動物プランクトンを小魚が食べ、その小魚を大きな魚が食べ、その大きな魚をサメや鯨類が食べ・・という風に、栄養段階が上にいけばいくほど体内により多くの化学物質を溜め込みやすくなります。

もともと体内で毒を生成できないフグ類がテトロドトキシンを持っているのもこの生物濃縮によるものです。

また、四大公害の一つとして知られる水俣病も、生物濃縮でメチル水銀化合物を溜め込んだ魚介類を人が食べたことで発生しました。

生物濃縮のイメージ図。栄養段階が上に行くほど汚染物質を溜め込みやすい。

この生物濃縮のメカニズムを見れば察しが付く通り、高次捕食者であるシャチはPCBなどの汚染物質を蓄積しやすい動物の一つです。

しかもシャチなどの鯨類は母乳を通して汚染物質を子供に伝えるので、世代を超えて長期間汚染されてしまいます。

そして、サメ類の体内で脂肪が特に蓄えられている場所(すなわち最も生物濃縮によって汚染物質を溜め込みやすい場所)は肝臓です。

こうしたことを考えると、ホホジロザメという高次捕食者の中でも頂点に位置する存在の肝臓ばかり食べるシャチは、最も海洋汚染の影響を受けやすい動物かもしれません。

もちろん、これはあくまで「仮説」や「懸念」という段階です。

この問題をもっと本格的に議論するなら、南アフリカの大型サメ類がどの程度汚染されているのか?ポートとスターボードはどれくらいの頻度でサメを襲っているのか?などの詳細を明らかにする必要があります。

しかし、本当にシャチが好きなら捕食行動の勝った負けたで騒ぐだけでなく、彼らに迫る環境問題についても理解を深めて欲しいなと思います。

参考文献

  • A Towner, P Micarelli, D Hurwitz, MJ Smale, AJ Booth, C Stopforth, E Jacobs,FR Reinero, V Ricci, A Di Bari, S Gavazzi, G Carugno, M Mahrer & E Gennari『Further insights into killer whales Orcinus orcapreying on white sharks Carcharodon carcharias in South Africa』2024年
  • BBC(Victoria Gill)『Killer whale v shark: Solo orca eats great white』2024年(2024年4月6日閲覧)
  • Enrico Gennari, Neil Hammerschlag, Sara Andreotti, Chris Fallows, Monique Fallows, Matias Braccini『“Uncertainty remains for white sharks in South Africa, as population stability and redistribution cannot be concluded by Bowlby et al. (2023): “Decline or shifting distribution? a first regional trend assessment for white sharks (Carcharodon carcharias) in South Africa”』2024年
  • Heather D. Bowlby, Matt L. Dicken, Alison V. Towner, Sarah Waries, Toby Rogers, Alison Kock『Decline or shifting distribution? A first regional trend assessment for white sharks (Carcharodon carcharias) in South Africa』2023年
  • Science X Network(Stellenbosch University)『Conservation actions for South Africa’s white shark population now a matter of urgency, say researchers』2024年(2024年4月6日閲覧)
  • The Conversation『South Africa’s great white sharks are changing locations – they need to be monitored for beach safety and conservation』2023年(2024年4月6日閲覧)
  • the Guardian『Single orca seen killing great white shark off South African coast』2024年(2024年4月6日閲覧)
  • 水口 博也『シャチ生態ビジュアル百科 第2版: 世界の海洋に知られざるオルカの素顔を追う』2023年
  • 村山司『シャチ学』2021年
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