ニホンカワウソは何故絶滅したのか?特徴や分類の問題、絶滅の経緯から生き残り説まで徹底解説!

日本では、良くも悪くもカワウソが大人気です。

以前の記事で「カワウソのペットブームにより海外のカワウソが危機に陥っている」という辛口の記事を前後編に分けて投稿しましたが、実はかつて日本に野生のカワウソがいたことはご存じでしょうか?

今回は日本でもう見られなくなってしまったカワウソであるニホンカワウソについて、分類や絶滅の経緯、生存の噂について解説をしていきます。

目次

解説動画:何故ニホンカワウソは絶滅してしまったのか?実は生き残っているのか?

このブログの内容は以下の動画でも解説しています!

※動画公開日は2020年10月29日です。

ニホンカワウソの特徴

「ニホンカワウソ」とは文字通り、食肉目イタチ科カワウソ亜科に分類されるカワウソ類の中で、日本に生息していた固有のカワウソを指す名称です。

かつては日本各地に生息していましたが、2012年に環境省に絶滅を宣言されてしまいました。

絶滅の原因や経緯の前に、まずはカワウソ全般に共通するものも含め、ニホンカワウソの特徴を紹介していきます。

体が大きい

まず、イタチ類の中では体が大きいです。

例えばペットして家畜化されたフェレットの体重は重くても1.5~2㎏ですが、ニホンカワウソは5~11㎏ほどです(上の写真はユーラシアカワウソですが、ほとんど同じくらいの大きさだったとされています)。

カワウソは水中を泳ぐことが多いため、体温を奪われにくい大きな体を進化の過程で獲得したものと思われます。

泳ぎに適した体つき

カワウソは水の中を泳ぐのに適した流線形の体をしており、指の間には水棲生物らしい広い水かきをもっています。

また、カワウソの尾は他のイタチ科の動物よりも太くて長いのが特徴です。

この尾には泳ぐ時のかじ取りとしての役割があります。

水中生活に適した頭

カワウソの頭は平たく、目・鼻・耳が顔の上部にまとまっています。

これにより、水面から目や鼻を少しだすだけで周囲を警戒したり呼吸をすることができます。

ちなみに、カバ、カピバラ、ワニなど水中生活に適応した動物を見てみると、どれも顔のパーツが頭の上部に配置されています。まさに収斂進化ですね。

防寒に優れた毛皮

カワウソは長くて荒い毛の内側に短くて細かい毛がびっしりつまっている二重構造をしています。

この二重構造は皮膚が直接濡れることを防ぎ、さらに空気を毛の間に閉じ込めることで断熱効果を生み、水の中で体温が下がり過ぎないようにカワウソを守ってくれます。

日本文化におけるカワウソ

カワウソは現在「海外の生き物」というイメージがありますが、かつて日本各地の河川や湖沼、水田、海辺に暮らしていました。

その存在は古くから知られ、様々な日本文化の中にも登場しています。

日本酒の獺祭

カワウソは漢字では「獺」と書きます。

お酒が好きな方ならすぐにピンとくると思いますが、獺祭という日本酒の名前に使われている文字です。

獺祭を作っている旭酒造さんの所在地が「獺越」という場所なので、そこから一文字とって獺祭と名付けたそうです。

ちなみに、獺越の他にも青森県の獺野、福島県の獺渕、福井県の獺河内など、カワウソの文字が入った地名が各地にあります。

ニホンカワウソの当時の分布や個体数については不明なことも多いですが、こうした地名があることを考えても、日本各地で身近な生物だったと思われます。

なお、元々この「獺祭」という言葉は、カワウソが捕まえた魚を岩場に並べておく様子が祭りをしているように見えたからできた言葉だとされています。

河童のモデルはカワウソ?

誰もが知っている妖怪の河童のモデルは、実はカワウソではないかとされています。

河童と言えばクチバシと亀の甲羅を持つ緑色の化け物というイメージが有名ですが、実はサルやカワウソをモデルにしたと思しき毛深い河童の絵が存在します。

たしかにカワウソは水の中を素早く泳ぎ回る上に頭が平たいため、泳ぎが得意で皿を頭に乗せている河童のイメージに通じるものがあります。

また、カワウソは前足で何かをつかんだり、二本足で立ちあがるなど人間臭い仕草を見せることもあるため、どこか人型の妖怪っぽさをかんじさせます

ニホンカワウソは大きいものでは1mを超えることもあります。

水辺で立ち上がっているカワウソを見た人が、人間の子供に化けようとしている妖怪と見間違うことはあったのかもしれません・・・。

ニホンカワウソは亜種か?固有種か?

日本にカワウソがいたことは事実ですが、ニホンカワウソが日本に固有な種なのかどうかについては議論が分かれています。

カワウソと呼ばれる動物のグループには、ラッコを含め現在10種以上の仲間が分類されています。

このカワウソ類の分類において、日本に棲んでいたカワウソは当初、ユーラシアカワウソ(Lutra lutra)という欧州やアジアにも生息するカワウソの亜種だとされてきました。

亜種を平たく説明すると「別種に分けるほど違ってはいないが、同じ種とするには差がある」という仲間を指します。

しかし、1989年に日本の博物館の標本や遺跡で発掘された骨を調べた研究者が、「ニホンカワウソはユーラシアカワウソとは別種であり、Lutra nipponとすべし」という内容の論文を発表しました。

さらに、1996年にニホンカワウソの遺伝子を調べた高知大学の研究者は、「ニホンカワウソとユーラシアカワウソの塩基配列の違いには亜種以上の開きがある」と結論付けています。

これ以外にもニホンカワウソを独立した種であるとする研究はありますが、専門家の間では意見が割れているのが現状です。

例えば、あらゆる生物の絶滅リスクを評価しているIUCNレッドリストには「ニホンカワウソ(Lutra nippon)」という種は掲載されておらず、日本のカワウソの絶滅についてはユーラシアカワウソ(Lutra lutra)のページ内で紹介されています。

また、日本の環境省が出しているレッドリストはニホンカワウソをユーラシアカワウソの亜種としており、さらに北海道のものはLutra lutra whiteley、本州以南のものはLutra lutra nipponとして二つの亜種に分けています。

この分類の話を掘り下げると大変複雑なので、ひとまず非専門家の方は以下のような理解で十分だと思います。

ニホンカワウソの分類についてザックリまとめ

  • ニホンカワウソはもともとユーラシアカワウソの亜種とされてきた。
  • 最近の研究で、ニホンカワウソは日本の固有種だったという説が提唱されている。
  • ただし、専門家や研究機関の中でも意見が割れている。

ニホンカワウソ絶滅の経緯

ニホンカワウソは日本各地に古くから生息する身近な存在でしたが、冒頭で言った通り現在彼らの姿を見ることができません。

絶滅の一番大きな原因は、各地で行われた乱獲だと思われます。

昔の日本(江戸時代や明治初期)にも狩猟の制限はありましたが、それは治安維持や社会秩序を保つためでであり、生物多様性を保護するためではありませんでした。

そもそも、生態系や生物多様性およびその保全という概念すら存在しなかったと思われます。

そして明治初期のあたりから、狩猟する時期も数もほとんど制限ない中で数多くの大型動物が数を減らしていきました。

コウノトリやトキなど日本の絶滅危惧種(あるいは絶滅種)として有名な動物が数を減らしていったのもこの時期だと言われています。

ニホンカワウソの場合も例外ではなく、毛皮や肝を狙った乱獲が各地で起こりました。

先述の通り水棲生活をするカワウソの毛皮は、タヌキやキツネのそれより優れた保温性を持っています。

そのためにカワウソの毛皮は当時の人々に重宝され、過去には同じイタチ科の仲間であるテンの毛皮の2倍~8倍の価値で取引されたという記録もあります。

また、工業化する前の日本にとっては良い輸出品となったようで、アメリカやイギリスに高級素材としてカワウソの毛皮を輸出していました。

さらに当時「カワウソの肝は結核などの病気に効く」という噂が流れ、カワウソの肝やそれを使った漢方薬が高値で取引されていました。

当時のデータが不足しているため正確な減少ペースなどは分かりませんが、1900年を過ぎたあたりから捕獲記録が急激に下がり、第二次大戦後は信頼できるか微妙な報告がいくつかとあった後、北海道と本州から姿を消しました。

長く見積もったとしても、恐らく高度経済成長が始まる前に北海道や本州のカワウソは絶滅していたと思われます。

カワウソ最後の地:四国地方

ニホンカワウソが最後まで生息していたとされるのが四国地方です。

北海道や本州のカワウソが姿を消していく中でカワウソの激減が世に認知され、カワウソの保護活動が行われるようになりました。

愛媛県では1953年にカワウソの生息地発見を促すように新聞で呼び掛けが行われ、1961年にニホンカワウソは愛媛県の天然記念物、1964年には国の天然記念物、翌年には特別天然記念物に指定されました。

また、高知県でもカワウソの個体数調査が始まり、メディアでもカワウソについて取り上げられることが増えていきました。

しかし、そうした活動や関心の高まりの甲斐なく、その後もカワウソの数はどんどん減っていきました。

四国のカワウソが減ってしまった原因には複合的な理由があると思いますが、道路工事や護岸工事、磯の埋め立てなどによってカワウソの餌場や泊まり場だった場所が壊されてしまったことは大きいと思います。

また、カワウソがいる場所は良い漁場でもあるため、漁業に使う網やワナに捕まって溺死してしまう個体も多くいました。

さらに、地元動物園が飼育下で保護するためにカワウソの捕獲を呼び掛けたのですが、捕獲や移送の時点で衰弱していたり、飼育個体が死んでしまったりしたため、結果的にカワウソの個体数を減らす結果になってしまいました。

こうして数を減らしていったニホンカワウソは1990年代にはその姿はおろか痕跡すら見つからなくなり、その後信頼できる確認報告がなく、2012年に絶滅が宣言されました。

1979年8月に高知県で撮影されたニホンカワウソ。信頼できる最後の目撃事例とされています(内田実氏撮影・アクアマリンふくしま展示)

ニホンカワウソは現代も生きているのか?

メガロドンなどの古代生物もそうですが、絶滅動物には「実はどこかで生きているのでは?」という生存説がつきものです。

ニホンカワウソも例外ではなく、信憑性はともかくとして目撃事例が一定数報告されています。

その多くは他のイタチの仲間や、ヌートリア、ハクビシンを誤認したものですが、2017年と2020年に「ニホンカワウソではないか?」とされる映像が公開されて話題になりました。

2017年:対馬のカワウソ

2017年の映像は対馬で撮影されました。

当時「ニホンカワウソの生き残りかも?」と話題になったのですが、後に糞に含まれる遺伝子を調べた結果、対馬のカワウソはニホンカワウソではなく、韓国に生息するユーラシアカワウソと近縁の可能性が高いとされています。

カワウソが泳ぐ距離は長くても3~5㎞程とされているためどこからやってきたのか疑問ですが、韓国から対馬に流れる海流に乗ってくることはあり得そうですし、そもそも人によって持ち込まれた可能性もあります。

実際のニュース映像はコチラ

2020年:高知のカワウソ

2020年9月、ニホンカワウソ最後の生息地である高知県にて、ニホンカワウソと思しき動物の動画が公開されました(映像自体の撮影は2017年8月)。

撮影したのは高知県の任意団体に所属する男性で、釣りキャンプの最中に偶然撮れた映像とのことです。

不鮮明なこともあり本当にニホンカワウソなのか分かりませんが、もし本当にニホンカワウソなら世紀の大発見です。

実際のニュース映像はコチラ

カワウソが生きていける環境が残されているのか?

ニホンカワウソ生存説はメガロドン生存説よりは多少信ぴょう性があるかもしれません。

しかし、仮にニホンカワウソが生き残っていたとしても、手放しで喜べるかと言われれば僕は微妙です。

何故なら、仮にニホンカワウソが生きていたとしても、カワウソと僕たちが共存していくための環境が整っているように思えないからです。

  • 川辺や海岸はカワウソが住みやすい場所になっているのか?
  • 漁業者や養殖業者などカワウソの被害にあいそうな人たちは対策できるのか?
  • ロードキルからカワウソをどうやって守るのか?

カワウソが生きていたとしても、こうした問題について考える必要があります。

また、ニホンカワウソは行動範囲が非常に広い動物です。

そのため、一部分を保護区にするような対策ではなく、人間の生活や経済活動が及ぶ範囲もカワウソに配慮して保全策を設計する必要があります。

さらに、ペット需要についても個人的に心配です。

以前の記事で解説した通り、絶滅危惧種である他国のカワウソ(コツメカワウソなど)を輸入・密輸してペットにするという異常なブームが起きています。

自国のカワウソを絶滅させたくせに他国のカワウソを危機に陥れるのは国際的に恥ずべき愚行そのものですが、水族館のカワウソ展示スペースの前で「カワウソって飼えるらしいよ」という声はいまだによく聞きます。

また、カワウソペット問題を取り上げた僕のYouTube動画に寄せられた低レベルな批判の数々を考慮すると、「カワウソは可愛くて好きだけど生態系保全なんてどうでもいい」という残念な人々が一定数いるのは確かです。

※カワウソペット問題動画に対する批判とそれに対する反論はコチラを参照。

そうなると、ニホンカワウソが生存していても「ペットにして飼おう」あるいは「販売しよう」と考え連れ去ってしまう事例や、リスクを考えずに安易に餌付けする問題が発生し、保全の取り組みがぶち壊されるかもしれません。

カワウソの再導入は現実的なのか?

こうした問題は、ニホンカワウソが生存していた場合だけでなく、カワウソの再導入を議論する際にも考える必要があります。

先述の通りニホンカワウソと他国のユーラシアカワウソは別種と言ってもよいほどの差があるため、そもそも再導入することに僕は否定的です。

しかし、仮に再導入をするとしても、先ほど挙げた生息域や人間との関係における問題点に対処しなければ失敗に終わってしまうでしょう。

近年では日本でのオオカミ再導入が一部で検討されたり、絶滅した生物を遺伝子工学で蘇らせる「de-extinction(脱絶滅)」と呼ばれる技術も注目を集めていますが、生物の存続は他の生物(人間含む)や生息環境との関係性なしでは語れません。

再導入や脱絶滅の取り組みにおいても「今の生態系に導入して問題ないのか?現在の人間社会と上手くやっていけるのか?」という命題に向き合うべきだと僕は思います。

参考文献&関連書籍

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