トラフザメの特徴や生態を解説!ジンベエザメの仲間?長い尾鰭の意味は?メスだけで子供を産む?

サメの中には「ネコザメ」や「イヌザメ」、あるいは「タイガーシャーク」など他の動物の名前が入った仲間も多いですが、今回はそんな中の一種、トラフザメを解説します!

数多くの水族館で展示されているので「トラフザメは知ってるよ~」と思うかもしれませんが、実は意外に謎が多いサメでもあります。

今回はトラフザメの特徴、長い尾びれの謎、不思議な繁殖方法などについて解説していきますので、これを読んでぜひトラフザメへの理解を深めていただければ幸いです。

目次

解説動画:ジンベエザメの仲間?メスだけで卵を産む?寅年ということでトラフザメを解説します!【Zebra shark】【Stegostoma fasciatum】【水族館】【明けましておめでとうございます】

このブログの内容は以下の動画でも解説しています!

※動画公開日は2022年1月10日です。

トラフザメはどんなサメ?

トラフザメはテンジクザメ目トラフザメ科に分類されるサメで、その姿は一般に想像されるサメの姿とはかけ離れています。

世間一般のサメと言えば、以下のようなイメージがあると思います。

  • シャープな顔つき
  • 鋭く大きな歯
  • 流線形のスマートな体
  • 三角形の大きな背ビレ

しかし、トラフザメはあらゆる形でそのイメージを裏切っています。

まず、顔が丸っこくて少し頭でっかちです。ポケ~っとした顔に何とも言えない可愛さがあります。

歯は生えていますが、楯のような形の細かい歯が並んでいて、とても人食いモンスターには見えません。

背ビレについても基底部が広いわりに高さが低く、全然ジョーズ感が無いです。

サメっぽくない姿のトラフザメ

トラフザメの長すぎる尾ビレ

トラフザメの大きさは全長3mに達することもありますが、尾びれが非常に長く体の半分くらいを占めています。

そのため、全長(Total length)が大きいトラフザメでも、体長(尾ビレ手前までの全長:Pre-caudal length)で考えると、そこまで大きくはありません。

そんな長い尾ビレなら何か重要な役割がありそうですが、何故尾ビレが長いのかよく分かっていません。

トラフザメは泳ぐ時もどこかきこちなく、「そんな尾ビレにしない方が良かったのでは?」と思いたくなるようなユーモラスな泳ぎ方をします。

そもそも泳がずに底の方で大人しくしていることも多いです。

尾ビレの長いトラフザメ。
水槽の底でじっとしているトラフザメ。

基本的にはサンゴや岩の間に潜む獲物を食べるというとされており、確かに高速遊泳しなくても生きていけるようですが、ならば何故尾ビレが長いのか?まだその答えは出ていません。

ちなみに、同じく尾ビレが非常に長いサメとしてオナガザメの仲間が有名ですが、彼らはネズミザメ目というグループの仲間であり、トラフザメとは分類が離れた仲間です。

※オナガザメの解説はコチラ

トラフザメはジンベエザメの仲間?

トラフザメを見て「ジンベエザメに似てる!」と言う人がたまにいます。

ジンベエザメはあまりにも有名かつ特徴的なので「ジンベエザメはジンベエザメ」という感じがしますが、分類学的にはテンジクザメ目ジンベエザメ科の一種です。

トラフザメも同じくテンジクザメ目なので、広いグループ分けでは近い仲間ということになりますね。

テンジクザメの仲間は共通して「口が目よりも前にある」という特徴があります。

例えば「ザ・サメ!」という見た目のメジロザメの仲間では、口の端より前に目が来ています。

しかし、テンジクザメ目は口が前の方に来ていて、だいたい丸っこい顔つきをしているので、ちょぼんとした、マスコット的な表情の子達が多いです。

メジロザメの仲間(ツマグロ)。口の端が目より後ろにあります。
トラフザメを含むテンジクザメ目は口の端が目よりも前にある。

また、トラフザメとジンベエザメには「体に独特の隆起線が入っている」という共通点もあります。

たまに水族館でトラフザメを見た子供が「ジンベエザメだ!」って叫ぶときがありますが、こうして特徴を並べてみると、案外本当に似ているのかもしれません。

トラフザメはヒョウ柄?シマウマ柄?

トラフザメは名前に「トラ」とついているのに、写真で分かる通りトラ模様ではありません。

トラと言えば縞模様ですが、トラフザメの体には縞ではなくて斑点模様があります。どちらかと言えばヒョウ柄ですね。

この姿を見ると、「ヒョウザメ」や「レオパードシャーク」と呼びたくなりますが、実はトラフザメとは全く別のグループにヒョウザメやレオパードシャークと呼ばれるサメがいます。

もうこの時点で紛らわしいのですが、トラフザメの英名はさらに混乱を招きます。

トラフザメの英名はゼブラシャークです。直訳すると”シマウマザメ”です。

和名は”トラ”フザメで、英語が”シマウマ”ザメ、さらに体は”ヒョウ柄”。1つのサメの名前をめぐって動物園の人気者が集結するカオスな状況になっています。

実は「ゼブラシャーク」という名前は、幼魚の頃の模様に由来しています。

トラフザメの幼魚は丸っこい顔や長すぎる尾ビレなどの身体的特徴は成魚と同じですが、色や模様の入り方が根本的に異なっており、「ゼブラ」という名前が確かに似合います。

トラフザメの幼魚

生まれた当初はこのゼブラ模様なのですが、成長するにつれて徐々にこの模様が崩れて、色もベージュっぽくなっていきます。

水族館で幼魚を展示している場合、だんだんと成魚の模様に近づいているのが確認出来るので、もしそういう展示を見つけたら、ぜひ年パスを買って定期的に観察してみてください!

トラフザメはメスだけで子供を産む?

トラフザメの繁殖について、非常に面白い事象が確認されています。

それが、単為生殖です。

簡単に言えば、メスだけで子供を産むということです。

2015年、オーストラリアの水族館で、オスがいない水槽で飼育されていたメスのトラフザメが41個の卵を産み、そのうち3個が孵化しました。

産卵したトラフザメは3年前からオスとの接触はなく、産まれた子供を調べたところ、メスの遺伝子しか持っていない子供であることが確認されました。

単為生殖自体はウチワシュモクザメの事例をはじめ前例がありましたが、今回のトラフザメのケースにはさらに興味深いポイントがあります。

実はこのトラフザメは、以前に雄と交尾して普通に卵を産んだ経験があったんです。

かつてオスと一緒に飼育されていて両性生殖で卵を産んだ後、2012年以降は別の水槽に移されました。そして、3年後の2015年、オスのいない環境で単為生殖を行ったんです。

サメ社会学者Ricky

ちなみに、サメの仲間は精子を胎内に長期保存することもありますが、今回生まれた赤ちゃんは遺伝子も調べられ、単為生殖の可能性が高いことが示されています。

つまり、このトラフザメは、「一度両性生殖をおこなってから単為生殖に切り替えた」ということになります。

単為生殖を行う生物はサメ以外にも多く確認されていますが、両性生殖をおこなった個体が、後に単為生殖を行った事例は珍しいそうです。

オスがいても単為生殖?

さらに面白い事例が、アクアワールド茨城県大洗水族館でも確認されました。

アクアワールド大洗ではオスとメスのトラフザメが同じ水槽で飼育されていて、卵の産卵、2個体の孵化が確認されました。

しかし、飼育している4個体と孵化した2個体についてマイクロサテライトDNA分析を行ったところ、メスの遺伝子しか確認されず、単為生殖であることが判明しました。

つまり、交尾する相手が一緒の環境にいたにもかかわらず、その精子を使わずに自分だけで子供(卵)を産んだということです。

なんだかオスが可哀そうになってきますが、もちろんオスに魅力がなかったとは必ずしも言えず、「メスとオスの発情期がなんらかの要因で違ってしまっていた」などの原因も考えられます。

実際、アクアワールド大洗は日本で初めてシロワニの繁殖に成功していますが、この研究の中で発情期が合うように水温などを調整するという工夫が行われました。

「単為生殖という行動はオスと出会えない閉鎖環境という異常な場所だから起きる現象」のように言う人もいますが、今回紹介したトラフザメの事例を考えると、そうも言えなくなってくる気がします。

水槽の底の方で大人しくているぽけっとした顔のマスコット的トラフザメが、近い将来サメの生殖に関する重大発見のきっかけになるかもしれません・・・・。

参考文献&関連書籍

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