最強のサメをひっくり返して捕食・・シャチのホホジロザメ狩りがカリフォルニア湾でも発生

これまで南アフリカやオーストラリアで確認されたシャチによる”ホホジロザメ狩り”が、メキシコでも確認されました。

2025年11月『Frontiers in Marine Science』に、カリフォルニア湾で撮影された、若いホホジロザメを襲うシャチの映像についての論文が掲載されました。

映像にはシャチたちが協力してホホジロザメを無力化し、内臓を引きずり出して食べる様子が記録されていました。

その狩りの様子から、シャチたちが高度なテクニックを駆使してサメを襲っていることや、サメ類を狙うシャチたちの存在が示唆されています。

  • では、シャチたちはどのようにホホジロザメを襲ったのか?
  • 今回の事例からどんなことが考えられるのか?

今回はカリフォルニア湾でホホジロザメを襲うシャチというテーマで解説をしていきます。

目次

解説動画:最強のサメをひっくり返して捕食・・シャチのホホジロザメ狩りがカリフォルニア湾でも発生

このブログの内容は以下の動画でも解説しています!

※動画公開日は2026年5月5日です。

同じ場所でホホジロザメがシャチに三度襲われる

早速論文の内容をもとに、今回記録された狩りについて紹介していきます。

今回狩りが確認されたのはメキシコ、カリフォルニア湾です。「カリフォルニア」と聞くと米国をイメージしますが、国としてはメキシコ国内に位置しています。

このカリフォルニア湾では以前に、シャチの群れがジンベエザメを襲う様子が複数回記録された場所でもあります(詳しくはコチラ)。

今回は合計3件、シャチがホホジロザメを襲う様子が記録され、その映像が分析されました。

1件目&2件目の狩り:2020年8月15日

最初の狩りが記録されたのは2020年8月15日、カリフォルニア湾内の南西部で、サメを襲っているメスのシャチの群れが確認されました。

シャチの群れは4mほどの亜生体4頭と6mの成熟個体1頭で構成されており、襲われていたサメは2mほどだったと推定されています。

論文著者の一人であるエリック・ヒグエラ氏(Erick Higuera)はナショナルジオグラフィックの取材に対し、後に映像を分析して、襲われていたサメがホホジロザメだと分かったと話しています。

狩りの中ではシャチがサメを水面まで押し上げる様子や、腹を突き上げられたサメが出血する様子が収められていました。

サメの方も方向転換したり尾鰭を勢いよく動かす「Tail Slapping」と呼ばれる回避行動を取って抵抗していましたが、シャチによってひっくり返された状態で沈んでいった後、肝臓を加えたシャチ達が浮上してきました。

左:シャチに襲われて暴れるホホジロザメ 右:ホホジロザメの肝臓を咥えるシャチ

このことから、攻撃して弱らせたり動きを封じた後で腹部を引き裂き、他で記録されたサメ狩りの時と同様に肝臓だけ引きずり出したものと思われます。

2回目の狩りが記録されたのは、そこから1分もしないうちでした。

シャチたちは先ほどと同じく2mくらいの若いホホジロザメに複数回攻撃をくわえ、約4分ほどのうちに腹から肝臓を引きずり出していました。

3件目の狩り:2022年8月3日

次の狩りが記録されたのは2022年8月3日で、場所は先2回の狩りと同じ場所でした。

この狩りで登場したシャチは成熟したオス一頭とメス一頭、亜生体2頭と子供1頭で構成された群れで、襲われたのは前回と同じく2mほどの小さなホホジロザメでした。

映像では成熟したメスがホホジロザメを口にくわえたまま水面で息継ぎする様子が確認できました。

シャチ達はサメを水中に引きずり込んでから引き裂いていたようで、息継ぎに上がってきた子供が肝臓を加えている様子も記録されていました。

シャチに咥えられるホホジロザメ

今回の狩りの注目すべき点

今回の事例で注目すべき点は、以下の3点です。

  • シャチがホホジロザメを仕留めるために高度なテクニックを確立させていた
  • 今回の狩りに参加していたシャチが、他の板鰓類の狩りでも確認されている
  • 若いホホジロザメが複数回、同じ場所で襲われている。

順番に解説していきます。

シャチのサメ狩りテクニック

今回の狩りで、シャチ達がホホジロザメをひっくり返すような動作をしていることが確認されています。

これは、トニックイモビリティと呼ばれる現象を、シャチが狙って引き起こそうとしていた可能性を示唆しています。

トニックイモビリティとは、サメ類を含む動物が気絶したようにパタッと動かなくなる現象です。サメの場合は体をひっくり返す、または吻にあるロレンチーニ器官を刺激した時などに起きます(詳しくはコチラ)。

シャチがいくら強いといっても、ホホジロザメも大きくて鋭い歯と力強い筋肉を持つ危険な動物です。当然反撃されて怪我を負うリスクがあります。

恐らくシャチ達は反撃されるリスクを回避しつつ、効率的に肝臓という栄養価の高い部位を引きずり出すため、サメをひっくり返してトニックイモビリティを引き起こしていると思われます。

カリフォルニア湾に板鰓類特化のシャチがいる?

今回紹介したのはホホジロザメを襲うシャチでしたが、カリフォルニア湾では他の板鰓類(サメ・エイのグループ)がシャチに襲われた記録があります。

例えば冒頭で話したジンベエザメの他、危険ザメでお馴染みのオオメジロザメ、非常に珍しい深海ザメのコギクザメ、外洋を泳ぐ珍しいアカエイの仲間カラスエイ、小さなマンタみたいな姿のムンクイトマキエイなどです。

これらの狩りでもシャチたちは尾鰭でエイを気絶させてから食べるなど、独特の狩りのテクニックを披露していました。

尾鰭でエイを気絶させて食べるシャチ↓

ここで注目したいのが、今回ホホジロザメを襲っていたシャチの中に、オオメジロザメやカラスエイ、ムンクイトマキエイを襲っていた時のメス個体が確認されたことです。

以前に紹介したジンベエザメ狩りの際も、モクテスマと呼ばれるオス個体およびそれと行動を共にしていたシャチが狩りで複数確認されており、同じように肝臓を引きずり出す様子が確認されています。

このことから、カリフォルニア湾には板鰓類の狩りに特化したシャチのグループがいる、あるいは今まさに形成されつつある可能性が高いと思われます。

同じ時期・場所で若いホホジロザメが襲われる

一連の狩りが行われたのは全て8月で、ほとんど同じ海域でした。そして、狙われたのはどれも若いホホジロザメでした。

ホホジロザメは産まれる時点で全長が1.2~1.5mほどあり、だいたい全長3~5mほどで成熟するとされています。全長2mというのは、まだ幼いと言ってもいいかもしれません。

ホホジロザメ幼魚の剥製(オガワアートさん製作)。奥のネコザメなどと比べれば大きいですが、これでも0歳と思われます。

過去に東太平洋のホホジロザメの回遊パターンを調べた研究では、ホホジロザメには帰巣性がある、つまり一定のルートで回遊した後、同じ場所に戻ってきていることが示されました。

妊娠個体のメスが出産して子供が育つ場所も、海域ごとにある程度決まっている可能性があります。

同じ時期、同じ場所で若いホホジロザメが2年という周期で襲われているということは、シャチたちは「この時期にここに来ればホホジロザメの肝臓が食べられる」と旬の食材にするかのごとく食べに来ている、あるいはそうなりつつあるのかもしれません。

シャチによるホホジロザメ狩りは気候変動と関係あり?

カリフォルニア湾のホホジロザメ狩りをどう見るべきでしょうか?

論文内で取り上げられていた中で注目したいのが、海水温上昇の影響です。

夏が来るたびに「温暖化」というものを嫌というほど痛感していると思いますが、その影響はサメ類の生態にも及んでいます。

2021年に発表された論文では、熱波の影響で海水温が上昇したことにより、北太平洋に生息するホホジロザメの生育場所が北上していることが示唆されました。

海水温上昇でホホジロザメの行動範囲が変わったことにより、まだシャチの脅威に迅速に対処できない若いホホジロザメたちが、シャチに襲われやすくなった可能性があります。

もちろんこれはあくまで可能性の話であり、本当にそうなのかはまだ断定的なことは言えません。

シャチのホホジロザメ狩りがカリフォルニア湾やその他の地域で記録されるようになったのは生態系の変化なのか?それともドローンなどの技術発展で見つけやすくなっただけなのか?まだ議論の余地があります。

この辺をはっきりさせるには、シャチがサメを襲う頻度を調べるなど、さらなる研究が必要です。

しかし、もし人間活動の影響でサメの行動パターンが変わり、それがシャチによる捕食増加を招いているとしたら?そしてそれがホホジロザメの個体数に大きく影響するとしたら?

ネットでは「どちらが強いのか?」や「サメはシャチの餌」など浅いレベルの話で終わりがちですが、もしかするとシャチによるサメ狩りという営みには、“自然の摂理”や”弱肉強食”などの言葉で安易に片づけるべきではない問題が隠れているのかもしれません。

まとめ

今回はカリフォルニア湾で起きたシャチによるホホジロザメ狩りについて解説を行ってきました。

シャチがホホジロザメを食べるという現象自体は野生動物同士の関わりですが、そうした状況が起こりやすい環境を人間が作っている可能性はあります。

仮にそうではなくても、シャチがどれくらいの頻度で、どのサメを、どうやって食べているのかを理解することは、シャチとサメどちらを守ることにもつながるでしょう。

今後もこのトピックは紹介していく予定ですので、乞うご期待です。

参考文献

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