愛知県の島で起きた連続人喰いザメ事件の真相とは?文春が報じた日間賀島の悲劇を徹底解説!

2025年5月に文春オンラインにて、愛知県の日間賀島でかつて発生した、サメによる複数の死亡事故に関する記事が掲載されました。

各記事タイトルには「連続人食いザメ事件」「右上半身が丸々噛みちぎられ…」など、刺激的な言葉が使われており、サメが人間を”食料”とみなして襲っていた可能性や、サメの攻撃と地震を関連付けるような仮説など、気になる内容が紹介されていました。

人間がサメに連続で襲われるというのは映画『ジョーズ』を彷彿とさせる恐ろしい(そして興味深い)内容ですが、週刊誌に悪いイメージを持つ人は「本当にこんな出来事あったの?聞いたことないけど・・」と思うかもしれません。

そこで今回は、一連の文春の記事の内容はどこまで妥当なのか?愛知県の日間賀島で起きたシャークアタックについて僕なりに解説してみます。

目次

解説動画:愛知県の島で起きた連続人喰いザメ事件の真相とは?文春が報じた日間賀島の悲劇を徹底解説!

このブログの内容は以下の動画でも解説しています!

※動画公開日は2025年6月9日です。

文春が掲載した記事の概要

まずは一連の記事の概要を簡単に紹介します。

記事を書いたのは伊藤秀倫さんというフリーライター(元文藝春秋)です。今回のサメ記事を書く前にヒグマに関する記事を複数執筆しており、人選としてはピッタリな気がします。

襲われた人が全員死亡

伊藤氏は以前に日本で人がサメに襲われたケースを調べている中で、愛知県の日間賀島周辺の海域で過去に複数の事故が起きていたという記録を見つけます。

日間賀島および周辺海域では1938年頃から1950年までの間に8件のサメによる事故が発生し、被害者全員が死亡していました。

日間賀島周辺で起きたサメ事故の記録。伊藤氏が参照したものと同じ参考文献をもとに作成した年表。

これが異例であると感じた伊藤氏は「“禍々しいもの”が漂っているように思えた」として、サメが人間を明確に“食料”とみなして積極的に襲っていたのではないか?という問題提起をします。

その後、伊藤氏は実際に日間賀島で被害者の親族を取材したり、専門家が過去にまとめた資料を調べるなどして、1947年5月に起きた事故と、1950年8月に起きた事故の概要を突き止めます。

1947年5月に被害に遭ったのは当時19歳の男性で、モミジガイ(貝と名がつくもののヒトデの仲間)を潜水漁で捕まえている最中に、腹のあたりを横から噛まれて死亡したそうです。

1950年8月の事故では、銛を使ってカレイやクロダイなどを捕まえていた潜水漁師がサメに襲われて亡くなっています。現場にいた方は、「メジロザメ科のサメによく似ていた」という証言を残していました。

1995年に起きたホホジロザメによる事故

さらに伊藤氏は、1995年に愛知県渥美半島で起きた事故がホホジロザメによるものだったことに触れ、時期や場所は異なるものの、日間賀島の連続事故もホホジロザメによるものだった可能性に言及しています。

この渥美半島の事故では、スキューバ潜水漁をしていた漁師が右側の腕や肩などを大きく噛み千切られて即死しています。

  • 傷跡の大きさと現場にいた方の証言をもとにしたサメのサイズ
  • レギュレーターに残された鋸歯によるものと思しき傷跡
  • 当時の水温が15℃程度であったという事実

などの根拠から、ホホジロザメによる事故だと結論付けられています(詳しくはコチラも参照)。

実際のホホジロザメ。

サメによる襲撃は地震の影響?

最後に伊藤氏は、水生生物の専門家だという人物を取材します。

小沢という仮名しか紹介されていないこの人物は、「単独のサメか複数のサメによるものか?」や「サメが人を襲うことを覚えて襲撃を続けたのか?」などの疑問に対し明確な回答を避けつつ、事故が連続した原因についてある仮説を提示します。

それが南海トラフ地震の影響です。

事故が連続した期間中の1944年には熊野灘沖を震源とする昭和東南海地震が、1946年には潮岬沖を震源とする昭和南海地震が、それぞれ発生しています。

小沢氏は「思いついただけ」「科学的な裏付けは何もありません」と断りを入れつつ、サメ類が電流や磁場を感じ取るロレンチーニ器官を持っていることに触れ、さも地震とサメの事故に関連性があるかのように匂わせました。

「この1943年とか1946年とか、サメ被害のあった年で何か思いつくことはないですか?」(中略)「地震ですよ。南海トラフ」

「サメ類やエイ類には『ロレンチーニ器官』と呼ばれる生物が発する微弱な電流や磁場を感知する感覚器官が備わっています。これにより海中で獲物を探したり、また地磁気情報を受け取る能力もあるとされています。地震が頻発するということは、海中でも磁場の変化があるはずです」

サメに襲われ→「全員が死亡」の“異常事態”に…愛知県の“連続人食いザメ事件”で専門家が語った“意外すぎる仮説”とは?』より引用専門家だという小沢(仮名)の言葉として記されている。

ヨゴレのロレンチーニ器官。

伊藤氏はこの説が正しいと断言したわけではありませんが、「それぐらい異常なことが起こっていなければ、説明がつかない事象であった」という、微妙に肯定するような文を添えています。

最終的に伊藤氏は、シャークアタック検証の難しさに触れ、結局完全な真相は謎のままであるとして記事を終えています。

一連の文春記事のまとめ

以上をもとに伊藤氏の主張を僕なりに整理すると、以下のようになると思います。

  • 1938年~1950年に愛知県の日間賀島周辺で、サメによる連続死亡事故が発生していた。
  • この死亡事故の頻度は異常であり、単独にしろ複数にしろ、人間を積極的に襲うサメがいた可能性がある。
  • 襲ったサメの種類や単独か複数かなどの詳細は今となっては確かめようがないが、地震の影響など何か特別な背景があったのかもしれない。

文春の気になる部分やツッコミどころについて

一連の記事全体を見ると、

  • 専門家による文献を根拠にしている
  • 現地取材という一次情報を取り入れている
  • シャークアタック研究における立証の難しさにも触れている

などの点で、良い記事だとは思います。

しかし、サメの生態やシャークアタックについて調べている者として補足したいところがあるので、順番に解説させてください。

なぜ今まで事故が話題にならなかったのか?

文春を含む週刊誌に悪いイメージを持っている人からすると、「そもそも実際にこんなことがあったの?」というところから疑いたくなると思います。

サメ愛好家の中にも「愛知県で連続したサメ被害なんて聞いたことがない」という人もいるでしょう。

これについては、国会図書館に参考文献があるという記述があったので、実際に僕も国会図書館で同じ文献を確認してきました。

『海洋と生物』という学術系月刊雑誌の2002年10月に発行された号で「サメと人と」というテーマで特集を組んでおり、その中で故・矢野和成先生が1935年~2002年前に起こったサメによる人的被害の年表を掲載しています。

そして年表内には確かに、日間賀島周辺でサメによる死亡事故が起きたことが記されていました。

これらの事故の根拠とされる大元の参考文献まではさすがに辿れなかったのですが、あの矢野先生がまとめたくらいなので、事故自体が実際に起きていることは確かでしょう。

そうなると、なぜ今まで話題にならなかったのか?という疑問が出てきますが、これはただ単に事故が古いのと、情報が少なすぎて語るべきことがあまりないからだと思います。

参考文献を見る限り、日間賀島での一連の事故は襲った種はおろか、どのくらい大きいサメだったのか?どこを噛まれて亡くなったのか?その時の水温や透明度はどうだったのか?などの情報が不足しています。

伊藤氏の取材で多少情報は追加されましたが、事故そのものについて断言できることが正直ほとんどありません。

このように研究や被害防止という観点から語れることが少ない事故は、サメに詳しい人ほど扱いづらいのだと思います(実際に僕も本件を動画やブログで扱うべきか迷いました)。

日間賀島ではサメが人間を積極的に狙っていたのか?

伊藤氏は記事の中で、以下のような問題提起や質問をしています。

「この日間賀島のサメは――単独犯か、複数犯かは不明だが――人間を明確に“食料”とみなして積極的に襲っていたのではないか?」

「全員が死亡」「叔父さんがサメに襲われて死んだ」愛知県の“小さな島”で起きた、凄惨な“人食いザメ事件”の深いナゾ』より引用

では、例えば人を襲うことを覚えてしまったサメが日間賀島周辺に長期間居ついて、襲撃を続けたということはありうるのでしょうか?

サメに襲われ→「全員が死亡」の“異常事態”に…愛知県の“連続人食いザメ事件”で専門家が語った“意外すぎる仮説”とは?』より引用専門家・小沢氏への質問として記されている。

こうした文章から、伊藤氏がローグ・シャーク理論に近い考えを持っていることが伺えます。

ローグ・シャーク理論を端的に説明すると「人間を一度攻撃したサメが人間を好んで襲うようになる」という説です。

『ジョーズ』のモデルになったとされるニュージャージー州サメ襲撃事件が、複数ではなく一尾のサメによるものだったという仮定のもとに提唱されました(ローグ・シャーク理論についてはコチラも参照)。

では、日間賀島での連続事故はローグ・シャークによるものなのかと言えば、事故が古すぎて情報不足であり、厳密な検証はできません。

しかし、文春の記事で触れられなかった否定的要素を紹介することはできます。

ローグ・シャーク理論的推測の問題点①:事故の間隔が空きすぎている

先程お見せした年表を見れば分かる通り、日間賀島の事故は、毎年1件かそれ以下の頻度で発生しています。

もし人間を好んで襲うサメが日間賀島近海にいたのだとすれば、各事故の間隔が空きすぎています。

事故が起きた直後は海水浴や漁業が中止になるとしても、しばらくしたら再会するはずです。人間を食料と見なして襲うサメがいたとすれば、もっと短期間で複数の事故が起きていたと思われます。

年1回かそれ以下の頻度での死亡事故というのは、最近の傾向で言えばエジプトと同じくらいです。

確かにやや多めですが、日本自体が漁業や海水浴が盛んな島国であることを考慮すると、異常な頻度とまで言えるのかは疑問でしょう。

ローグ・シャーク理論的推測の問題点②:事故が起きた時の環境

事故当時の環境はさすがに分かりませんが、テレビなどで紹介されている日間賀島の潜水漁を見ていると、かなり透明度が悪そうです。

透明度の悪い環境というのは、サメが人間を本来の獲物を見間違えるリスクを高めますし、もし銛などで魚を捕まえていたなら、魚が暴れる音や血の臭いがサメを引き寄せる要因になります。

つまり、人間を食料として好んで狙うサメを想定するまでもなく、ただ単にサメの事故が起こりやすい環境だった可能性があります。

ローグ・シャーク理論的推測の問題点➂:死亡率の高さ→積極性と言えるか?

もう一つ気になるのが、死亡率の高さだけで「サメが人を積極的に狙っていた」と言えるかどうかという問題です。

「サメによる死亡」と聞くと「喰われた」というイメージを持ちがちですが、実際には噛まれたことによる失血死がほとんどです。

またサメが防衛反応で噛んだだけなのに、噛まれた場所が悪くて被害者が死亡してしまったという不幸な事例も存在します。

事故が起きたのは第二次世界大戦前後の時代であり、伊藤氏が取材をした現地住民も「昔だもんが医者もここら(島)にないがね」と仰っています。

各被害者がどの部位をどの程度噛まれて、どのように死亡したのか詳細が分からないので憶測ですが、サメが人間を食料として見なして襲っていない、比較的小さい怪我であったにもかかわらず、当時の医療体制の問題で死亡事故になってしまったという可能性があります。

もちろんそうではないかもしれませんが、安易にローグ・シャーク理論に飛びつく前に、その辺りも精査すべきです。

伊藤氏は記事の中で「偶発的な不幸では片付けられない“禍々しいもの”が漂っているように思えた」としていますが、以上のようなことを踏まえると、別に禍々しいものは何も漂っておらず、ただ不幸な事故な事故が続いただけの可能性も十分にあると思います。

襲ったサメの種類は何だったのか?

一連の事故を起こしたサメについて、記事では襲ったサメがホホジロザメである可能性に言及しつつ、筆者・伊藤氏も専門家・小沢氏もはっきりとした断定はしていませんでした。

確かに、ホホジロザメによる事故だった可能性はあります。

サメに詳しくない方のためにおさらいをしておくと、そもそも人間に噛みついて致命傷を与えるサメは全体のごくわずかです。

560種近くいるサメのほとんどが、人間よりもずっと小さな動物を主に食べていたり、そもそも人間と出会う機会が少なかったりして、人命に関わる事故を起こすような存在ではありません。

その中でホホジロザメ、イタチザメ、オオメジロザメは例外的に危険な種であり、ほとんどのシャークアタックはこの3種によるものとされています。サメによる死亡事故とだけ聞いて、まずこの3種の可能性を検討するのは自然です(危険なサメ類についてはコチラも参照)。

この危険ザメ3種のうち、オオメジロザメは沖縄県近海や宮崎県など温かい海に分布が限られています。イタチザメはもう少し北の方でも記録がありますが、やはり比較的暖かい水温を好むサメです。

イタチザメ
オオメジロザメ

したがって、低水温でも現れる可能性があり、実際に愛知県近海で死亡事故の記録もある、ホホジロザメによる事故だとするのは、一定の妥当性があります。

ホホジロザメが三河湾や伊勢湾まで入ってきた事例がどの程度あるのか分かりませんが、三河湾にはスナメリという、ホホジロザメのご馳走になりそうな小型鯨類が生息しているので、もしかしたら入ってくることもあるのかもしれません。

また、伊藤氏の取材により1947年の事故は5月に起きたと判明しましたが、過去の研究で、日本におけるホホジロザメの出産時期は九州以北では4~5月で、和歌山県のあたまりまでに出産場所があると推定されています。

したがって、出産前後の大型個体が愛知県近海にいた可能性もあるでしょう。

ただし、どういう状況で、どの程度の噛み傷で被害者が亡くなったのか分からないので、何とも言えません。

先程触れた通り、ホホジロザメよりもずっと小さなサメに噛まれ、噛まれた場所が悪かったり止血が間に合わなくて亡くなったという可能性もあります。

「水温が低かっただろう場所で起きた死亡事故」という理由だけで、ホホジロザメと断定するのは難しいです。

地震とサメ事故に関連性はあるのか?

本記事最大のツッコミどころは、南海トラフ地震とサメの事故を関連付ける仮説です。

地震によってサメの目撃や遭遇率が増えると示す科学的な根拠は存在せず、ロジックにもだいぶ無理があります。

記事内で挙げられた地震は以下の三つです。

  • 1944年:昭和東南海地震
  • 1945年:三河地震(内陸直下型)
  • 1946年:昭和南海地震

今回問題になっているのは1938~1950年の間に起きたシャークアタックなので、これらの地震そのものだけでなく、その前後に起きたプレート移動などもサメに影響するということになりそうです。

そうなると、その後に起きた東日本大震災や能登半島地震の前後数年においても、サメ類が漁獲量が増加したり事故が多発するなどの現象が見られるはずです。ところが、そのような傾向は僕が知る限り確認されていません。

そもそも日本では小さいものを含めれば、かなり頻繁に地震が起きています。

もし地震の影響で大型サメ類が沿岸に集まるなら、日本は世界有数のケージダイブスポットになっているか、シャークアタックの発生件数がオーストラリア並みになってないとおかしいでしょう。

記事中で触れられたロレンチーニ器官について、確かにサメ類はこの器官を使って電気を感じ取ることができ、電場を感じ取ることで自分の方角を知ることができるという説もあります。しかし、だから地震の前後で行動を変えるかと言われれば別問題です。

この点について、「科学的な裏付けはない」と記事内でも言っているのだから大目に見るべきと感じる人もいるかもしれませんが、それでも地震というのは悪手だったと思います。

「大地震」や「電流や磁場」という言葉はニセ科学や陰謀論などのトンデモ界隈の大好物であり、すでに「メガマウスの出現は地震の前兆である」というトンデモに利用された前例があります(メガマウスザメ地震前兆説についてはコチラも参照)。

メガマウスザメ。このサメの出現が地震の前兆とする噂には科学的根拠がありません。

もちろん根拠の弱い憶測も、情報がない中で突き詰めるべき仮説として機能したり、新しい視点を提供してくれることがあるので、僕も紹介することはあります(この記事内でも憶測を紹介しています)。

とはいえ、最低限の妥当性は問われるべきであり、地震の影響というのはその基準を満たしていないように思えます。

正直、「科学的な裏付けのない単なる思い付き」というなら専門家の肩書で話した理由が謎ですし、記事でも取り上げて欲しくなかったです。

まとめ

今回は、文春オンラインで紹介された、愛知県日間賀島における連続シャークアタックについて解説をしました。

記事についての僕の補足をまとめると以下の通りです。

  • 日間賀島周辺でサメによる死亡事故が続いたことは恐らく事実である。
  • しかし、人間を食料と見なして狙うサメがいたとする根拠はなく、そうではなかった可能性を検討する余地はまだまだ存在する。
  • 一連の事故がホホジロザメによるものだった可能性は確かにあるが、記事にある通り断定はできない。
  • 地震とサメ事故を関連付ける仮説はほとんどトンデモであり、「単なる思い付き」などの前置きがあっても看過できない。

伊藤氏が最後の締めくくりで述べた通り、シャークアタックの検証は難しく、曖昧なことしか言えないことも多いです。

しかし、検証が難しいからこそ科学的な事実を丁寧に拾い上げ、憶測を述べる際も一定の根拠を持つということが大事なのだと思います。

参考文献

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